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JAL、“安全”への取り組みを強調した第67期定時株主総会
中期経営計画最後の年度「3つの目標を完遂して終えたい」
2016年6月23日 16:25
- 2016年6月22日 開催
JAL(日本航空)は6月22日、第67期定時株主総会を開催し、議長を務めた同社代表取締役社長の植木義晴氏らが2015年度の業績と主な活動を報告するとともに、中期経営計画の最後の年である2016年度の意気込みを語った。総会のなかでは運航の安全の重要性と、それにかかわる取り組みを繰り返し説明し、経営方針などについて株主に理解を求めた。
国際線と比べ落ち込む国内線のサービスは「すべての面で見直す」
2016年3月期(2015年4月~2016年3月)の同社の業績は、4月に決算発表があったとおり、営業収益は1兆3366億円で前期比0.6%減とわずかに落ち込んだものの、営業利益は同16.4%増の2091億円、経常利益は19.4%増の2092億円と大きく上向いた。この背景として、日本経済が緩やかな回復基調にあり、国外の経済も一部を除き回復傾向にあること、さらに訪日客数の大幅な増加が影響していると解説した。
2010年に経営破綻したあと、再建に取り組む同社が発表した2012年~2016年の中期経営計画では、3つの大きな目標として、「JALグループの存立基盤」であるとする「安全運航」の実現に加え、「顧客満足ナンバーワン」になること、5年連続で「営業利益率を10%以上とし自己資本比率を50%以上」に高めることが示されていた。
中期経営計画の最後の年となるこの2016年度は、以上3つの目標の「総仕上げ」のタイミングとなる。目標のうち自己資本比率については53.4%、営業利益率は15.7%と、直近の数値ではそれぞれすでに達成している状況にあることを報告した。
顧客満足においては、JCSI(サービス産業生産性協議会)による2015年度の調査で、同社の国際線が首位を獲得している。これに関連する取り組みとして、成田~ダラス・フォートワース間の旅客便を2015年3月以降毎日運航し、10月から羽田~上海間と羽田~杭州間に新規路線を開設。ビジネスクラスにはフルフラットシートを、エコノミークラスには「新・間隔エコノミー」の名称で座席の足元に余裕のあるシートを装備した「SKY SUITE」機材をそれぞれ導入したことを説明した。
成田空港ではサクララウンジ「ザ・ダイニング」を3月にリニューアルオープンしたほか、訪日客向けには7言語対応の案内サイト「JAL Guide to Japan」を開設している。さらに、発表時期から見て顧客満足のランクとは無関係だが、米国のFlightStatsによって主要航空会社部門の定時到着率で世界1位に認定されたことも付け加えた。
一方で国内線における顧客満足は5位に甘んじている。2015年は天草エアラインとのコードシェア、75日前までの予約で適用される「ウルトラ先得」による割引運賃設定便の増加、短時間で荷物の預け入れが可能な「JALエクスプレス・タグサービス」の拡大、羽田空港の保安検査場の待ち時間をスマートフォンで確認できるサービス、伊丹空港での無料充電ステーション設置、などといった施策を打ち出しているものの、顧客満足にはその効果がまだ明確には現れていないようだ。これについては、「空港、客室、予約、すべての面で見直し、欠点をあぶり出して改善を進めている」とした。
人材、システム、文化のレベルアップで“安全運航”を実現へ
同社が最重要項目として掲げる安全運航に関しては、総会会場で複数の株主から具体的な対策を求める意見、質問があった。2016年2月23日に新千歳空港でエンジントラブルにより負傷者が発生する航空事故があったことや、2015年度はそのほかに5件の重大インシデントが発生していることなどを受けてのものと思われる。
こうした意見、質問について、植木氏およびほかの担当取締役からその場で明確な回答が示された。例えば新千歳空港における航空事故では、天候の急変によって積雪で航空機が身動きできなくなり、凍結などによりエンジンに不具合が発生したことが主原因となっている。そのため、「(凍結防止のための)エンジンをふかす手順」などをより一層徹底する施策を進めるとした。
エンジントラブルの未然防止策としては、事前の確実な運転試験も重要となる。同社ではボーイング 777型機などが採用する大型エンジンの試運転設備は所有しておらず、現在は羽田空港にあるANA(全日本空輸)の設備を借りている状況だが、これについても大型エンジン搭載機の導入が増えていることを鑑みて、独自の試運転設備を導入することも検討していると語った(小型エンジンの試運転設備はすでに所有している)。
安全面については「長年培ってきた豊富な経験をもとに、安全に関わる人材育成、システムの進化、文化の醸成の3つ」を推進して対策していくことも明らかにした。システムを進化させてもそれを制御するのは人であり、事故に至らないまでもヒューマンエラーは起きうるものではないか、という質問も株主からあったが、インシデントになり得る「エラーの芽」を摘むために、事故に至らない小さなトラブルについても「(当事者に)ありのままに語ってもらって把握し、再発防止を検討する」という“非懲戒”の制度を2007年から実施していることを説明し、「安全の層を厚くする」能力を高めていると回答した。
路線ネットワークについては、「規模拡大だけを狙わず、路線ごとの採算性を十分に見極めて」構築し、国際線では欧米、東南アジア路線に経営資源を集中的に投入するとした。ベトナム航空との提携を解消した件は、「(中期経営計画が終わる)2016年までは監視を受ける立場」であり、新規投資が制限されるなかで「ベトナム航空から出資にかかわる話があった(が受けられなかった)」と説明。それでも東南アジア方面への接続は重視する方針とし、キャセイ航空などとの提携も検討したいとした。
また、「常に新鮮な感動を得られるような商品サービスを提供する」ことも挙げた。例として特典航空券の利便性を向上させ、貯めやすく、使いやすいマイレージプログラムに改善していくことを約束した。グループマネジメントという面では、従業員1人1人が売上の最大化、経費の最少化を意識して“経営に参画”する、強固な組織体制としていく。さらに人材育成において、リーダーとなりうる人材やプロフェッショナルな人材の育成を主眼に、多様な人材が活躍し、周囲がそれを支援する環境作りを進めるとし、「変化の激しい航空業界で勝ち抜いていく強い意志をもって」これらに取り組んでいくと述べた。
最終的に2016年度は、安全運航、顧客満足ナンバーワン、5年連続営業利益率10%以上・自己資本比率50%以上という「3つの目標を完遂して終えたい」とし、自己資本比率は2016年度末に58%台になると見込んでいることも含め、「(目標達成の)可能性は十分にあると思っている。全社員諦めてはいない」と力強く語った。
なお、株主総会の出席者数は、前年度の1104名より大幅に減少し、674名。議決権行使者数は3万6811名、議決権数は199万2177で、余剰利益の処分(配当金額の決定)、定款の一部変更、取締役の選任、監査役の選任という5つの議案については原案どおり可決され閉幕した。