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日立製作所、グローバルな鉄道事業の事業戦略を説明

「鉄道車両のビッグ3の規模に着実に近づいている」

 日立製作所は、6月1日、アナリストなどを対象にした「Hitachi IR Day 2016」を開催。鉄道ビジネスユニットの事業戦略について、同社 執行役専務 鉄道ビジネスユニットCEOのアリステア・ドーマー氏が説明した。

株式会社日立製作所執行役専務 鉄道ビジネスユニットCEO アリステア・ドーマー氏

 同社の鉄道事業は、新幹線車両や通勤車両をはじめとした「車両およびメンテナンス」、駆動用電動機やインバーター、台車などの「電気品」によって構成される「車両システム」と、運行管理システムや無人運転システムなどによる「信号&運行管理」、旅客情報案内や発券・運賃収受などの「駅&情報ソリューション」で構成される「輸送システム/O&M(オペレーション&メンテナンス)」、そして、これらを含めて大規模プロジェクトとして鉄道システム全体を提供する「ターンキー」で構成される。

 現在の事業構成比は、車両システムが56%、輸送システム/O&Mが29%、ターンキーが15%となっている。また、英国に本社機能を置いているグローバル事業であることも特徴だ。

鉄道ビジネスユニット事業の概要
グローバルな生産能力の拡大
経営陣
2015年度実績

 2015年度は、既存事業での成長を達成する一方、2015年11月に、伊アンサルドブレダの株式を100%取得して、日立レールイタリアへとブランドを変更。さらに、アンサルドSTSの株式を今年3月時点で50.77%を取得。イタリアでの企業買収および統合により、欧州における事業を急拡大させている。2016年度には、全世界で5000億円の売上収益を見込める受注残を獲得するなど、成長戦略を加速しているところだ。

 鉄道ビジネスユニットの2015年度の売上収益は3526億円、受注高は4084億円、受注残が2兆438億円(いずれも統合後の実績)。「売上収益や営業利益率、フリーキャッシュフロー、受注残、受注高のいずれもが見通しに対して過達となっている。唯一、EBITマージンが見通しを下回ったが、これは為替の影響によるものである」とした。

 また、ドーマーCEOは、「2015年度は、強いビジネスを推進できた1年であった。そして、この3年で鉄道ビジネス構造を大きく変えることができた。買収によって、新たな事業を追加することができ、ターンキービジネスにも取り組むことができるようになった。コア市場である日本、英国、イタリアのほか、新興国や米国市場でも新たな案件を受注しており、欧州とアジアが同じ収益規模という、バランスのいい状況になっている」とした。

戦略的買収のクロージングを完了
2015年度の実績
国/地域ごとの新規受注(2015年度)
鉄道事業を支えるグローバルトレンド

 2015年度の実績としては、月産40両の能力を持つ英ニュートン・エイクリフ工場を新たに稼働したのに続き、米マイアミに約14万平方フィートの新工場を今年3月に設立。日本においては、北海道新幹線の開業に対応して、H5系車両および信号・運行管理システムを納入。英国ではIEP(英国都市間高速鉄道計画)において、Stoke Giffordに新たな保守拠点を設置するとともに、イーストコースト線におけるネットワーク試験を終了し、走行試験を開始したことを示した。

 また、イタリアのTrenitalia向けのETR 1000では、2015年6月から24編成の車両が営業運転を開始。2017年4月までに、50編成を納入するなど、主要プロジェクトが順調に進捗していることも示した。また、インドのジョイントベンチャーでは、現地パートナー企業と車軸カウンター製作のための合弁会社を設立。台湾向けの振子車両はすでに出荷を完了しており、計画通りに試験を実施している状況も明らかにした。

 なお、IEPに関しては、2016年度が生産のピークとなるものの、現時点では入金がない状況。2017年度以降、最初の入金が予定されている。そのため、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)は、2015年度には84日だったものが、2016年度には135日に拡大することになるが、2018年度には55日へと減少する見通しだ。

 ドーマーCEOは、「日立は、イタリアでの企業買収後、車両、システムを含めたフルラインアップを持つ、数少ないプレーヤーの1社に位置づけられている。ビッグ3の規模に着実に近づいている。また、グローバル市場において、大規模で複雑なターンキープロジェクトの受注に向けて、十分に競争できる体制を確立しているほか、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ=官民連携)市場において、ナンバーワンのシェアを持つなど、統合が進む鉄道業界において、有利なポジションを確保している」としながら、「グローバルなスケールメリットおよびローカルプレゼンスを活用することで、地域に根ざした情報の収集力やステークホルダーへの影響力を強化。グローバルにバランスが取れたプロジェクトポートフォリオを形成し、特定地域への過度な依存リスクを低減する」とした。

鉄道PPP市場でトップシェア
業界における地域の強化
戦略テーマと経営統合
グローバルなプロジェクト遂行力の強化

 たとえば、West of Englandプロジェクトにおいては、173両、3億6100万ポンドで契約したが、従来の生産能力であれば、リスク要因となっていたものを、イタリアでの車両製造開始などの新たなグローバル生産体制により、リスクが低減できるという。「生産拠点におけるグローバルの標準化を図ることで、品質の標準化も可能になる。効率性の高い体制を構築できる」と述べた。

 また、地域別売上収益のバランスにおいては、2014年度には、鉄道事業における売上収益のうち、日本が61%を占めていたが、2018年度にはこれを17%にまで縮小。欧州では、26%から54%に拡大するとともに、中国を含むアジアを14%に、北米では8%、その他地域で7%といったバランスを取った事業構造へと転換を図る。さらに、製品・サービス統合型ソリューションを強化することで、特定のサービスへの依存度を下げる計画であり、2014年度には74%を占めていた車両による売上収益を、2018年度には51%に縮小。一方で、1%に留まっていたO&Mおよびターンキーを24%(内訳はO&Mが8%、ターンキーが16%)へと拡大する。

「O&Mおよびターンキーによるサービス事業の売上収益拡大により、ポートフォリオの最適化が図れるとともに、長期間に渡る安定収益を確保できるようになる。IPEに対するサービス事業は、まだこのなかに含まれておらず、2018年度以降には、これが加わることで、さらにサービス事業の構成比が高まることになる」とした。

 日立では、IoTの活用により、次世代遠隔鉄道メンテナンスサービスを実現する考えであり、これにより鉄道の運行スピードやドアシステムなどを遠隔地からモニタリング。予防保守が可能であるほか、必要な場合にのみ現地に出向いて修理を行なうことで、メンテナンスに関わるコスト削減と、パフォーマンス向上が図れるという。

事業ポートフォリオの変化
IoTによる技術革新

 鉄道ビジネスユニットの2016年度の業績見通しは、売上収益が5000億円、営業利益は275億円、EBITは237億円、EBITマージンは4.7%。2018年度の目標は、売上収益(受注残高および新規受注)は6400億円、営業利益は513億円、営業利益率は8.0%。EBITは450億円、EBITマージンは7.0%。受注高は5803億円を目指す。鉄道市場全体では、2018年度までの成長率が3.5%となっているが、日立製作所ではそれを大幅に上回る13.1%増の成長率を見込んでいる。

2015年度業績
2018年度目標
業績推移
IEPのフリー・キャッシュ・フローへの影響
まとめ

「鉄道事業を取り巻く環境は非常にポジティブである。環境への配慮、人口増加といったことも鉄道への投資を促すものになる。さらに、日本政府の後押しもプラスに働く」などとしたほか、「受注残は、車両で2~4年で売上収益となり、ターンキーでは5年で売上収益に計上される。将来的には8~10%の営業利益率を獲得できる体質を目指していく」と述べた。

 一方で、今後の鉄道事業の方向性については、「今後は、日立と日立レールイタリアとの統合により、さらなるコスト削減、生産能力の最適化を図りたい。一方で、将来のM&Aについては、具体的なものを進めているわけではない。また、アンサルドSTSは、公開買い付けの成果は期待通りではなかったが、今後、高い価格で株式を積み増しするようなことは考えていない」と語った。

IEP(英国都市間高速鉄道計画)向け車両 CLASS 800/801
製造中のCLASS 800/801
500系新幹線