旅レポ
スマホを使って好きな場所で自転車レンタル&返却可能な「ミナポート」で秋の京都・東山巡り
(2015/12/2 00:00)
ロードバイクブームや自転車での旅行に慣れた海外からの観光客の間で、自転車を使った観光地巡りの需要が高まっている。ただ、日本各地でレンタサイクルサービスが提供されているものの、多くのサービスが専用のステーションに行かないと貸し出し・返却ができないため気軽に利用しにくいという現状がある。
そんななか、アーキエムズ、ソフトバンク、ソフトバンクグループのリアライズ・モバイル・コミュニケーションズの3社が、スマートフォンを使ったレンタサイクルのデリバリーサービス「ミナポートデリバリー」を京都市で開始した。これはスマホアプリ「ミナポート」から位置情報を送ることで、京都市内の対応エリアならどこでも自転車の配送やピックアップをしてもらえるというもの。
この「ミナポート」のサービス内容と、実際に利用して京都・東山を巡ったレポートをお届けしたい。
スマホ上から自転車をレンタルできるアプリ「ミナポート」
まず先にスマホアプリ「ミナポート」とそのサービスについて説明しよう。「ミナポート」アプリで利用できる自転車は、アーキエムズが運営・管理する京都のレンタサイクル「まちかどミナポート」。まちかどミナポートでは元々、2010年から京都市内の無人ステーションで自転車の貸し出し・返却を行なっていたが、今回のサービススタートで自転車のデリバリーも可能になった。
アプリ上で行なえるデリバリー方法は、対応エリア内の好きな場所に配送してもらう「いまここ配車」と、ホテルや駐輪場など市内8カ所の配達場所と利用日を指定して配車する「場所指定予約」の2種類。「いまここ配車」ではマップから現在地を指定してから台数を選択、「場所指定予約」では利用日と配達場所、台数を指定するという形だ。
自転車は「まちかどミナポート」の専用ワゴン車またはスタッフの人力で配達され、アプリからの申し込みからスタッフが到着するまでの所要時間はサービスの利用状況にもよるが5~10分前後。アーキエムズによると現在、自転車はメンテナンス分込みで100台を用意しているという。
自転車には前輪の中央にICタグがつけられており、配達の際はスタッフが端末でタグを読み取ることで車体を管理している。ICタグを読み取り後、利用者はスタッフ用端末に表示された利用規約を読んで「同意する」をタップ。そうすれば車体番号と鍵のナンバーが発行され、自転車が利用できるようになる。
なお、利用料金は自転車の使用代金が1日1000円、またデリバリー代については現在キャンペーン期間(終了日未定)ということで無料であるものの、本来は500円かかるとのこと。決済についてはクレジットカードのみだ。
実際に自転車をデリバリーして観光スタート
実際に「ミナポート」のアプリで自転車を配車してもらい出かけることに。目指すは鴨川の向こう、南禅寺をはじめとした東山エリアだ。今回は京都の地理に詳しいアーキエムズとソフトバンクの方に名所を教えていただいたうえで、ポイントとルートをGoogleマップのマイマップに書き込んでおいた。自転車は自由に移動できるメリットがあるが、土地勘がない場所だと迷いがち。行きたい場所やルートはあらかじめ絞っておく方がよいだろう。
朝、京都駅から地下鉄でオフィス街として有名な烏丸御池へ行ってから、車屋町通の近くの交差点で早速、アプリから配送の注文。手続き完了した後、すぐに配送スタッフから受け取り場所についての電話がかかってきた。
走り始めて気が付いたのは、京都中心街はどの大通りも車道や歩道に自転車用のレーンが設けられているので走行がしやすいことだ。自転車ユーザーに優しいという点でも、京都はサイクリングによる街巡りに適している。
ただし、注意したいのが市内の一部で自転車通行が規制されている場所があること。四条通や河原町通のように時間によって通行が制限される通りがあり、また先斗町通のように細い通りでは通行そのものが禁止されている場所がある。京都市産業観光局のサイトに「京都市河原町周辺の自転車通行規制マップ」という地図がPDFファイル(https://kanko.city.kyoto.lg.jp/bicycle/go/data/restricted.pdf)として掲載されているので、自転車を利用する前にあらかじめチェックしておくのがよさそうだ。
鴨川を越えて東山エリアへ
御池通りをほどなく進んで京都市役所を通り過ぎたら、早速、鴨川へ到達。鴨川の川風がピリッと冷たく心地よい。どこかで川のほとりに降りられる場所がないか探したものの、記者がいた御池大橋周辺は自転車が通行できるスロープがなく、そのまま裏道から三条まで南下して三条大橋から川を横断。その後、二条通まで走って平安神宮に到着した。ここまでの走行距離は約2.8km、徒歩では歩きなれない人だと疲れが見え始める距離だが自転車なら余裕だ。
平安遷都1100年を記念して明治28年(1895年)に創建され、平安京に遷都した桓武天皇と、平安京で過ごした最後の天皇である孝明天皇をまつっている平安神宮。しかし、大鳥居や遠くに見える應天門の朱色が空の青に映える様を楽しんでいたのもつかの間、大鳥居の写真を撮るためスマホをコートのポケットから出した際にアクシデントが発生した。
コートのポケットからスマホと一緒に鍵のナンバーが記載されたシートを出してしまい、シートが風に飛ばされてしまったのだ。番号が分からないとロックの開け閉めができない。あわてて、「ミナポート」のアプリでメニューから「レンタル状況」をチェックしたら、車体番号と鍵ナンバーが表示されてひと安心……。
南禅寺で自転車のありがたみを知る
平安神宮を通過したら南禅寺まですぐだ。疲労はまったくなく余裕で琵琶湖疎水を渡ってサイクリングしていたところ、南禅寺前交差点あたりから自動車量が増えてきて、さらに南禅寺前は渋滞に。ご存知のとおり、南禅寺は京都の古刹のなかでも特に有名な場所。それだけに地元の方によると観光バスやタクシー、車でやってくるお客さんは多いそうだ。
人が混んでくる門の前はさすがに自転車を降りて押さないといけないものの、渋滞の影響を受けにくいのは自転車のよいところ。また、南禅寺に限らず京都の有名な寺院は専用の駐輪場を設けているところが多いため、駐める場所の心配が少ないのもうれしいところだ。
南禅寺は臨済宗南禅寺派の大本山で、鎌倉時代に亀山法皇の離宮を禅寺に改めた寺院。歌舞伎「楼門五三桐」に出てくる石川五右衛門の「絶景かな絶景かな……」のセリフでおなじみの三門。遠くから見ても巨大さを感じさせ、近くで見ると自分が小さく感じてしまうほどのスケールだ。
三門をくぐると、散る紅葉の向こうに落ち着いた趣きでたたずんでいる法堂へ。こちらも三門同様にボリュームがあり、禅宗様式の寺院ならではの厳粛な雰囲気に見ていると身が引き締まる思いだ。この法堂の内部には釈迦如来像と文殊菩薩、普賢菩薩の三体の仏像がまつられている。
そして境内にある、琵琶湖疎水が流れる水路閣へ。レンガ造りのアーチが連なる西洋風の建築ながら、年月が経ったレンガの風合いは禅寺の境内にあっても違和感を覚えない。緑から赤に変化する途中の紅葉がレンガの赤に溶け込む様は幽玄さすら感じさせる。
南禅寺の次に向かったのが永観堂。浄土宗西山禅林寺派総本山の寺院であり、正式名称は禅林寺だが、通称の永観堂で広く知られている。また、永観堂は古今集にも「おく山の 岩がき紅葉 散りぬべし 照る日の光 見る時なくて」と称えられ、「モミジの永観堂」と呼ばれるほどの紅葉の名所だ。
南禅寺の紅葉が赤と緑の繊細なグラデーションを描いていたのに対し、こちらは赤の黄色の大胆なコントラストが映えており、同じ紅葉でも場所が違えば雰囲気が違うのかと驚かされる。鮮やかな美しさに魅了されたのか、海外からの観光客が木や庭園のまわりに集まって撮影する人の姿が多く見られた。
時間の関係上、全部は見てまわれなかったものの、総門から中門に進むまでの間に、紅葉の燃えるような色彩の隙間から智福院・宗学研究所の建物が垣間見えたのが趣き深い。
真如堂へ向かう道で自転車利用の試練にぶつかる
気がついたら走行距離が5kmに。永観堂まで来たのだから、ここでちょっと哲学の道に寄ってみようと思った。哲学の道は南禅寺・永観堂の近くから始まり、銀閣寺付近まで続く白川疏水通沿いの自然豊かな散歩道だ。道そのものは自転車で通るのは難しいが、一度風情ある道の風景を見てみたいと考え、いったん表通りである白川通に出てから哲学の道に交差する横道に入ってみた。
横道のゆるやかな坂をのぼり、もう1つ別の疏水通と鹿ヶ谷通を越えたところに哲学の道がある。哲学者の西田幾多郎が思索しながら歩いたというエピソードが名前の由来のこの道。桜並木はすでに落葉していたものの、自然が多く物静かな雰囲気は散策にピッタリそうだ。
ちょっと寄り道した後は、真如堂へ。真如堂は元々の名前は真正極楽寺といい、三重塔が有名だ。哲学の道から、白川通に降りて向かいの道に入ればすぐのところにあるのだが、少し進んで試練にぶつかった。
というのも真如堂への道は坂がけわしく、立ち漕ぎしても進むのが難しい。もっとも記者が日ごろ室内で原稿を書いてばかりのため、体力面で弱っちいということも多分にある。結局、走破するのは諦め、自転車を押して上までのぼることに。自転車は、渋滞には強いが上り坂には弱いので、坂を避けて走りたいという場合はマップアプリの地形表示や3Dマップでルートの確認を行なっておくとよいだろう。
へたばりかけながらたどり着いた真如堂だが、青い空に紅葉、抑えた色調の寺院と塔が連なる景色はまさに京の秋を体現したかのような美しさ。参道や境内に並ぶ紅葉は少し枝垂れており、思わず手を伸ばしてみたくなる。また小高い場所にあるせいか、人の往来は比較的少なめで喧噪さと無縁だ。
本堂で参拝して振り返ると三重塔の横に愛宕山の悠然とした景色が見え、苦労して坂を上ってきた甲斐があったと感じた。この後、境内の茶屋でお抹茶とお菓子をいただいてひと休み。茶屋から見える青空をバックにした三重塔は神々しかった。
東山を後にふたたび京都中心部へ
真如堂を出たら、少し駆け足気味の旅もそろそろ折り返し地点に。坂を下り、京都市中心部を目指して丸太町通りを走ったら、ほどなくして「権現さん」の愛称で親しまれている京都熊野三山の1つ、熊野神社が見えた。何気なく移動しているだけで由緒ある場所にたどり着くのは京都を走る楽しさかもしれない。
再び鴨川を渡ると「鴨川公園」という文字が目に飛び込んでくる。先の御池大橋・三条大橋からは自転車で川辺に降りることができなかったが、鴨川公園は自転車で進入できるということで降りて休憩。晩秋の川の風は冷たいものの、たくさんのトンビが舞い、サギが餌を探しているのが見えて気持ちが和む。日ごろ慌ただしい毎日を過ごしているだけに、川岸や川の流れる先を見ながらのどかに過ごせる時間は貴重だ。
最後に京都御苑を通り抜けて帰ることに。京都御苑は東京に遷都されるまで歴代天皇の住まいであった京都御所があり、今でも皇室との縁が深い場所。御苑は自転車の通行は問題ないものの砂利が敷いてあるため走行が難しく、自転車を降りて押していく。
かつて後水尾上皇の住まいとして建てられた仙洞御所の前を歩き、その後、京都御所の建礼門へ。平安時代の様式が再現された建築物や広大な面積の中に植えられたさまざまな植物、スケールの大きい道路、どれも歩いていて圧倒される要素ばかりだ。
京都を自転車で巡る魅力とは?
京都・東山巡りも終え、いよいよ自転車を回収してもらうことにした。出発した烏丸御池駅の隣である丸太町駅で「ミナポート」アプリを出し、「いまここ返却」をタップして回収場所を設定。10分ちょっとでスタッフが到着して、自転車を引き渡し、返却が完了した。
対応エリア内だったら好きな場所で回収してもらえるので、駅や宿泊先のそばなど自分にとって利便性が高い場所で自転車を返却できる。目的地巡りが終わった以外にでも、途中で疲れた、または雨が降ってきたなど、自転車走行が難しいシーンでもこのアプリでの返却は便利だろう。
今回のプランで走った時間は約6時間で、距離は約10km。写真撮影もしながらだったので少し時間がかかったと思うが、ランチを取りながらゆったりまわりたいという場合でも、このぐらいは時間を見ておいた方がよい参考になりそうだ。
京都巡りというと、ついバスや車を使ってのプラン考えてしまう。しかし先に紹介したような南禅寺をはじめとする人気スポットでは渋滞は避けられない。自転車での京都巡りは、自分のペースで見たいところを見てまわれるメリットがある。
ただし、注意したいのが自転車ゆえ1日で行けるエリアが限られている点だ。京都旅行でついプランニングしてしまいがちな「金閣寺、銀閣寺、清水寺をまわって」という、京都全域のメジャーなスポットを短期間でまわる旅には向いていない。しかし、今回の旅のようにエリアとスポットを絞ったうえで走れば、実際に京都の風情やその季節の空気を肌で感じながらまわることが可能だ。
また途中、気になった場所にすぐ立ち止まってチェックできる自由度の高さも自転車の魅力。記者も路地裏の町屋や古くからの小さな祠を見つけて立ち寄り、地元のお店で漬物や京野菜を購入するなど京都のディテールを満喫した。
京都に旅行する目的は人それぞれだが、京の名所だけでなく、京都ならではの雰囲気を楽しみたいなら、手軽にレンタル&返却ができるミナポートを使っての自転車利用もプランに盛り込んでみてはいかがだろうか。
【お詫びと訂正】記事初出時、サービス名やサービス内容の説明に一部誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。