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空の旅を地上で支えるJALの「はたらくクルマ」を見てみよう
飛行機の定時運航と安全を支えるクルマたち
(2015/4/28 00:00)
大型連休が近づいてきた。飛行機での旅行を計画している人、そんな人を出迎える人、見送る人、いろいろな出会いや別れのため空港の出発・到着ロビーや展望デッキなどに足を運ぶ機会も増える季節だ。そんな時、我々の空の旅を支える飛行機の足元で運航を支えるさまざまなクルマが働いている姿が目に止まった人も少なくないだろう。今回はそんな羽田空港第一ターミナルで働くさまざまなクルマを見てきたので紹介しよう。
なお、取材はJAL(日本航空)の協力のもと、羽田空港(東京国際空港)国内線第1旅客ターミナル側で行なった。
トーイングカー
滑走路を行き来する飛行機を見ていると、大きな飛行機を小さなクルマが押したり引っ張ったりする姿を目にする機会は多い。あの小さなクルマが「トーイングカー」だ。いや、飛行機の大きさと較べると小柄に見えるが実際は全長8.6m、幅3.2mと実は小さくない。
小松製作所製のこのクルマ、車重はなんと50.5tもあり、295馬力を発生する排気量1万1040ccのディーゼルエンジンで駆動する。その構造上バックすることができない飛行機には必要不可欠な存在だ。
肉厚の鋼板で武装された超重量級ボディだが、実はその重さこそ、このクルマの大切な要素なのだ。晴れの日はもちろん路面が滑りやすい雨の日にも重い旅客機を動かすためには、路面にタイヤを強く押し付け圧着させなければならない。そのためにホイルハウス内にウエイトを装着するなど徹底的に重くしているのだ。
トーイングカーと飛行機は、その機種ごとに用意された「トーバー」という連結器で繋がれる。見た目は車輪の付いた鉄パイプのような単純な構造で緩衝機能は持っていない。そのため、トーイングカーの振動がダイレクトに伝わるようで、それはキャビンの乗客にも分かるほどのものだという。
4段のセミATを持つトーイングカーだが、押し出したりけん引したりしている時には、変速ショックを避けるために変速は極力しないとのこと。また運転技術に関しても国の定める必須の免許は大型または大特けん引免許だが、羽田空港で作業を担当するJALグランドサービス(以下JGS)のスタッフは、JALの定める座学と実技の試験を経てさまざまな訓練を行ない、初めて現場での作業にあたる。駐機場でのトーイングカーの運転技術は安全や定時運航のためだけではなく乗客の快適性にも大きく影響する大変な作業なのだ。
トーイングトラクター
駐機場でコンテナを連結しながらミズスマシのようにスイスイ走り回り、空港施設~飛行機を行き来しながら乗客から預かった荷物や貨物コンテナを運ぶ小さなカートのようなクルマが「トーイングトラクター」だ。
排気量2486ccのディーゼルエンジンを搭載するトヨタ製で、全長3.6m、幅1.4mとボディサイズは軽自動車くらい。国の定める必須の免許は普通免許のみだが、飛行機が頻繁に行き来する駐機場を運転するスタッフは、トーイングカー同様さまざまな訓練を経て資格を取得し業務にあたる。なお羽田空港では最大6個のコンテナを連結し、その業務はJGSが担当する。
ハイリフトローダー
トーイングトラクターで運ばれるコンテナを飛行機の高い貨物室のハッチまで上げ、積み降ろしを行なうクルマが「ハイリフトローダー」だ。大型または大特の自動車免許を要するが、他の車両同様さまざまな訓練と資格が必要だ。
特に航空機の機体に直接接するハイリフトローダーの担当者は、機体ごとの格納場所の構造やハッチの構造を熟知する必要があるため、小型機、ボーイング767、ボーイング777、ボーイング787それぞれで別の資格となる。
また、その仕事の性格上、個々の能力はもとよりコンテナをやりとりするトーイングトラクターの運転手との連携は非常に大切な要素だ。羽田空港では国産メーカーであるシンフォニアテクノロジー製が使用されている。
ベルトローダー
飛行機の後方にあるばら積み貨物室へ乗客の手荷物などを積み降ろしするのが「ベルトローダー」だ。ハイリフトローダー同様、シンフォニアテクノロジー製で貨物室のハッチと地上に用意されたコンテナをベルトコンベアーで繋ぐような形で使用される。なお積み降ろしはJGSのグランドハンドリングスタッフが手作業で行なう。
パッセンジャーステップ
ターミナルから離れたオープンスポットに到着した飛行機から乗客が乗り降りするために使われる階段の付いたクルマが「パッセンジャーステップ」だ。かつて、この羽田空港にJAL機に乗って来日したビートルズのメンバーが法被姿でパッセンジャーステップの階段を降りるシーンはあまりに有名だ。
あれから49年。その基本的役割は変わらないものの進化は大きく、飛行機の床面とパッセンジャーステップ側の床の段差をほぼなくし、雨天時にも濡れずに通過できるよう機体との隙間をなくす高い精度などは、JALならではの乗客に対する細かい気遣いが反映されている。
空港は「はたらくクルマ」がいっぱい!
その他にも空港には数多くの「はたらくクルマ」が忙しそうに走り回っている。飛行機に乗客用の飲料水を搭載するための「ウォーターカー」。ゴミを収集する「トラッシュカー」。トイレなどの汚水を飛行機から抜き取り処理場まで運んでいく「ラバトリーカー」など、キャビン(客室)の快適さを保つためにさまざまなクルマが走っている。
また機内食を運ぶフードローダーや給油のための給油車もいる。ちなみに羽田空港の場合、タンクローリーを使わず航空燃料貯蔵タンクから地中に埋設したパイプラインを通じて駐機場に燃料を送る「ハイドランド」というシステムが設置されているので、給油車は駐機場の路面にある給油口と飛行機を結ぶ中継地点となる。この中継地点となる給油車は「ハイドランドディスペンサー」と呼ばれ、ろ過装置等を備えるものの送油ポンプすらもたないのが特徴だ。
また飛行機のの除雪作業と防氷液を撒く機能を備えた「ディアイシングカー」も待機していた。東京で雪が降らない季節でも出発空港や途中で着雪、着氷し羽田空港に到着する便もあるためだ。
これら数多くのクルマは飛行機が1便1便到着するたびに一斉に作業をして次のフライトに備える。過密なスケジュールの羽田空港において安全かつ時間通りにダイヤをこなすために、グランドハンドリングスタッフやケータリングや給油に携わるスタッフは各々のクルマに対する知識を学び、訓練を受け、各々の操作の許可を得たものだけが作業にあたるのだ。
一度飛び立てば乗客の乗降はもちろん燃料や食料の補給もできない飛行機の特性上、さまざまな特殊車両とそれを扱う地上スタッフの技量、そしてパイロットをはじめ機内のスタッフとの連携こそが過密ダイヤの中で安全と定時運航を支える重要な要素なのだ。
飛行機を安全に飛ばすための車両整備
我々の空の旅を地上で支える空港内の「はたらくクルマ」を紹介してきたが、そのクルマのメンテナンスを受け持ち24時間体制で支えているのがJALエアテックだ。定期的に行なわれる点検と緊急修理の対応等に、車両整備業務を担当する14名が24時間体制で対応する。
なにしろ空港で働く特殊車両は故障してしまうと、すぐさま空港業務に支障が出てしまうような場合もある。また地方空港での故障に対しても、すぐに出張で対応するような体制になっているそうだ。そのためJALエアテックでは全国のJALの特殊車両について、種類、台数、使用年数を常に把握し、パーツの供給体制などを整えているとのこと。また新しい車両が導入される時には、今後メンテナンスするための情報を調べ、海外製の車両を導入する時には代替できる国産パーツの有無まで調べ、不測の事態に備えているという。
訓練と試験を繰り返し技術を高めたスタッフによって運用される「はたらくクルマ」
飛行機の安全性と定時性を支える空港内で働く特殊車両は、日頃から我々が見慣れた昨今の乗用車に見られるような先進の電子制御技術を持たないシンプルな車両でもあった。
大きな飛行機と重量級の車、小型でスイスイ走り回る車。それらが混在する空港において、クルマ自体は衝突を回避するシステムを持っていない。先進技術の塊のような最新の飛行機の運航を支えているのは、厳格に定められたルールと、さまざまな資格を取得したスタッフの継続的な訓練による高い意識と技術によるものだと実感した。
空港に足を運ぶ機会があったら、華やかな飛行機だけではなく、たくさんの「はたらくクルマ」が空港内を走り回っている姿に目を向けてみるのもお勧めだ。