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ジャパネットがクルーズ旅行事業に力を入れる理由

ジャパネットツーリズム 代表取締役社長の茨木智設氏

 通信販売事業を展開するジャパネットたかたを中心としたジャパネットグループだが、2017年からクルーズ旅行事業を本格的に展開し、2023年には株式会社ジャパネットツーリズムを設立し、さらなる事業拡大を目指している。

 今回はジャパネットツーリズム 代表取締役社長の茨木智設氏になぜジャパネットがクルーズ事業に参入し、どんなサービスを実現しようとしているのかを伺った。

クルーズ旅行に目をつけた背景

――そもそもになりますが、ジャパネットというと家電製品などを通販で売っているというイメージが強いなか、クルーズなどの旅行商品を扱われるようになったきっかけを教えてください。

茨木氏:船会社さまから、日本でクルーズ事業を強化するので、1回乗ってみませんかとお誘いをいただき、2014年に初めて船と出会いました。当時の私には、すごいお金持ちの人が乗るというイメージしかなかったので、ジャパネットでは全然売れませんよという話をしたんですが、1回でいいから乗ってみてくださいということで、実際に乗ったところ、ものすごく快適で、プールサイドでビールを飲んで、バーの後はすぐベッドに入れて、朝起きたら次の港と、これはすごい世界だなと。

 私はあまり旅行が好きじゃなかったのですが、自分自身だったら行かないような場所に勝手に連れて行ってくれて、気が向けば船から下りるし、気が向かなかったら船の中でゆっくりするという世界観もそれまで体験したことがなかったので、そこも含めてすごく新鮮でした。

 そして、クルーズ人口を聞いたら、日本はまだほとんどいないけど、海外では結構メジャーなバカンスの過ごし方だということで、これは日本人は知らなくてもったいないと感じました。

 この旅行の楽しみ方はコストパフォーマンスもいいし、体力的にも楽で、我々のお客さまはシニアの方が多く、意外にいい組み合わせなんじゃないかということで実際に販売を始めたというのがスタートになります。

ラグジュアリー船の「シルバー・ムーン」

――今年3月~4月にはラグジュアリー船の「シルバー・ムーン」をフルチャーターしたクルーズツアーも実施されましたね。

茨木氏:元々、我々が取り扱っているMSCさんの船も本当に豪華な客船で、船内エンターテインメントがたくさんあって、1日船にいても飽きることがないような、すごくいい船だと思っています。あのお値段で食事とエンターテインメントと部屋と移動があるというと、すごくコストパフォーマンスがいい船で、初めての船旅を体験されるには本当にベストな船です。

 一度船旅の良さに気づかれた方に次の選択肢を提供したいというとき、いろんな選択肢があり、日本船だと飛鳥のような船もいいですし、フライ&クルーズと言って海外に飛行機で行って、地中海クルーズとか、いろんな船の旅の楽しみ方があります。シルバー・ムーンのような高級ラグジュアリー船もありますし、南極クルーズとか、ガラパゴス諸島に行くとか、そういった探検型のクルーズもあります。

 意外にクルーズの世界は奥が深く、クルーズ旅行に抵抗がなくなると、やっぱり次のステップに行きたいという需要が出てきます。その選択肢を提供していきたいと思ったときに、たまたまシルバーシー・クルーズさんとご縁があってチャレンジしてみることになりました。

 ベリッシマというMSCさんの船をチャーターして展開しているときにも、1室お1人様あたり100万円クラスの部屋を販売しているんですが、実はこの部屋はテレビショッピングでは紹介しておらず、カタログとWebだけで販売しており、リピーターのお客さまですぐに完売・キャンセル待ちになってしまうんです。お客さまから求められているのに販売ができないという状態でもあったので、ラグジュアリー船を新しい展開として手掛けていくことにしました。

――そんなにリピーターが多いんですね。

茨木氏:はい。なぜ普段我々と接点がないのに、これだけクルーズ業界が賑わっているのかというと、ほとんどリピーターの方だけで潤っている市場らしいのです。最初にそれを聞いて、本当に知ってる人だけが楽しんでいるのはもったいないなと思って、だったら私たちも売ろうと考えたんです。やっぱり、リピーターの方が多いというのは満足度が高いということですし。

自社でやることで品質の向上を目指す

――ただ、外国籍の船となると文化も違いますよね。

茨木氏:まず英語ですよね。私も英語能力ゼロなので(笑)、基本的には英語ができなくても快適に過ごせるように、レストランのメニューを含め、さまざまなものを日本語化しています。一般的な外国船にはないサービスだと思います。

 食事面も工夫しています。日本茶のような飲み物を、我々が裏でこういうものを入れてくださいとお願いしていたり、通常のシルバー・ムーンにはない日本食レストランを契約して連れてきたり。正直、日本食が食べたくなるじゃないですか。朝はご飯と味噌汁がないと整わない。シニアの方はなおさらなので、そこに関しては船側にも協力いただいて実現しています。

 あとは、ちょっとした船内の新聞なども、英語版を翻訳するというだけでなく、ジャパネットの目線でお伝えするインフォメーションを重要視しています。実は業務用のプリンターを積み込んで毎日刷っているんです。テレビショッピングでは全てのイベントを案内しているわけではないんですが、お客さまに楽しんでいただける日本ならではのイベントというのもジャパネット主催で行なっています。

 船に乗っている添乗員も普段はジャパネットのコールセンターでお客さんのご予約や質問に答えるメンバーがそのまま乗っています。これはジャパネットの特徴で、自社の社員が電話の受付をして、そのまま船に乗ります。乗った後はまた電話の受付をするので、電話でのコミュニケーションの内容が非常に詳しい。そんな世界観を目指しています。両方を自社でやることで品質の向上を目指しているんです。

――お客さんの声を商品に反映していくというスタンスは家電製品の販売と同じだと。

茨木氏:そこに関しては、我々がやる意味だと思っています。家電もジャパネットのオリジナルモデルということで、いらない機能をなくして値段を下げたり、逆にこの機能をつけたり、という風に開発を行なっています。

日本語の船内新聞を毎日刷って配布している
レストランのメニューも日本語に

――シルバー・ムーンのときも、途中からパンを柔らかくされていました。

茨木氏:やっぱり外国のパンは固いんですよ。船内で耳にしたお客さまのご意見を参考に航行中も日々改善しているんですが、本当にパンは固かったので(笑)、シェフに言って、何をどうやったら日本で食べられているようなソフトなパンにできるか調整を進めました。

 船側も当然ブランドや自分たちのやり方があるんですが、我々もその良さを尊重しながら相談すると、彼らも日本人が喜ぶサービスを提供したいという思いがあるので、我々の意見をすごく柔軟に聞き入れ、すぐに実行していただけるという環境が作れているのかなと思います。

 本当は初日から全て完璧な状態を目指したくて、半年前からかなり調整をしてきたものの、やっぱり実際に船に乗って、いろんなお客さまの意見を伺わないと分からない部分もあります。そこは一日でも早く改善できるように頑張っています。

 我々は船をチャーターしてクルーズ旅行を販売しています。チャーターというのは、旅行会社にとってはリスクという部分が大きくて、普通の旅行会社さんはあまりチャーターはしないんです。ただ、なぜ我々がチャーターをするかというと、船側に意見が言える、船内のメニューなども私たちの考えで変えてもらえる。複数の旅行会社が入っていると、それができません。我々は船を毎日よくするためにチャーターをしています。ですから、毎日改善しないと、そもそもチャーターしている意味がない、という考えでやっています。

――そのほかに一般的なクルーズ船との違いはありますか?

茨木氏:MSCの普段の船では飲み物が有料なのですが、我々のパッケージでは無料にしていたりします。これは最初に私が船に乗ったときの不満で、非日常を体験したいと思って乗っているのに、ビール1杯10ドルだと言われると、貧乏性なのでちょっとやめておこうか、水にしようか、となってしまう。せっかく乗ってる船旅のテンションが下がってしまうんです。だったら、飲み放題にしたら、思う存分楽しめるんじゃないかと。

船内のドリンクはアルコールを含めて基本無料

 あと、クルーズ船って、大型になればなるほど、ちょっと外れのコンテナ船がとまるような港に入るんですが、そうなるとそこからの二次交通があまりないので、循環バスといって、シャトルバスを何十台も用意して、無料で使っていただいています。自分が乗って不満に感じた部分はなるべく解決していこうとやっています。

クルーズ船の内外で可能性を探っていく

――シルバー・ムーンの手応えはいかがでしたか?

茨木氏:そうですね、シルバー・ムーンはバトラーサービスがすごく便利というか、訴求ポイントとしては大きいと思っていたんですが、日本人が考えるホスピタリティと外国の方のバトラーの考え方がちょっとアンマッチだったかなと感じました。日本人は先回りしてやってほしいとか、あちらから声をかけてほしい、できることはリストメニューで全部表示しておいてほしい、というのがあるんですが、シルバー・ムーンのバトラーさんは影武者的な形で、部屋の空間を乱さずにそっとやるとか、指示されたことに対してノーと言わないというスタンスなので、日本人にはなかなか使いこなせないというのは体感としてあります。

 そこで、バトラーは靴磨きとかしてくれるんですよとか、こういうことをしてくれるんですよ、こういう飲み物が実はあるんですよ、というリストを船内の新聞で配ったりすることで、うまくサービスを活用できていない方にも活用していただけるように工夫していました。

 バトラーもレストランのスタッフも、初日は英語で挨拶をしていましたが、2日目からは日本語で「こんにちは」と言ったり、3日目はさらに「おいしいですか?」とか、最低限の日本語を言ってもらえるようにしていて、その一言があることによって、あちらから近づいてきてくれるというのを感じたら、英語が苦手な方でも次のアクションが起きるんじゃないかと考えたんです。

――商売の話で言えば、そこで翻訳機を売るというのもアリなのかもしれませんが、それはあえてやっていないんでしょうか。

茨木氏:元々が家電の会社なので、たしかにそれをやった方がいいんじゃないかということはあるんですが、基本的にジャパネットのスタンスとして、セット販売の真髄は買っていただいたことで最低限楽しんでいただける、使えるというのが前提だと思っています。最初に旅行代金を払ったのに、気がつけばちょっとずつ払って、思っていた額の倍くらい払っているということでなく、ジャパネットで代金を払えば、あとはもう1円も使わずに楽しめるという世界観を提供したいという思いでやっています。お客さまに負担を強いるのではなく、バトラーに翻訳機を持たせるようなことも検討していけたらいいのかもしれません。

――船内以外での工夫についてはいかがでしょう?

茨木氏:オプショナルツアーはまだまだ改善の余地がありますし、バリエーションを用意していきたいと思っています。我々は日本に住んでいながら、あまり知らない土地が多い。とくに船で行く場所は、飛行機や新幹線で行きにくい場所が多く、そういった場所の魅力を再発見しながら、お客さまにお伝えしていきたいのです。

 その延長でいうと、今は船旅の中で販売していますが、いわゆる普通の国内旅行というところも手掛けていきたい。本当に厳選して、我々がいいと思って、一緒に改善をしてくれる宿さんとテレビショッピングで紹介していく。そういう世界観が次のフェーズでできればいいなと思っています。

 10月には「長崎スタジアムシティ」も開業します。そこにはスタジアムだけじゃなくて、アリーナ、ホテル、商業施設、レストランとあり、長崎も港町なので、何かそことのコラボレーションもできると面白いですね。

――お忙しい中、ありがとうございました。今後の展開にも期待しています。