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業界初・鉄道部品が分譲マンションの一部に? 京急の「プライムフィット横浜富岡」はなぜ生まれた

2024年3月15日 公開

鉄道車両の部品を利活用した共用部を持つ「プライムフィット横浜富岡」

 京浜急行電鉄は3月15日、鉄道車両の部品を利活用したリノベーション分譲マンション「プライムフィット横浜富岡」(神奈川県横浜市)の内覧会を実施した。

 同社グループでは「PRIME(プライム)」の名称で住宅ブランドを展開しており、なかでもプライムフィットはリノベーション事業に冠するもの。今回のプライムフィット横浜富岡は2018年に販売した物件に続く第2弾となるもので、京急線沿線では初めての展開となる。

プライムフィット横浜富岡

所在地: 神奈川県横浜市金沢区富岡西1-2980-121
構造・規模: 鉄筋コンクリート造地上6階
敷地面積: 4180.47m2
販売戸数: 64戸
築年数: 28年(竣工時期1994年2月)
間取り: 1LDK~3LDK
駐車場: 64台(EV充電設備8台)
駐輪場: 81台
引き渡し時期: 2024年3月~

 リノベーション事業という前置きからも分かるとおり、同物件は築28年の企業社宅を駆体はそのままに給排水管の更新、断熱性能の強化などを実施したうえで、外観および室内の大規模リフォームを実施。加えて、一部の住宅では180パターンを超える「パズルフィットセレクト」が設定されており、キッチンのレイアウトやリビング、ベッドルームといった間取り、3パターンから選べるインテリアカラーなどから、購入者のライフスタイルに合わせて選択が可能となっている。

築28年の企業社宅をリノベーションしている

共用部に電車内のようなワークスペースが誕生

 この物件の要注目ポイントといえるのが1階に設けられた供用部。このエントランスの西側に設けられたスペースには、居住者が利用できる「ワークスペース」と「コ・リビング」の2か所を用意しており、そこには引退した鉄道車両の部品を利活用するという鉄道業界初となる試みを行なっているのだ。

 今回公開したワークスペースには8名掛けの座席を設置しており、袖仕切りや網棚まで付いて、まさに電車内のような状態。この座席、実は同社のコダワリがある部分だという。

 マニア的には“先頭車両が電動車である”なんていうコダワリが知られているが、座席に関しても競合路線への差別化としてウレタンではなくバネを使ったクッションを使うことで、乗り心地をアップさせているとか。加えて、2019年にオープンした新社屋でもこうした座席を活用しており、十分な耐久性を持っていることも確認済みだという。

 座席下には人数分のコンセントがを用意するほか、完成時にはテーブルも設置されるため、快適に作業を行なうことができそうだ。さらにドア付きの個室を3ブース用意しており、こちらの在室表示には車側灯が再利用されているほか、デスク前には「京浜急行電鉄」「東急車輌」「川崎重工」のプレートも。

 今回は未公開だったが少人数のグループでの利用を想定しているというコ・リビングには、シートを利用したソファを設置する。

壁側に設けられた座席。ちょうどドアの間に相当する
3部屋用意された個室。ドア上部の在室を示すランプに注目
個室はそれぞれにプレートが貼られている

 これらの部品は1985年~1986年に製造された「1500形」のもの。このグループは鋼製車体を採用した1500形の初期車で1編成4両。当初は本線でも運用されていたが、末期は大師線に活躍の場を移した。

 近年、「LeCiel」の愛称を持つ「1000形1890番台」の導入によって廃車が進行しつつあり、ここで使われた部品は2023年3月15日に引退した車両のものとのこと。なお、同形式は2001年から内外装および機器などのリニューアルが行なわれていることから、今回使用されている座席などは更新後のものと思われる。ちなみに、残る同グループの現役車両は2編成8両のみで、こちらもまもなく現役を退く予定だという。

 京浜急行電鉄 生活事業創造本部 住まい事業部 主査の齋藤健介氏は、この物件が生まれたきっかけとして「(環境に配慮したモノづくりとして)不動産事業として何かできないか」「(鉄道会社らしい)個性のあるモノづくりができないか」の2点があり、また同物件が新築ではなくリノベーションであることも後押しになったという。

 独自の世界観を持つ共用部によって「皆さまに興味を持っていただく」ことはもちろん、「お住まいになっていただく方々に対して“自分の家ってこんなトコロなんだよ”という誇りの一部」に思っていただければとコメントした。

 その後、最近のホテルにチラホラ見られる“鉄道ルーム”ぐらいまで攻めてもよかったのでは?と問いかけてみたところ「分譲マンションですので凝ったモノづくりをしてしまうと好みが分散してしまうため、限りなくさりげなく色を出す」方向性になったと説明。

 その一方で、実は「もっとやりたかった」とホンネもちらり。というのも、利活用部品の選定のために工場(同社グループの京急ファインテック久里浜事業所)へ出向いた際、「運転席のシート」や「扇風機」など使えそうなアイテムがいくつもあったからとのこと。これらについては商業系施設への展開も考えているとのことで、「ここをきっかけにしてほかの場所にも伝播していってくれれば」と話した。

京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部 住まい事業部 主査 齋藤健介氏
コ・リビングに置かれる予定のソファ。こちらは3人掛けで移動可能。個人的に家に欲しい……
エントランス。黒い門型の鉄骨は架線柱をイメージしているそうだ
ドア横のプレート
エントランスホール。架線柱と枕木があるイメージ
エントラントアートにも布由来のアップサイクル素材を活用
メールボックス
24時間対応の宅配ボックスを併設。宅配物の集荷発送にも対応する
エレベーター脇にある階数表示は車両側面に装着されていた車両番号銘板が使われている
玄関
部屋番号に使われているフォントも車両と同じもの
1LDKに小さな部屋を多めに設定したBG2タイプ。専有面積は71.01m2(約21.48坪)
プレイルーム(約3.0畳)
土間(約3.1畳)
ワークスペース(約3.6畳)
寝室(約5.0畳)
洗面室
浴室
2階の部屋にはテラスと専用庭がある
5階からは東京湾~房総半島まで一望
専用アプリから利用可能なEV充電器を設置