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15年ぶりのベンチャー航空会社・トキエア誕生! 就航延期を繰り返した事情とは
2024年1月30日 06:00
何度も延期を繰り返し……トキエア、いよいよ初フライト!
新潟空港に拠点に拠点を置く航空会社「トキエア」が1月31日、ついに就航する。
当面の間は、新潟~丘珠(札幌)間を週4日(月・金・土・日曜。初便のみ水曜に運航)、1日2往復体制で運航する。なお、当日9時に新潟空港を発ち、11時30分に札幌市に到着する第1便は、発売開始から数分で売り切れたという。
トキエアの運航スケジュール(2024年1月31日~3月30日)
BV101便: 新潟(09時30分)発~丘珠(11時10分)着、月・金・土・日曜運航
BV102便: 丘珠(11時50分)発~新潟(13時35分)着、月・金・土・日曜運航
BV103便: 新潟(14時15分)発~丘珠(15時55分)着、月・金・土・日曜運航
BV104便: 丘珠(16時35分)発~新潟(18時20分)着、月・金・土・日曜運航
直線距離で約600kmもある新潟県から北海道への移動手段は、大手航空会社のANAとJALが担ってきた。
しかし、新しく就航するトキエアは、大手が投入しているジェット機ではなく、フランスで製造されたターボプロップのATR 72-600型機を使用。ジェット機よりも軽量・コンパクトで騒音が少なく、空港に払う着陸料が安く済み、かつ機体への着氷を抑える「アンチアイシング」にかかるコストも抑えることができるという。
トキエアはこの低コスト体質を活かし、「新潟~札幌間・片道6900円から」という、ANA/JALの早期購入割引と比べても、さらに半額という低運賃を実現した。
そして、このトキエアは、ANA/JALなどの国内大手の系列に属していない、いわば「ベンチャー(起業)型航空会社」だ。同様の条件を持つ航空会社の就航は、2009年に就航したフジドリームエアラインズ以来、15年ぶりのこと。
ANA/JALと一定の距離を保つベンチャー型航空会社の参入は過去にもあったものの、成功例は決して多くない。これまでのベンチャー型航空会社各社がたどった足跡を振り返れば、航空事業への新規参入の困難さや、就航延期を繰り返してきたトキエアの事情も理解できるだろう。
きっかけは規制緩和。ベンチャー型航空会社、続々誕生の理由
ベンチャー型航空会社が続々と誕生するきっかけは、いわゆる規制緩和の一環として1996年に導入された「幅運賃制度」(一定幅で自由に運賃を決定できる)であった。ここに「羽田空港の発着枠拡大」という追い風も吹き、ANA、JAL、JAS(2006年にJALに統合)の大手3社ならびに子会社が占めてきた航空業界に、他業種からの参入表明が相次いだのだ。
なかには「機内でディナーショー開催」(シダックス傘下「ジャパン・パシフィック・エアラインズ」。就航に至らず)など、「本気か?」と言いたくなる構想も多数飛び交うなか、いまも運航を続ける「スカイマークエアラインズ」(現スカイマーク)が1998年に羽田~福岡線に就航。運賃が事前届出制に変更となった2000年以降は、さらに参入が相次ぐ。
しかし、ベンチャー型航空会社各社の行く手は、主に「大手との競争」「経営基盤」「安定した運航」という3つの壁に阻まれた。いま事業を継続している航空会社でも、高確率で経営の危機を経験し、くぐり抜けている。
航空業界参入に3つの壁「大手との競争」「経営基盤」「安定した運航」
新規参入組のなかでも、あらゆる面で航空業界の分厚い壁に跳ね返されたのが、2002年に宮崎~羽田線で就航した「スカイネットアジア航空」だろう。「座席は広く、他社より3割安い」という触れ込みで就航したものの、就航便に合わせて各社が値下げを決行。のちに公正取引委員会の指導が入るが、是正される頃にはすっかり経営基盤が衰弱していた。
また機体整備のノウハウがなく、ライバルでもある大手に「機体故障がなくても支払いは定額」という、不利な条件での委託を余儀なくされた。高コストで整備費用を払えなくなり、整備不良による運休で顧客を逃がし……という悪循環で、最終的には着陸料すら払えない状態に陥り、就航3年で経営破綻に至る。なお同社は、ANAの出資による再建を果たし、現在はソラシドエアとして営業を続けている。
航空業界へ参入するには、機体のリースや操縦士・保安要員といった専門職の人件費など、莫大な初期投資の資金を調達する必要もある。
2003年に沖縄・那覇空港で就航を予定していた「レキオス航空」は、金融・電力・建設・運輸など沖縄財界のバックアップで創業したものの、競合の激化を懸念した各社が続々と撤退。再び資金を調達しようとしたが、大手の顔色を伺う県内の企業は、新たなスポンサーとして名乗りを挙げづらかったという。
それでも就航の準備を進め、機体を米GEから受領する寸前まで漕ぎつけたものの、事業に必要とされた42億円の資金調達はおろか、リースに必要な頭金の2億円すら支払えないという状況に。一旦生じた競合への不安が、スポンサーの確保に致命傷を与えてしまったといえるだろう。
各社が厳しい状況に置かれるなか、先に述べたスカイマークエアラインズだけはなんとか事業を継続してきたが、競合を意識するあまりエアバス A380型機を6機購入という、明らかに身の丈に合わない経営判断に踏み切ってしまい、2015年に経営破綻を迎える。ただ、同社の破綻はほぼ自滅であったためか、デルタ航空との債権者の争奪戦を制したANAのもとで、早期に再建が完了した。
意外と多い地域系航空会社の失敗。「地域ありき」ではダメ?
また、地域を活性化する目的で設立されたベンチャー型航空会社は、地域にこだわるあまりに事業計画が甘くなってしまうケースがある。例えば、2001年に福岡・壱岐空港で就航した「壱岐国際航空」は、他社の就航の動きや、フェリー・高速船との競合を想定していなかった節があり、極端な業績低迷のため、就航2か月での運航休止を余儀なくされている。
北海道を拠点に1998年に就航した「北海道国際航空」(現AIRDO)は、道内企業の主導権にこだわるあまり、のちにスカイマーク設立に動く大手旅行会社HISとの合流を拒否。大手スポンサーが不在であるが故の資金繰りの不安定さは、その後の破綻の一因となる。
なかには、定期航路の開設にかかわる手続きがことごとく抜けていた「セレスティアル航空」など、自治体が事業への検証を後回しにしたまま応援に回ってしまうケースも。大手の民間スポンサーがつきづらい「地域活性化型・ベンチャー型航空会社」の存続は、地域ありきではなく、「事業の持続性を優先、副産物として地域活性化を期待」くらいのスタンスで挑まないと、民間企業での継続が難しい。
なかなか就航しなかったトキエア。なぜ?
過去の事例を見ると、「地域の活性化が目的」で創業したベンチャー型航空会社の持続は、どこかでつまずくケースが多い。しかしトキエアの場合は、拠点とする新潟市が日本海側最大の都市でもあり、他地域へ高速移動できる手段が、対首都圏の上越新幹線以外にない。ある意味、既存の交通機関のスキマを縫える好条件だ。
かつ、JAL・ジェットスター・三菱重工などで航空業界に携わってきた、新潟県出身の長谷川政樹社長が事業を先導し、「ローコストのプロペラ機使用で採算を下げる」という事業計画にも説得力があった。各地のベンチャー型航空会社構想のなかでもずば抜けた好条件を持つトキエアは、本来であれば、当初の目標であった「2022年度中」に、早々に就航できていたかもしれない。
しかし、ここからが苦難の連続だった。まずコロナ禍によって就航は2023年6月へ延期に。2023年3月には国土交通省からAOC(航空運送事業許可)を取得したものの、当初見込みの30億円から、円安や原油高によって45億円まで上昇した初期コストの追加調達が必要となり、県内企業や新潟県からの出資(約11億円)、コロナ禍対策のつなぎ融資などで乗り切った。
そのあとも乗務員の習熟に時間を要したこともあり、就航は「2023年8月10日」に延期、さらに夏場の台風による試験飛行の遅れもあって「8月下旬」に。その後も整備体制の見直しで「2024年1月」となり、通常の運航日ではない水曜日(1月31日)の滑り込みで、「2024年1月就航」に間に合った。
コロナ禍という予測が難しい事態があったとはいえ、有利な条件と一定のノウハウがあったはずのトキエアでさえも、「経営基盤」「安定した運航」をゼロから積み上げる作業は困難を極めた。ベンチャー型航空会社新規参入へのハードルは、ほかの業界とは比べ物にならないほど高いのだ。
トキエア定着なるか。カギは「好条件・補助の引き出し」「地元以外での支持」
地域の航空会社として、営業を続けるトキエアの今後の道標として、ほかの小規模な航空会社の事例が参考になるかもしれない。
トキエア参入の15年前、2009年にベンチャー型航空企業として就航した「フジドリームエアラインズ」(FDA)は、いまや16機の機体で全国16都市に就航している。
就航する地域も、他社が発着枠を取り合うような羽田・伊丹ではなく、小牧空港(県営名古屋空港)・静岡空港・神戸空港などに拠点を置き、路線の差別化をしっかり行なった。かつ、各社の航路撤退で存在意義が薄れていた「信州まつもと空港」では、着陸料への補助やテレビCMにかかる費用など、多岐にわたる支援・補助を、各地から引き出した。
利用が低迷する地方空港は全国各地にあり、航路開設の意向を示して出方を伺ったうえで、「行政を巻き込んで好条件を引き出す」という営業戦略は、トキエアのみならず参考になるだろう。
なお、FDAの場合は親会社である物流大手「鈴与」のネットワークを活かし、役員が各自治体・関連部署や旅行代理店各社にトップセールスを行なっていたという。トキエアでも、就航後は経営陣のドブ板営業が必要となりそうだ。
航空会社と地域のあり方では、JAL系列の「天草エアライン」の在り方もおもしろい。九州・天草諸島と天草・熊本・福岡・伊丹といった各空港をたった1機でカバーする同社は、案内や機内誌などの「乗務員お勧め」「地元の方のお勧め」目線が徹底され、どの航空会社にもない親近感あふれるサービスを提供している。
経営環境は厳しいものの、熊本県・天草市・上天草市などが一丸となった利用促進策・補助を行ない、黒字を維持している。また、小規模経営を行なう「オリエンタルエアブリッジ」「日本エアコミューター」などと、系列の垣根を越えた協定を結び、すでに部品の共用化などに取り組んでおり、トキエアでもいずれ、こういった連携は必要となるだろう。
両社に共通するのは、「ANA/JALの隙間を縫い、組むところでは手を組む」「地域としっかり手を結び、損失を最小限にとどめる」といったところだろうか。
なお、トキエアは今後、新潟空港を拠点に仙台、セントレア(中部)、神戸、そして佐渡への就航を予定している。しかし、新潟県以外での浸透度はまだまだ。これからは「新潟県民の翼」としてだけでなく、北海道の翼、仙台の翼、神戸の翼として、各地の支持を得られるかどうかにかかっているだろう。
まずは各地で「新潟って楽しい!」という、地域のファンを増やせるか。そして、ATR機の強みである「貨物輸送」などで、どこまで需要を見出せるか。注目を集めるなかトキエアは、航空会社としてのスタートラインにようやく立とうとしている。