ニュース
「電線が切れて列車に閉じ込められた」の裏ではなにが起きている? 東海道新幹線の総合事故対応訓練を見てきた
2023年6月15日 07:00
- 2023年6月7日 実施
列車への“閉じ込め”を最小限にするためのちょう架線復旧訓練
ちょう架線とは、新幹線に電気を送る架線のうち、パンタグラフと接触するトロリ線を吊る電線だ。東海道新幹線では、2022年12月18日に、豊橋~三河安城間でちょう架線が切断し、4時間列車が運転できなくなるトラブルがあった。それを教訓としたさまざまな対策も打たれている。
今回は、そのちょう架線をいかに手早く、かつ正確に復旧させるための訓練が行なわれた。ちょう架線の復旧訓練自体は毎年実施しているものだが、2023年度の訓練では2つの新しい施策を追加していた。
まず1つ目は、作業員にウェアブルカメラを装着させ、その映像をリアルタイムで東京の総合指令所で見ながら的確に指示を出す訓練だ。指令所には専門知識に長けた指令員もいるので、よりスピーディな復旧が可能となる。
そして2つ目が、いかに早く事故現場付近の列車を動かすか、という視点での訓練。
ちょう架線が切れると当然停電するので、周辺の列車は動けないばかりか、冷暖房も切れてしまう。その時間を最小限にするため、地絡している(電流が地面に流れている)ちょう架線を短く切って、地絡状態をいち早く解消。
その後、一時的に電気を送り列車を最寄り駅などに移動させたあと、再度架線を停電状態にして復旧させるという方法だ。これにより、電気の切れた車両のなかでの閉じ込め時間をより短くできる。
作業自体は、添え線と呼ばれる仮線で切れたちょう架線同士を結んで、ひとまず列車が通過できる状態にするという作業である。そして、営業列車が終了した深夜に本格的に架線の張り替えを行なう。
JR西日本・JR東海合同の確認車救援訓練
時速200km以上で走る新幹線において、夜間の作業で使ったものを線路内に忘れてしまうと、高速で走る列車の風圧により飛散し、大きな事故につながる。それを防ぐために、始発列車前の午前4時前後に確認車という作業用車両を走らせている。
そういう事情で使う作業用車両なので、万が一本線上で故障すると、翌朝の始発列車を運休させたり、遅らせたりしてしまう。ゆえに万全のメンテナンスを実施している。しかし、相手は機械なのでどうしても故障することはある。
確認車は、自社線内の線路で走るのが基本だが、一部例外もある。その1つが、新大阪~新神戸間の3kmの区間だ。営業上では新大阪駅がJR東海とJR西日本の境界だが、線路の管理区分は約3km博多方に行った場所にある。そのため、その3kmの区間は“JR東海の線路をJR西日本の確認車が走る”ことになる。
万一、この3kmを含め新大阪駅周辺でJR西日本の確認車が故障したとき、わざわざ救援車を新神戸から呼んでいては時間がかかる。そこで、新大阪駅周辺のJR東海の確認車に救援依頼をすることがあり得る。
こうした場合、会社をまたいでの救援になるので、東京の総合指令所では会社間協議を行なう。その手順の確認のための救援訓練を実施した。
万一の事態に備える
この総合事故対応訓練では、ほかに車両故障や車内での犯罪行為への対応方法などの訓練が実施されている。ただ、いずれも大半の社員にとっては経験しないようなまれな事態だ。特に確認車の救援訓練など、わずか3kmの区間で起こり得ることは、まずあり得ないだろう。だが、そうしたまずあり得ないことに対しても、しっかりと対策を取り、訓練を行なっているから、安全・安心の新幹線が毎日何事もなく走っているのである。
なお、7月21日発売「新幹線EX Vol.68」でこの訓練の詳細を解説する。