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なぜ武雄温泉は新幹線と在来線を改札なしで乗り換えできるのか

武雄温泉駅では、改札を経由せずに西九州新幹線「かもめ」と在来線の「リレーかもめ」の乗り換えが可能

 西九州新幹線(武雄温泉~長崎)の「かもめ」は、在来線を走る「リレーかもめ」(基本的には博多~武雄温泉)と組み合わせて博多~長崎間を結んでいる。そして以前レポートしたように、武雄温泉駅では同一ホームの両側に「かもめ」と「リレーかもめ」が並び、上下方向の移動なしに乗り換えられる。

本来、新幹線は在来線とは別扱い

 新幹線を利用したことがある方ならご存じのとおり、新幹線は在来線とは別の「独立した鉄道路線」として扱われている。そのため、新幹線と在来線の両方が乗り入れている駅では、新幹線に通じる改札口と在来線に通じる改札口は別である。また、在来線と新幹線を乗り継ぐ場合に備えて、境界に改札(中間改札という)が設けられている。こうすることで、正規の新幹線の乗車券・特急券を所持している乗客だけが、新幹線のホームに入れるようになっている。

 ところが武雄温泉駅は例外で、在来線の列車から中間改札を通らずに新幹線に乗り換えられる。かつて、九州新幹線が新八代~鹿児島中央間で部分開業していたときも同様だった。これを業界では「ノーラッチ接続」という。ラッチとは改札口のことで、「埒」が訛ったのが語源だという。

 新幹線と在来線の乗り換えに際して、同一平面上で乗り換えが可能な駅は、武雄温泉以外に2か所ある。それが、上越新幹線の新潟駅と、北海道新幹線の新函館北斗駅。ただし新函館北斗駅の場合、同一平面の乗り換えは原則として「在来線→新幹線」のみで、逆方向は上下移動を伴う。

 新潟駅でも新函館北斗駅でも、新幹線と在来線の境界には中間改札が設けられており、武雄温泉駅のような素通しではない。どうしてこのような差異が生じるのか。

新潟駅の5番線は、上越新幹線と同一平面で乗り換えられる構造。このホームの新幹線側は「のりかえホーム」という。写真は在来線側から見た様子で、2か所ある乗換改札のうち、1つが見て取れる

武雄温泉駅では、リレー列車のみが乗り換えホームに発着する

 西九州新幹線のリレー列車は2種類ある。このうち「みどり(リレーかもめ)」は佐世保行きだから、武雄温泉以遠に向かう乗客も利用する。しかし「リレーかもめ」は武雄温泉が終着または始発で、乗客は基本的に西九州新幹線に乗り継ぐものと考えてよい。そこで、個々の列車の発着番線を調べてみると、武雄温泉駅における佐世保線列車の発着番線は、以下のような使い分けになっていることが分かる。

・「リレーかもめ」「みどり(リレーかもめ)」は、西九州新幹線との対面乗り換え用10番ホームに発着
・佐世保方面の特急「みどり」「ハウステンボス」は、在来線用の1番ホームまたは2番ホームに発着

 つまり、「リレーかもめ」「みどり(リレーかもめ)」に乗車しなければ、対面乗り換え用の10番ホームには出入りできないのだ。駅の外から10番ホームに入る際にも、在来線側ではなく新幹線側の改札口を通る構造になっているから、在来線側から素通しでは出入りできない。理屈のうえでは「みどり」「ハウステンボス」からでも西九州新幹線に乗り換えられるが、いったん階段を降りて在来線側の改札を出て、次に新幹線側の改札を通ってホームに上がる手間を要する。

 また、その先の西九州新幹線は行き止まりの単独路線。よしんば正規の乗車券・特急券を所持していなくても、新幹線駅の改札を出るところで精算すれば済む。西九州新幹線は短距離の単独路線だから、運賃・料金の計算はそれほど複雑にならない。こうした事情は、かつての新八代も同様であった。

新潟駅や新函館北斗駅は在来線との行き来が自由

 ところが、新潟駅や新函館北斗駅では事情が異なる。どちらも、新幹線と同一平面になっているホームの在来線側は、ほかの在来線ホームとも自由に行き来できる。また、そこに新幹線との接続を意識していない在来線列車が発着することもある。そうした状況下で新幹線ホームとの間を素通しにすれば、正規の乗車券・特急券を所持していなくても新幹線に乗れてしまう。

新潟駅で、上越新幹線の「とき」を降りて在来線の特急「いなほ」に乗り換えている様子。もちろん逆方向の乗り換えも行なわれる

 しかも、その先の新幹線は行き止まりの単独路線ではない。極端な話、新潟駅の新幹線ホームから複数の列車を乗り継げば、金沢でも新函館北斗でも山形でも新庄でも秋田でも行ける。実際には車内改札でチェックが入るだろうし、最後にはどこかの駅で改札を出なければならないので、無札は成立しない。しかし、利用者にとっても、そして車掌や駅係員にとっても、精算時の負担が増えてしまうという事実はある。

 このため、新潟駅や新函館北斗駅では在来線と新幹線の境界に中間改札を設けて、正規の乗車券・特急券を所持していることを確認している。移動の手間を省くために同一平面にしているが、考え方はほかの新幹線・在来線接続駅と変わらない。

 もっとも、新潟近郊はすでにSuicaエリアになっているし、新函館北斗~函館間も2024年春からKitacaが導入される。すると、新幹線の側でチケットレスサービスの「新幹線eチケット」を利用していれば、1枚の交通系ICカードで新幹線と在来線をシームレスに乗り継げる。紙のきっぷを使うより楽になるとはいえるだろう。