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アイヌ文化を見て触れて知る。北海道白老町に開業した「ウポポイ(民族共生象徴空間)」に行ってみた

2020年7月12日 開業

アイヌ文化復興の中核施設「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が開業した

 アイヌ民族文化財団は7月12日、アイヌ文化復興の中核施設「民族共生象徴空間(通称:ウポポイ)」(北海道白老郡白老町若草町2-3)を開業した。本稿では、開業に先駆けて実施した内覧会の模様をお伝えする。

 ウポポイは、北海道の先住民族アイヌを主題とした日本初の国立博物館「国立アイヌ民族博物館」と、体験型フィールドミュージアム「国立民族共生公園」「慰霊施設」などから成るアイヌ文化の復興・創造の拠点となる施設だ。

国立アイヌ民族博物館

 エントランスロビーを抜けエレベーターに乗り2階に上がると、ポロト湖を一望できるパノラミックロビー。博物館の展示室への入り口はその奥にある。

 最初に入る基本展示室は「私たちのことば」「私たちの世界」「私たちのくらし」「私たちの歴史」「私たちの仕事」「私たちの交流」の大きく6つのテーマごとに、アイヌ文化で使われていた道具や衣類、資料などが展示されている。基本展示室中央には時間のない団体旅行者向けに、短時間で6つのテーマすべてを見ることができる円形のプラザ展示も用意されている。

 装飾品や模型、立体パズルなどに実際に触れることでアイヌ文化を知ることができるコーナー「探求展示」も3区画用意されていたが、新型コロナウイルス拡大防止のため、残念ながら現在は実際に触れることができないようになっている。

 次に特別展示室では、開館記念特別展として「民具の継承」「アイヌ語の継承」「芸能の継承」「現在の継承者」「現在の匠 優秀工芸師」の5つのテーマを展示。これは開業日の7月12日から11月8日までの期間限定となっている。

 内覧会のあいさつに立ったアイヌ民族文化財団 運営本部長の對馬一修氏は、「ウポポイはアイヌ文化の復興のナショナルセンターということで、アイヌの方々を中心に文化の継承、新しい文化を作るということが大きな目的です。それがしっかり行なわれるには、アイヌの方を中心に、文化にかかわる方がしっかり活動できる環境となることと、国民に広くアイヌ文化・歴史をしっかり理解していただくことが大事」と語った。

ウポポイで一番大きな建造物が国立アイヌ民族博物館
アイヌ紋様がきれいなエントランスホール
2階にはポロト湖を一望できるパノラミックロビー
6つのテーマを短時間で見ることができるプラザ展示
プラザ展示の外側には6つのテーマごとに多くの展示物が詳しく解説されていて、より深くアイヌ文化を知ることができる
実際に資料に触ってアイヌ文化を知る「探求展示」。現在は新型コロナウイルス感染拡大防止で触れることができないが、質問をするとスタッフが親切に解説してくれた
「一押しの展示物は樺太アイヌの霊送り儀礼「イヨマンテ」で使われた高さ6mの熊つなぎ杭(写真左)と厚岸湖から出土した17~8世紀ごろの板綴(いたとじ)船(写真中央)」と語る公益財団法人アイヌ民族文化財団 運営本部長の對馬一修氏

体験交流ホール

 国立アイヌ民族博物館から外に出て、橋を渡ったところにあるドーム型の建物が「体験交流ホール」。こちらではアイヌ古式舞踊や楽器演奏、語りの「シノッ」と、アイヌに伝わる物語の短編アニメーションの上映などが予定されている。

 今回の内覧会では正式なあいさつ「ウウェランカラㇷ゚」、帯広に伝わる鶴の踊り「サロルン リㇺセ」、口承文芸「ユカㇻ/カムイユカㇻ」「ムックリ」による演奏、白老に伝わる熊の霊送りの踊り「イヨマンテ リㇺセ」、アニメーション映像作品「カムイ ユカㇻ 狐につかまった日の神」を見ることができた。

 踊りや演奏ではスクリーンや舞台の床にまで映像が映し出され、実際に北海道の自然やアイヌの集落にいるかのような世界観、自然観を体感できる。これらは各地域の伝承者に教わったり、自分たちで昔の映像や音声資料をもとに復元したりしたそうだ。アニメーション映像作品も同じく舞台全体をスクリーンにして投影されており、ダイナミックな映像と小気味好いテンポで物語が進んでいく。

ドーム型の体験交流ホールでは正式なあいさつ「ウウェランカラㇷ゚」により出迎えられた
「サロルン リㇺセ」は親鶴が子供に羽ばたき方を教え、一緒に大空へ飛んでいく様子を表わしている
口琴「ムックリ」による演奏。北海道の自然をイメージした映像とともに独特な音色を楽しむことができる
「イヨマンテ リㇺセ」は狩りで得た動物の魂をカムイの世界に送り返す儀式
「カムイ ユカㇻ」は太陽の神の子供が邪悪な狐に連れ去られる物語

体験学習館

 体験交流ホールの外に出て進むと、「体験学習館」がある。この施設では当初、アイヌ料理の調理や試食、ムックリ、トンコリなどの伝統楽器の演奏体験などを予定していたが、来場者が道具を共有して使用するプログラムを変更している。

 今回は、開業時に提供する3つのプログラム、「楽器演奏鑑賞」、小さな紙人形劇「ポン劇場」、ドーム型スクリーン映像「カムイ アイズ」を体験することができた。

「楽器演奏鑑賞」では楽器の解説を聞き、実際に演奏を聴くことができる
小さな紙人形劇「ポン劇場」。「ポン」とはアイヌ語で「小さな」という意味。今回は祖母から教わったという歌に関する話を聞かせてくれた
「カムイ アイズ」は各テーブルに設置されたドーム型スクリーンで、まるで自分が鳥になったような迫力の映像を見ることができる

伝統的コタン(集落)

 アイヌの伝統的家屋「チセ」を再現し、アイヌの生活空間を体感できるエリアでは、チセのなかでのしきたりや地域によっての違いなど、アイヌにちなんだ豆知識などの解説を聞くことができた。

 本来は1棟あたり100名の見学者を入れて解説できるように予定されていたが、しばらくは小人数、スピーカーでの解説となるそうだ。そのほか、狩猟弓や丸木舟の実演・解説などさまざまなイベントが予定されている。

ウポポイの奥にある施設で伝統的家屋「チセ」が再現されている
今回は囲炉裏を囲って「チセ」のなかでのしきたりを学んだ
囲炉裏に吊るされた鮭の燻製「サッチェプ」は「チセ」の天井でいぶされて作られると教えてくれた

ウポポイのグルメ

 ウポポイの歓迎の広場とエントランス棟にはレストランやカフェ、フードコート、お土産屋などが出店している。今回は内覧会用に各店舗の自慢の一品を試食することができた。

 まずは歓迎の広場にあるテイクアウトが中心のスイーツカフェ「なかまど イレンカ」のカップチーズケーキ「クンネチュプ」。濃厚なのにすっきりしていて食べやすいチーズケーキだった。

 同じく歓迎の広場にある「カフェリㇺセ」は、地元産の食材を使ったアイヌ料理をカフェスタイルで味わえるお店だ。今回試食したのはチェㇷ゚オハウセットのなかの一品「コンプシト」。コンブのたれを使ったお餅でコンブの風味がバッチリ効いていて美味しかった。

 エントランス棟のフードコート内にある「ヒンナヒンナキッチン炎」は、アイヌ由来の食材を手ごろな価格で提供するテイクアウトとイートインのお店。試食できたのは行者にんにくザンギ定食のザンギと鹿串、行者にんにくつくねの3品。ザンギやつくねも美味しいが、特に鹿串が絶品! 鹿肉のイメージとは裏腹に独特の臭みがまったくなく調理されていて、筆者のお勧めだ。

 最後は同じくエントランス棟チケット売り場横に位置するアイヌ文化に源流のある食材に現在の調理技術を取り入れた創作料理のお店「焚火ダイニングカフェ ハルランナ」。エゾシカ肉のコース内のクルミとナギナタコウジュ「エント」を使ったフォカッチャ。どんな料理と一緒に口に運んでも合いそうで美味しかった。

 ちなみにフードコートは約90席を用意したが、新型コロナウイルス拡大防止のため、およそ半分の座席数で開業を迎える予定となっている。

スイーツカフェ「なかまど イレンカ」のアップルパイ「パピㇼカパイ」とカップチーズケーキ「クンネチュプ」
「カフェリㇺセ」のチェㇷ゚オハウセット(写真中央)。地元産の食材を使ったアイヌ料理をカフェスタイルで味わえる。軽食やドリンクに関してはテイクアウトも可能
「ヒンナヒンナキッチン炎」の行者にんにくザンギ定食(写真中央)と鹿串、行者にんにくつくね(写真右)
「焚火ダイニングカフェ ハルランナ」のパンケーキ(写真中央)とエゾシカ肉のコース(写真右)

プロジェクションマッピング「カムイ シンフォニア」

 夜のウポポイの目玉は体験交流ホールの壁面や、橋、芝生などの照明器具を利用したプロジェクションマッピング。こちらは土日祝の19時30分~45分に野外で行なわれるイベントだ。日没時間の関係で7月12日~17日の土日祝と、11月以降は実施しないので見に行きたい人は注意が必要。

 約15分間の演出ではアイヌに伝わる創世神話を題材にしたアニメーションが体験交流ホール壁面に映し出され、音楽と橋や芝生などに設置された照明が次々と色を変化させるという幻想的な空間演出だった。

1か所にとどまっていては見れない演出もあるので、ぜひ何度か足を運んでいろいろな角度から観賞してみてほしい