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JTAやNTTドコモなど沖縄県内4社が中心となり「世界自然遺産推進共同企業体」が発足
2019年5月22日 14:49
- 2019年5月21日 実施
世界自然遺産を目指す奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の4地域。早ければ来年2020年夏ごろに登録されることが期待されている。この、世界自然遺産登録を見据え、登録後の環境保全や地域振興を目的とした「世界自然遺産推進共同企業体」が、沖縄県内で5月21日に発足した。
発起企業となったのは、JTA(日本トランスオーシャン航空)、日本郵便 沖縄支社、NTTドコモ、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の4社。同企業体には発足時点で31の企業が参加を表明。また、環境省沖縄奄美自然環境事務所、沖縄県、内閣府沖縄総合事務局、国頭村、大宜味村、東村、竹富町、琉球大学が後援を予定している。
発足日の5月21日には那覇市内ホテルで発足式が開催された。
開会のあいさつを、JTAの丸川潔 代表取締役社長が行なった。「世界自然遺産登録の実現はゴールではなく、その先の継続的な活動が大切。候補地は沖縄県と奄美諸島にまたがっており、横の連携をとっていくのは容易なことではない。柔軟に連携していくには産官学の連携と、関わるすべての人が実感を持つこと。当企業体は営利目的ではない。慈善事業でもない。社会価値を生んでいく手ごたえを、関わる皆さんと感じていきたい」と話した。
続いて発起企業4社それぞれより、これまでの取り組みについて発表があった。
JTAの発表では、JAL(日本航空)グループ全体で2016年1月発足の「JAPANプロジェクト」で世界自然遺産登録に向けた応援活動を宣言しているが、それより前の2010年より「国連生物多様性の10年」に賛同し活動してきたとのこと。地域住民とのビーチクリーン活動や除草活動のほか、機体への希少動物ペイントなどを展開している。
日本郵便 沖縄支社長の比嘉明男氏は、自身がやんばる(沖縄島北部)出身であることからヤンバルクイナの絶滅危機を目の当たりにし、自然保護・動物愛護活動のきっかけとなったとのことであった。
自然や希少動物の愛護活動を呼びかける年賀タウンメールの送付や、地域と協力してのオリジナルフレーム切手の発売などを行なってきた。現在はフォトコンテストによるオリジナル切手の作成を企画している。
NTTドコモ 沖縄支店長の龍秀樹氏からは、国頭村・奄美市に社員を派遣し、地域の課題解決に取り組んでいるとの発表があった。環境省と連携し、画像処理技術とAIを利用した希少動物の密猟防止ソリューションを開発、実証実験をスタートさせた。
NPO法人どうぶつたちの病院沖縄 理事長の長嶺隆氏からは、ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコなど希少動物の保護活動が報告された。「世界遺産のためでなく、絶滅させないために活動している。未来に残すことが遺産になる」という言葉が印象的であった。
同企業体発足のきっかけとなったのは、2018年に希少種のリュウキュウヤマガメの密猟が香港で見つかったこと。日本郵便 沖縄支社長の比嘉氏は、密猟の配送にゆうパックが使われることに心を痛め、かねてより動物愛護活動でつながりのあった、どうぶつたちの病院沖縄の長嶺氏に相談。JTA、NTTドコモとともに準備を進めてきた。
希少動物の持ち出しを未然に防ぐ手段としてNTTドコモがアプリを開発、そのアプリを使って空港や郵便局などで水際対策を図れると期待を語る。
JTA丸川氏は、「行政ではなく民間が主導するメリットはスピード感を持てること。フレキシブルにいろいろな壁が乗り越えられる」と期待を述べた。
発足式に続き、記念セミナーが行なわれた。来賓の環境省、沖縄県環境部、琉球大学それぞれからあいさつがあった。
環境省 沖縄奄美自然環境事務所 所長の東岡礼治氏は「企業が自主的に環境保全を進める取り組みは日本初のチャレンジ。発起人となった4社に敬意を表し、参画する多くの企業にも感謝する」とあいさつした。
沖縄県環境部部長の棚原憲実氏は「県としても、企業の皆さんとともに沖縄の素晴らしい自然環境を後世に残していきたい」と意欲を語った。
琉球大学 学長の西田睦氏は「私自身も研究者としてリュウキュウアユの研究に取り組んできて沖縄の自然の豊かさ、貴重さを実感してきた。そんななか、独自の進化をしてきたリュウキュウアユが“やんばる”からいなくなってしまった。失ったものは戻らない。貴重な自然が琉球にあることを伝えるお手伝いをしていきたい」と自らの体験を添えてあいさつした。
続く基調講演には、琉球大学 理学部 海洋自然科学科の伊澤雅子氏が登壇。「THE RYUKYU ARCHIPELAGO」と題し、琉球の生物多様性についての講演を行なった。
琉球地域は九州から台湾までの150の島を指し、生物の分布から北琉球、中琉球、南琉球に分けられる。それぞれにしか生息しない固有種も多くいるとのこと。
この地域で特徴的なのが、中大型の哺乳類がいないことが挙げられる。食物連鎖のピラミッドを考えると、土台を支える植物が育つ土地が小さければピラミッドも小さくなるためだ。
そう考えると、西表島という小さな島にイリオモテヤマネコが存在することは貴重なことで、野生のネコの生息地としては世界最小の土地といえる。その貴重なイリオモテヤマネコが、環境の変化や交通事故、外来種、密猟などで絶滅の危機にある。
今回の企業体の発足で、参画するぞれぞれの企業が得意な分野で協力し合えるようになると期待を寄せた。
講演の結びに、「世界自然遺産の先に、『国立沖縄自然史博物館』の設立構想がある。博物館をトップに沖縄まるごと自然公園化を目指せる」と語った。
続いて発起企業4社が登壇してトークセッションが行なわれ、同企業体の今後の展望についてそれぞれが熱い思いを語った。
JTAの丸川氏は、「参画される企業の社員が、保護保全活動に関わることでキラキラ輝く、するといい仕事ができる。そういう企業の在り方のモデルができるのではないか」。
NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の長嶺氏は、「新しい価値を生み出す一歩。新しい産業へのスタートになり得る。若い人たちにチャンスを与える取り組みをこの企業体でやっていきたい」。
NTTドコモの龍氏は、「世界自然遺産は皆さんで取り組んできた結果。それを次の世代に引き継がなければいけない。多くの観光客にも沖縄の環境文化に触れてもたいたい」。
日本郵便の比嘉氏は、「世界自然遺産に登録されたら、地元の特産品に世界遺産という冠が付く。それを日本郵便の2万4000のネットワークを使って全国に発信していきたい」とそれぞれの思いが語られた。
最後にJTAの丸川氏より、「誰かが作るのではなく、一人一人の一挙手一投足が価値を作る。それを社員、社員の家族の皆さんにも実感してもらいたい。価値ある取り組みを、思い、実践していけば形になる」と力強く述べられた。
閉会にあたり、NTTドコモ 取締役 常務執行役員の古川浩司氏が登壇。「大きなうねりが力になることを今回まさに感じた。うねりは、産官学をはじめ、いろいろな人が関わらないと作れない。世界自然遺産登録が見込まれる来年(2020年)は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。空前絶後のインバウンドが期待できる。弊社としても、5G推進室内に世界自然遺産推進チームを置いて取り組んでいる。先進技術で世界自然遺産に貢献していきたい」と結んだ。