大城和歌子の沖縄グルメ&スポット

活気あふれる市場にある素朴でアットホームな居酒屋「生活の柄」

 2005年に亡くなったフォーク歌手・高田渡。彼の代表曲のひとつに「生活の柄(がら)」がある。沖縄出身の詩人・山之口貘の詩に曲をつけたものだ。

 何気ない時間の流れを淡々とつづった、とても素朴な詩。しかし聴けば聴くほど、じわっと心に染みてくる歌だ。

 この歌のタイトルを店の名前に据えた居酒屋がある。那覇市の栄町市場商店街にある「生活の柄」。

 迷路のように入り組んだ市場の中にその店はある。

 厨房を取り囲むように設置されたカウンター。こぢんまりしたように見えるが、2階に上がると座敷があり、くつろぎの空間になっている。天井の梁が見え、床の間もあり、なんともノスタルジックだ。

細く入り組んだ商店街の中に店がある。私は何度か迷ったことがある(笑)

 かなり年季の入っていそうな建物は、店づくりにあたり内部を取り壊してイチから改装したという。コンセプトは「家」。

1階席はカウンター席のみ。10人入れるかどうかのこぢんまり空間
2階席は座敷になっていて、ゆったりくつろげる
床の間にはギターが飾ってある
階段や2階席には仲間が描いてくれた壁画が
厨房と2階席は吹き抜けになっている。2階のお客さんとも一体になりたいとの思いで、わざわざ作ったのだそう

 アットホームな店を切り盛りする店主の「もりと」氏が作る料理は、ワイルドな風貌とうらはらに(失礼!)、素材の味を生かした繊細な味付け。刺身からパスタ料理までジャンルにこだわらず腕をふるってくれる。

 こだわりがあるとすれば、

「野菜は栄町市場でほとんど買ってるかな」

 とのこと。市場で売ってる野菜、それはすなわち地元産のものということだ。

左が店主の「もりと」氏。右はスタッフの「てっちゃん」。見た目はワイルドだが、料理は繊細!
女性客はもちろん、おじさまにも人気のパスタ料理。今日は「ブルーチーズのペンネ(900円)」をチョイス。めちゃ美味!
「マコモのオーブン焼き(220円)」は超シンプルながらまた食べたくなる魅惑の味

 近年、大型ショッピングセンターの台頭で昔ながらの市場、商店街が廃れ気味の中、ここ栄町市場は活気を取り戻している場所として注目されているのだ。

 その活況は、以前、全国放送のニュース番組でも取り上げられ、もりと氏もインタビューに応えたこともある。

 今年8月で13周年を迎える同店。オープンした頃には若い人が経営する飲食店が少なかったが、今では若い人たちによる個性的な店がぐっと増えた。地元客はもちろん、遠方からも訪れる人も多い。

 不思議とミュージシャンも多い栄町市場は、月に一度ストリートライブも絡めたイベントを行なっている。

 もりと氏自身、「マルチーズロック」というバンドでボーカルを執るミュージシャン。

 県内外はもとより、海外からもイベント出演依頼のオファーを受けるほどのオリジナリティーとクオリティーを併せ持つバンドだ。

 つい最近も名古屋で行なわれた野外音楽イベントに出演してきた。CDも何枚かリリースしている。もりと氏の独特な歌声は、強く印象に残る。

 戦後、地域の復興を目指して整備された栄町。市場とともに、大きな料亭も多く立ち並んでいたという。

 しかし、料亭街はほかの地域に移り大きな建物だけが残った。そんな建物に仕切りを作り、数件の店が入居して商売を営む。そうして今の栄町市場の姿を作り上げてきた。

「ひとつ屋根の下って感じが栄町市場の魅力」と、もりと氏は語る。

外はまだ明るいうちからカウンターは常連さんでいっぱいに。お客さんどうしの距離が近いのも魅力のひとつ

 開店してしばらくすると、あっという間にカウンターは常連客でいっぱいになった。肩を寄せ合って飲んでいるようすも、ひとつ屋根の下的な雰囲気がある。

 気取らず気負わず生活と密着している地元市場の中にある居酒屋。「生活の柄」という店名にこめた思いが改めて分かった夜だった。

生活の柄

所在地: 沖縄県那覇市安里388-1
TEL: 098-884-6863
営業時間: 18時~23時
定休日: 火曜日

大城和歌子

横浜生まれのウチナーンチュ二世。東京での出版社勤務を経て1998年11月に沖縄移住、フリーのライターとなり「和歌之介」のペンネームで活動。主に音楽系記事を得意とし、沖縄インディーズの隆盛を間近で体感した。自らも音楽活動をゆる~く展開。現在、那覇市内でレコードバー「リンドウ」を営んでいる。