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小型船で冒険感を味わえるクルーズ「羽田~秋葉原間の舟運の実現を目指した社会実験」

狭い水路や水門の通過、首都高羽田可動橋の見学などが魅力

2015年9月15日 実施

モノレールを望みながら京浜運河を進むジールのルーク号

 国土交通省と東京都千代田区、ジールらで構成される「秋葉原・天王洲・羽田空港舟運プロジェクト準備会」は、9月19日~26日に「羽田~秋葉原間の舟運の実現を目指した社会実験」を実施する。乗船料金は(括弧内は小人料金)は羽田空港~秋葉原間が2900円(2000円)、羽田空港~品川(天王洲)間が1620円(900円)、品川(天王洲)~秋葉原間で2380円(1500円)となる。これは、羽田空港船着場~天王洲~秋葉原・万世橋の船着き場を結ぶ約20kmの定期航路就航を目指すもので、今回の社会実験で得られるアンケート結果や運航結果をもとに定期運航に向けた検討を進めるというもの。9月15日に報道陣向けの体験ツアーが実施されたのでレポートする。

 今回の社会実験では、東京湾を中心にクルージングのツアーを企画するジールが運航を担当する。使用する船は、航路の水深や橋桁下の高さ、折り返しとなる万世橋付近の神田川の川幅などを考慮して、オープンデッキタイプの小型船(定員40名)を3隻(かのん号、ルーク号、粋人丸)使用する。運航速度は平均7~8ノット。屋根はないものの、船の後部には水洗トイレを備えている。

かのん号(定員40名)
小型で屋根のないオープンデッキタイプのため低い橋の下や水門でも通れる
前部にベンチ型の座席、後部に操船部とトイレが設置されている
2つの船体で構成されている双胴タイプ。運航速度は平均7~8ノット
エンジンはヤマハ製で後部に2基搭載
後部のハッチの中には水洗トイレを設置

 今回の体験ツアーは、秋葉原・万世橋にある船着き場を出発し、神田川、隅田川、京浜運河、天王洲運河を通り、ジールの自社桟橋である「天王洲ヤマツピア」で休憩をし、天王洲南運河、京浜運河、海老取川を抜け、多摩川の河口にある羽田空港船着場へ到着する約2時間30分の行程。途中、勝鬨橋やレインボーブリッジ、首都高の羽田可動橋、天空橋など33もの橋を通過、水門の下も2つ通過した。

 15時過ぎに船は万世橋を出発。万世橋~柳橋間の神田川は、屋形船や船屋など江戸の情緒があふれる景色をゆっくり楽しんだ。柳橋の袂にある船宿「小松屋」では三味線の演奏でもてなされ、柳橋周辺の江戸の歴史や文化を聞くことができた。

出発地となる秋葉原の万世橋は神田川にかかる中央通りの橋。神田川は昭和初期には水運が盛んだった
万世橋の袂に設けられた乗船場。施設はあったが、神田川の川幅の制約などから使用されていなかった
乗船場の下には水路があり、左側の橋の下には部屋が設けられている
部屋の中にはジールによる万世橋の歴史などのポスターが掲示されていた
報道陣は「かのん号」と「ルーク号」に分かれて分乗
ルーク号が乗船場に付けられた
乗船場とルーク号は高低差があるため、タラップが用意された
乗船場からの隅田川方向を望む
いよいよ出発。JR東日本 東北本線の橋
船長ほか、ガイドのスタッフが乗船。各ポイントの見どころや由来などを案内してくれるため知的好奇心も満たされた
昭和通りの和泉橋
ここにも乗船場がある
和泉橋の下をくぐる。このツアーでは、リベット打ちなど橋の構造を下から見て楽しめる
清洲通りの美倉橋
左衛門橋
総武線の 駅名の由来ともなっている「浅草橋」
隅田川との合流点にある柳橋
柳橋の袂にある船宿「小松屋」
三味線の演奏でもてなされた
柳橋周辺の江戸の歴史や文化を聞くことができた
冬の閑散期の商売として始められたのが、水産加工品の販売。今でも「小松屋」では佃煮や糸切り昆布、煮穴子などが購入できる

 隅田川に出ると、総武線の隅田川橋梁とスカイツリーの風景を見学したあと、隅田川に掛かる両国橋、清洲橋、永代橋、勝鬨橋などの下を通りつつ隅田川を下り、さらにレインボーブリッジを下からじっくりと観賞。隅田川は水上バスやハシケ、一般船舶の交通も多いため、通過した船の波でやや船が揺れる場面もあったが、川幅の広い雄大な景色と気持ちのよい川風を同乗した報道陣たちもの楽しんでいた。首都高6号向島線の渡河部では、橋桁が橋桁を吊っている珍しい構造を見学できた。

総武線の隅田川橋梁とスカイツリー
隅田川は水上バスも頻繁に往来する
靖国通りの両国橋
首都高6号向島線の渡河部
橋桁で橋桁を吊っている珍しい構造
橋桁を下から望む
新大橋通りの新大橋
清洲橋通りの清洲橋。隅田川には重要文化財に指定されている橋が3つあり、そのうちの1つ
1928年(昭和3年)にドイツのケルン市にあったヒンデンブルグ橋をモデルにして作られた。下から見るとリベット内の構造物がよく見えた
首都高9号線と2段構造の隅田川大橋
永代通りの永代橋。これも重要文化財に指定
月島のリバーシティ21とを結ぶ中央大橋
東京湾の海面の高さを測定する施設
月島とを結ぶ佃大橋
晴海通りの勝鬨橋。重要文化財に指定
現在は使われていないが、中央部が跳ね上がる可動橋
2016年度の移転が予定されている築地市場
築地市場の脇に建設中の東京都市計画道路環状第2号線の築地大橋。隅田川にかかる29番目の橋となる
浜離宮と東京タワーを望む
隅田川の河口から東京湾へ。レインボーブリッジが見える
晴海の客船ターミナル
レインボーブリッジを走る「ゆりかもめ」
振り向くと、豊洲やリバーシティ21などの高層マンションが見えた
レインボーブリッジのお台場方向を望む
いよいよ橋の下にさしかかってきた
下から見たレインボーブリッジの構造
レインボーブリッジを過ぎると品川ふ頭と大井ふ頭のクレーン群が見えてくる

 レインボーブリッジをくぐったあとは、京浜運河に入り、倉庫街などを見ながら天王洲運河へ。東海道新幹線の大井車両基地線と東京貨物ターミナルに通じる東海道貨物線の鉄橋をくぐり、天王洲運河へ。ここで天王洲水門をくぐる。普段はあまりできない体験に乗船した一同は興味深くカメラを向けていた。新東海橋を抜けると、ジールの自社桟橋である「天王洲ヤマツピア」に到着し10分の休憩を取る。「天王洲ヤマツピア」にはレストラン兼待合室「キャプテンズワーフ」があり、スタッフがドリンクでもてなしてくれた。出発して目黒川水門を抜け、天王洲南運河から京浜運河へ戻る。

お台場沖の無人島「第6台場」
ここで船は京浜運河に入る
京浜運河の入口には東京消防庁の高輪消防署港南出張所がある
警視庁 警備艇も係留されていた
品川ふ頭などを結ぶ港南大橋
東京貨物ターミナルと大井車両基地に向かう東海道貨物線と東海道新幹線の鉄橋。手前は休止中の東海道貨物線
反対側の東海道新幹線の鉄橋
第一ホテル東京シーフォートの手前で天王洲運河に入る
「第一ホテル東京シーフォート」は旧第4台場に作られており、石垣を見ることができる。ちなみに、シーフォートとは「海の要塞」つまり、要塞として作られた台場が名前の由来
首都高1号羽田線とモノレールが上を通る天王洲大橋
天王洲大橋をくぐるとすぐに天王洲水門がある
水門の下をくぐる
水門の真下
水門の内側に出た
港南公園に掛かるトラス橋
この橋を越えると天王洲南運河に入る
山手通りに接続する新東海橋
ジールの自社桟橋である「天王洲ヤマツピア」に到着し10分の休憩を取る
レストラン兼待合室「キャプテンズワーフ」
出港時にスタッフが手を振って見送ってくれた
目黒川水門
目黒川水門を抜ける
水門の真下
水門の反対側には鯨の模様と隠れ文字で「しながわ」と絵の中に書かれている。江戸時代に鯨がこの地に流れ着いたのが由来
東品川海上公園にかかるアイル橋
東品川橋。この下はりんかい線が通る

 京浜運河は東京モノレールと首都高1号羽田線が併走しており、モノレールの走行シーンや運河に浮かぶように作られた橋脚などの構造を見ることができた。なお、現在は京浜運河の北側を運航する定期船は設定されていないため、本航路の見どころの1つと言えるだろう。京和橋を抜けると、羽田空港の管制塔などが見えてくる。ここで船は昭和島の陸に沿うように大きく迂回。昭和島沖は水深が浅く、この小型船をもってしても座礁の危険性があるため、水深の深い陸沿いの部分を進む。

再び京浜運河へ
首都高1号羽田線と東京モノレールの下をくぐる
東京モノレールや首都高1号羽田線の水上にある橋脚を見ることができた
京浜運河を羽田方面へ
東京モノレールの軌道も京浜運河の上に作られている
首都高中央環状品川線の入口に繋がる大井北ふ頭橋
首都高1号羽田線から湾岸線に繋がる渡河部と海岸通りに繋がる八潮橋
東京モノレールの一部は運河に張り出して敷設されている
品川八潮パークタウンの団地群
歩行者用のかもめ橋
大井競馬所前駅の前にある勝島橋
東京モノレールの大井競馬所前駅
臨海斎場や大田スタジアムに繋がる平和橋
環七道りの大和大橋
青果物や水産物、花を扱う大田市場。話をあしらった建物のオブジェが特徴的
昭和島と京浜島の付近では運河が十字路になっている。湾岸道の東海JCT(ジャンクション)と首都高1号羽田線 昭和島JCTを結ぶ渡河部
東京消防庁の訓練場。船舶火災を想定した訓練施設などもある
昭和島と京浜島を繋ぐ京和橋
昭和島にある森ヶ崎水再生センター
いよいよ羽田空港が目前に。管制塔が見えてきた
羽田空港のA滑走路から飛び立つANA機
空港に駐機してある飛行機
首都高1号羽田線の可動橋が見えてきた
船は昭和島の陸に沿うように大きく迂回。昭和島沖は水深が浅く、この小型船をもってしても座礁の危険性があるため

 海老取川の入口には、首都高1号線の羽田可動橋がある。この可動橋は1990年に渋滞緩和を目的として作られたが、1998年に使用を中止。現在は解放された状態となっている。海老取川を航行できるのは、今回使用されている小型船クラスに限定されるため、この可動橋を水路から見られるのも貴重な体験だ。海老取川に入り、整備場駅の脇を進むと、川幅はどんどん狭くなり、稲荷橋、天空橋などは、手を伸ばせば橋に触れられそうなほど橋の下すれすれを通過。弁天橋を抜けると多摩川の河口に出る。すっかり日も残照となり、羽田空港国際線ターミナルの灯りを見ながら船は羽田空港船着場に17時45分に到着した。

首都高1号羽田線の可動橋の桁部分に書かれた注意書き
この可動橋は、1990年に完成したが1998年より使用休止となっている
可動橋は開いた状態で固定されている
17年近く使用されていなが、メンテナンスはされている
海老取川から可動橋を望む。可動橋の構造がよく分かる
海老取川からは海上保安庁の格納庫や報道関係の格納庫が見える
首都高1号羽田線の渡河部
東京モノレール整備場駅
「MRJ」のロゴが見える三菱航空機のビル
ヤマト運輸の物流施設「羽田クロノゲート」
個人所有のボートなどが係留されている
急に川幅が狭くなってくる
環八通りの穴守橋
空港に繋がるだけあり、飛行機のオブジェがある
橋の欄干には、旅客機の歴史がレリーフとして飾られている
橋の天井すれすれを通る
稲荷橋
鉄道のプレートガーター橋のような地味な橋
実はこれが「天空橋」
橋の袂には、東京モノレールと京急の天空橋駅の入口がある
ここは羽田空港の天空橋船着場
環八通りと羽田の住宅地をつなぐ弁天橋
「平和」と書かれた有名な鳥居
海老取川と多摩川の合流付近
多摩川にかかる高速大師橋を望む
羽田空港の国際線ターミナル
D滑走路に降りるJAL機
目的地の羽田空港船着場
約2時間45分のクルーズはここで終了
羽田空港船着場の建物
羽田空港船着場の入口ゲート。ここから国際線ターミナルへは歩いて20分ほど
株式会社ジール 代表取締役社長 平野拓身氏

 羽田空港船着場は、国際線ターミナルビルから歩いて20分ほどの場所にあるため、空港へのアクセスにも優れている。ジール 代表取締役社長 平野拓身氏によると「日本人はもちろん、インバウンドの外国人にも世界の観光地である秋葉原へのクルーズを楽しんで欲しいと考えています。今回の社会実験の結果をもとにして東京オリンピックまでに定期運用化を目指します」と述べた。

 本社会実験は、すでに最初の販売分はすべてのチケットが完売しており、追加として増便分が9月21日~25日に設定されたほどの人気となっている。なお、増便分も販売終了となっている便が出てきている。オープンデッキタイプのため、小雨の場合は運航されるが、荒天予報の場合は運航が中止となる。屋根のないオープンデッキタイプの船は、心許なくやや怖いと感じるかも知れないが、景色の見通しのよさは抜群で、冒険感あふれるクルーズが楽しめた。

(編集部:柴田 進)