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軍艦島への上陸を疑似体験できる「軍艦島デジタルミュージアム」が長崎市にオープン

上陸ツアーをおこなう軍艦島コンシェルジュが設立し9月中旬にオープン予定

2015年9月オープン

場所:長崎県長崎市松が枝町5-6 カステラ長崎堂内

軍艦島をデジタルと元島民の力で体験可能に

 長崎県の端島、通称「軍艦島」への上陸・周遊ツアーを行なっている「軍艦島コンシェルジュ」を運営するユニバーサルワーカーズ(長崎県長崎市)は、プロジェクションマッピングなどデジタルコンテンツ業務を行なっているZero-Ten(福岡県福岡市)との協業・プロデュースを受けて、「軍艦島デジタルミュージアム」を、9月中旬にオープンさせる予定だ。炭鉱として栄えていた当時の生活の様子を疑似体験や、3Dデータ化された軍艦島の映像を視聴できる施設である。今回は、9月9日に行なわれた報道関係者向けの内覧会の様子をお届けしよう。

 正式なオープン日はまだ未定だが、決定次第公式サイトにて発表される。取材当日はすべてのアトラクションが体験できる状態ではなかったが、1つ1つのスペースが持つ役割はスタッフが説明してくれた。実際に立ち寄った際もほとんど差はないだろう。

 フロア構成は、1~3階となっており、1階で受け付けを済ませて階段で上階に上がり、2階と3階にアトラクションや展示物が設置されている。ミュージアムが入居しているビルは、観光スポットとしても有名な、グラバー園や大浦天主堂からほど近い「カステラ長崎堂」のビル内。レストランとして営業していたフロアを改築しており、観光で立ち寄りやすい立地だ。

黄色い長崎堂の看板が目印。入り口は写真の右側。住所は長崎県長崎市松が枝町5-6
1階は受付け。今後、グッズの販売場所としても機能する可能性もあるとのこと
2階に上がってきて、振り向いた状態。右奥の2つの扉はトイレ。壁には当時の生活を写した様子が

最新テクノロジを駆使した展示物が魅力の2階

 2階に上がると、早速大きなスクリーンが目に飛び込んでくるが、その説明は後ほど。

 まずは、軍艦島を写真で3Dデータ化した「映像ギャラリー」へ。これは、ドローンに搭載された高画質カメラにより撮影された4000枚もの画像を組み合わせて3D化。現在の「島」が液晶ディスプレイで再現されている。3Dモデリングなので、この撮影データから、建造物のポリゴンデータを生成することができ、他の展示物への応用も可能とのことだ。

「映像ギャラリー」
このブースの制作を担当したリサーチコンサルタントの西村正三氏
「ストラクチャーフロムモーション」という技術が使われており、複数枚の画像を組み合わせることにより、3D形状とカメラ位置の割り出しが可能
撮影は2台のドローンで空撮。合計4000枚もの撮影データによって軍艦島の3D映像が完成した。カメラの画素数は2400万画素ほどとのこと
黄色いポイントが撮影した箇所を表している。
ベルトコンベアーの支柱のデータから……
ポリゴンデータが生成されている図
通常のマッピング表示状態

 次は、島内に30棟以上も林立していた鉄筋コンクリートアパートの一室を再現した「65号棟の暮らし」というブースへ。島内最大といわれたマンモス棟である「65号棟」は317戸もの住居があり、住民たちは昭和30年代の家電ブームにいち早く乗った裕福な暮らしぶりだったという。その雰囲気がこのブースで表現されている。

「65号棟の暮らし」
当時としては裕福な暮らしをしていた軍艦島の人々。廃れてしまった炭鉱のイメージからは想像しにくいが、石炭産業の最盛期は日本経済を支える分野だったということが分かる

 その隣には、アーチ状のスクリーンが広がる「炭鉱現場への道」と題した、坑道を擬似体験できるミニシアターがある。外からは見えない採炭現場の中身がCGで再現されており、鉱員たちとケージ型エレベーターに乗って、地下数百mを降りて、さらにトロッコで各自の持ち場へと向かう体験ができる。

「炭鉱現場への道」
ケージが地下深く降りていく時はデプスゲージ(深度計)も連動して動く。マイナス606mの地点で坑道に到着
鉱員が作業している様子。当時は、かなりの高湿度な環境での労働が当たり前だった

 大型の壁面スクリーンを利用したマッピング「軍艦島シンフォニー」。貴重な3000枚もの資料写真や、動画などをコラージュさせた演出で、当時の島の雰囲気そのままを再現したような投影が、幅30mもの広さに映し出されるさまは圧倒的。

「軍艦島シンフォニー」
線画から鉄筋コンクリートのアパートに変わっていく様子も映し出される
島内で元気に遊びまわる子供たちの姿
鉱員たちの当時の働く姿そのものが投影される
アパートのワイヤーフレームに……
壁面が浮かび上がり、建物があらわれる演出

 2階の最後は、タッチパネル式のさまざまな質問が飛び出す「軍艦島の謎」と名付けられたアトラクション。取材時はデモ画面のみで実際にクイズを解くことは叶わなかったが、なぞなぞを通して世界一の人口過密ぶりや、最先端技術が用いられた日本一・世界一を知ることができる。

「軍艦島の謎」
タッチパネルは3基設置されている

そこで暮らしていた人々の息吹が伝わる3階

階段の壁にはマンションの階段で遊ぶこどもたちの写真が
軍艦島を1/150で再現した真っ白なジオラマには、プロジェクションマッピングで街の表情にバリエーションが付けられる

 3階は、2階ほどの広さはないが、子供も楽しめるようなコンテンツが展示されている。まず、階段を上がると、目の前に現れる「軍艦島の表情」と名付けられた多面体のオブジェ。さまざまな島民の表情が代わる代わる映しだされ、団結しながら生活していた様子がよく分かる展示物となっている。

「シマノリズム」と命名された真っ白なジオラマは、軍艦島を忠実に再現。プロジェクションマッピングにより、団欒や夫人が買い物している様子、子供たちがプールに入っているシーンや、星空や花火を投影しているところなど、見応え十分のジオラマに仕上がっている。特に後ろのスクリーンに映し出される島民の表情にも注目したいところだ。

 そのほかに、「Wonder Island」と題された、1枚の絵画が飾られていたが、近づいてみるとどうやら水墨画のようだ。軍艦島の絵が描かれているが、作者である日本画家の絹谷香菜子氏に、どのような意味をもつ絵なのか訊ねたところ、「軍艦島で採炭された石炭を砕いて墨の代わりに使って描きました。やはり炭鉱、しかもそこで採れた石炭を使って描くアイデアは面白いですよね。海が青いのは青墨なんですよ」とのこと。

 その隣には、まだ試作だったが、人の動きに反応して、絵の中にさまざまなアイテムが踊るように動くインタラクティブな大型イラストも掲示する予定だ。絵の前に立ってジャスチャーしてみると、面白い反応が起こるはず。

「軍艦島の表情」
「シマノリズム」
島の日常
建物の下で白く光っているのは、住んでいる人間が動いているような役割を持っており、よく見ると細かく走りまわったりしている
一家団欒の様子
憩いの場で仕事の疲れを癒やす
満点の星空
花火を打ち上げる演出も
「Wonder Island」の作者である絹谷香菜子氏

上陸ツアーの欠航をカバーする役割も

 軍艦島の上陸ツアーは、島の目前で天候不順などによって上陸ができないというケースが多くある。観光客の場合、そう何度もチャンスがあるわけではないが、この豊富な資料と最新のテクノロジが生み出す貴重な資料たちは、ユニバーサルワーカーズが考える最大限のおもてなしの証だ。

 もし、島の目の前で引き返すことになっても、このデジタルミュージアムがその役割を担うことになる。もちろん、上陸して自分の目で見てきたあとに、ココで資料を見ながら再確認するという楽しみ方も大いにアリだろう。

 プロデューサーを務める久遠裕子氏いわく、「天候が相手の上陸ツアーで、くやしい思いをされる方のために、なんとか代わりになるものを作りたいという思いからこのプロジェクトをスタートさせました。ツアーをしていると海外の方の反響も大きいです。映画の007の影響が大きいと思います。もちろん世界文化遺産に登録されましたから、注目度の高まりはヒシヒシと感じます。市民の方は半額で楽しんでいただけますので、グランドオープンの際には多くの市民のかたにご来場いただきたいですね。それから、元島民の皆さんからも資料の提供などのおかげで、ここまでハイクオリティなコンテンツが作り出せたと思っています」と語ってくれた。

 正式なオープン日は公式サイトで発表されるとのことなので、気になった読者はオープンを待とう。

軍艦島デジタルミュージアム概要
開館時間9時~20時(年中無休)
入場料一般1800円、中学生・高校生1300円、小学生800円、幼児(3~6歳)500円、3歳未満無料
所在地〒850-0921 長崎県長崎市松が枝町5-6
TEL095-895-5000
FAX095-895-5005
Webサイトhttp://gdm.nagasaki.jp/

(赤坂太一)