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JR西日本、SLの聖地「梅小路蒸気機関車館」を閉館。「京都鉄道博物館」の一部として2016年春オープン

京都鉄道博物館の屋外展望デッキ「スカイテラス」を公開

2015年8月24日発表

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は8月30日、梅小路蒸気機関車館(京都市下京区)の閉館セレモニーを開催した。

 梅小路蒸気機関車館は1972年、日本国有鉄道(当時)が鉄道開業100周年を記念して開館、1985年4月に発足したJR西日本が継承したもの。開館にあたっては蒸気機関車の動態保存を大きな目的として日本各所から車両が集められ、扇形機関庫での展示はもちろん、毎日「SLスチーム号」として展示線での運転を実施していた。今回の閉館は2016年春の開業を予定している「京都鉄道博物館」建設に伴うもので、同施設の敷地を含む周辺エリアの再整備が行われる。

 当日は一時閉館を惜しむファンや、子供連れのファミリーらが夜明けから並びはじめ、開館前には約1000人ほどに膨れあがり、隣接する梅小路公園にまで長い列が形成された。そのため、本来なら10時のオープンを10分前倒して9時50分に繰り上げる措置がとられたが、お昼過ぎても入場を待つ来場者が続々と列を作った。

小雨が降る中、開館前から1000人あまりのファンらが列を作った
旧二条駅舎を移築し利用する梅小路蒸気機関車館のエントランス
駅舎には駅名代わりに梅小路蒸気機関車館の看板が掛かる
静態保存の機関車も含め、機関車の“頭出し”が行なわれ、機関車には専用の旗が掲出された
扇形車庫とターンテーブル
ターンテーブルには9600型9633号機を展示
入換用機関車 B20型B20 10号機と北海道で活躍した「義経」の愛称を持つ7100型7105号機
日本最大の旅客用機関車 C62型1号機と2号機。2号機は側面のデフレクターに燕の紋章「スワローエンゼル」を掲出し、東海道本線 特急「つばめ」などをけん引
お召専用機の装飾を施された C58型1号機と、貨物用機関車 D50型140号機
貨物用機関車 D52型468号機と旅客用機関車 C59型164号機
3シリンダー機の C53型45号機と旅客用機関車 C51型239号機
「SL北びわこ号」などで走行する機会が多いC56型160号機
閉館特別展のポスター
カウントダウンの残り日数は「0」日
京都鉄道記念館の開館を告知するポスター
グッズ販売の列は閉館直前まで途切れることなく続いた
一部の展示物は移設を前にすでに取り外されていた
懐かしい写真が飾られた「思い出写真展」

 閉館に伴うセレモニーには、主催者側としてJR西日本 代表取締役社長兼執行役員 真鍋 精志氏をはじめ、同社 執行役員 近畿統括本部副本部長 近畿統括本部京都支社長 岩崎 悟志氏、同社 梅小路運転区 区長 藤谷哲男氏、梅小路蒸気機関車館 館長 三浦英之氏。来賓として蒸気機関車館の地元、京都市 下京区 区長 山本耕治氏、大内自治連合会 会長 本政和好氏、七条学区自治連合会 会長 西村為彦氏が列席した。

西日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長兼執行役員 真鍋精志氏

 JR西日本 代表取締役社長兼執行役員 真鍋精志氏は「43年間にわたりまして大変多くの皆様にご来館を賜りまして、今日では850万人を超える皆様においでいただきました。当初、国鉄が蒸気機関車館をどこに作るかという議論の際に、関東の方に作ってはどうかというお話もありましたが、やはり日本全国から多くの皆様がお集まりいただくのにふさわしい国際都市、観光都市でもあります京都ということになったのであります。以来、多くのお客様にご利用頂きましたが、その名前の通り蒸気機関車にコダわろうということで、SLの歩み、SLの仕組みや技術にもコダわって参りました。さまざまなイベントや催しをさせていただきながら、今日まで皆様にご愛顧いただいて参りました。この蒸気機関車館は、いったん閉館をさせていただきまして、来年の春、新たに隣にオープンいたします博物館と一緒に“京都鉄道博物館”という名前のもとに一新し、新しくまた皆様にお目にかかれると思っておりますので、ご期待いただければと思っております。長い間、大変皆様にご愛顧いただきました、そのことに改めてお礼を申し上げる次第でございます」とスピーチ。

京都市 下京区 区長 山本耕治

 京都市 下京区 区長 山本耕治氏は蒸気機関車館について「京都の町づくりになくてはならない施設」と前置き。JRや地域の企業と一緒に街づくりを進め新しい人の流れを生みだそうとする試みの中で、新しく生まれる京都鉄道博物館が寄与することを「下京区民、あるいは京都府民として大変期待をしている」コメントした。

梅小路蒸気機関車館 館長 三浦英之氏

 この6月に館長になったばかりという三浦氏は、多くのお客様に帰り際「ありがとうございました」と言っていただいたことが印象に残ると言う。「入館料を払っていただいたうえに、お礼まで言っていただける。この館の魅力はなんと素晴らしいんだろう」と実感したそうだ。また、旧二条駅舎や扇形車庫が取り壊されるのでは? と心配の声を聞くことも多く、その際には「このまま新しい博物館の一部になります」と伝えると一様に安堵の表情を浮かべるというエピソードを紹介。「いかにこの館が皆様方に愛され、親しまれているかを実感」したと話した。最後に「梅小路蒸気機関車館という名前は今日が最後になります。梅小路蒸気機関車館の43年間のご愛顧、誠にありがとうございました」と来館者に感謝の意を示し、締めくくった。

 15時過ぎ、SLスチーム号を牽引する8630型が扇形車庫に収ると、通常なら徐々に入館者が減っていくが、この日は特別にC62 1号機がDE11に牽かれて登場。16時過ぎにはC62 1も車庫に戻り、17時過ぎには閉館を告げる蛍の光が流れ始める。たが、閉館時間の17時30分を過ぎても別れを惜しむ来館者の退場は進まず、18時10分、ようやく閉館を迎えた。最後にスタッフと館長の三浦氏が登場。三浦氏は「本日はご来館、誠にありがとうございました。過去に経験したことのないほど多くの方に来ていただきまして、本当にこの館は皆様方に愛され、親しまれてきたんだなということをまさしく実感した次第でございます。一端、この梅小路蒸気機関車館は閉館となりますが、来年春、隣に今建設されている施設と一体となりまして『京都鉄道博物館』として開館いたします。また、そのときはこちらでお会いしましょう。本当にありがとうございました」と、梅小路蒸気機関車館館長として最後の挨拶を締めくくった。

淳風小学校の生徒による演奏会も行われた
ターンテーブル上の9633は引き込み線に移動。SLスチーム号を牽引する8630と並んだ
この日、SLスチーム号は15分おきに走行と多忙を極めた
SLスチーム号の運転を終え車庫に戻る8630
代わりにC62 1がターンテーブルに登場
C62 1号機と2号機の対面
閉館近くなってもファンの波は途切れない
閉館間際、C62 1がDE11に押され車庫に戻っていく

 この日の最終的な来館者数は、JR発足以来過去最高となる1万1206名。1972年10月9日の開業からの営業日数はのべ42年10か月3週間(1万5662日)となり、総入場者数は848万8350名。通常は毎日3回となるSLスチーム号は15分間隔で運転され1315名が乗車。1994年9月23日に始まった体験乗車から数えると、268万9746名が乗車したことになる。

最終日のSLスチーム号を担当した運転士。左から京都電車区の古井新治さんと松山剛士さん、みやこ列車区の勝井浩一さん。松山さんは「最後の日に乗務できて光栄。一番新米ですが春までにはウデを磨いて開館に備えたい」と話してくれた
整備担当を担当する梅小路運転区の村田篤史さん(左)、柳川令樹さん、今井將博さん、中川裕登さん、桑原利雄さん、守屋弘一さん。一様に「名前は変わるが今まで以上に楽しめる博物館にしたい」と抱負を語ってくれた
閉館時にはスタッフがお見送り
最後の挨拶を行う三浦氏
別れを惜しむファンに手を振って挨拶
「梅小路蒸気機関車館」は、東海道本線のSLの基地であった旧「梅小路機関区」の施設を活用し「SLの動態保存」のために造られた博物館

京都鉄道博物館「スカイテラス」

 2016年春の開業を目指して準備が進む京都鉄道博物館。その目玉のひとつとなる屋外展望デッキの名称が「スカイテラス」となることに決定、報道関係者向けのお披露目のセレモニーが実施されるとともに、建設途中の様子が報道陣に公開された。

 スカイテラスは3階建てとなる京都鉄道博物館の屋上に作られる展望施設。一段高くなったウッドデッキが320m2、床レベル部分が310m2、植栽部分が270m2で、延床面積は900m2となる。地上12.5m(デッキ部分からだと13.1m)のテラスからは、左手に京都タワー、右手には世界遺産となる東寺五重塔など京都の東側を一望することができるほか、新幹線をはじめ京都線、嵯峨野線などを行き交う列車の走行シーンも眺めることが可能となっている。

 セレモニーにはJR西日本 代表取締役社長兼執行役員 真鍋精志氏、京都市 市長 門川大作氏が出席した。

西日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長兼執行役員 真鍋精志氏

 真鍋氏はスカイテラスの名前の由来について「新幹線、東海道本線、山陰本線と3つの線が楽しめ、かつ転車台を中心としました旧蒸気機関車館が見渡せる。さらには京都の町全体、東寺から京都タワー、そして東山方面、京都の町並みが一望できるということにちなみまして“スカイテラス”と名付けさせていただきました」と説明。また、「SLの検収庫にも建物から行けるようになっており、ターンテーブルと蒸気機関車を見ることができる」とファン向けにアピールしつつ、「単に車両が並んでいるのを見るだけでなく、京都の町並みと合せてお楽しみいただきたい」と京都博物館ならではの楽しみ方も伝えた。一方で、鉄道博物館の意義については「私どもは京都の鉄道博物館を地域と歩む鉄道文化拠点ということで、京都西エリアの皆様方と一緒になった博物館として盛り上げていきたい、地域の活性化に繋げていきたい。新しくなります博物館のさらに2年後には新しく駅も作る予定です」と地域全体のメリットを説明。「ますます多くの皆様方にお越しいただき、地域とともに共生していきたい」と語り、「来年の春には花や緑に囲まれた、そういう博物館に生まれ変わりたい」と考えているした。

京都市 市長 門川大作氏

 京都市 市長 門川大作氏は「京都は世界に冠たる歴史都市であり“観光人気世界一”と、そんな評価もいただいています。同時に147万人の市民が生き生きと暮らす街、モノづくりの街、また宗教都市。さまざまな都市の特性を持っております。しかし、150万人規模の都市にも関わらず港がない、飛行場がない、世界で唯一だという評価もいただいています。すなわち鉄道がすべてである。こういう街であります。京都駅、京都駅に繋がる梅小路地域、鉄道によってこの150年、発展してきた町であります。そしてこの地から京都の歴史が、文化が、あらゆる京都の都市の特性を感じていただける。水族館でイルカショーを見ながら、新幹線が、在来線が、そして蒸気機関車の音が聞こえる。こんな場所はほかにございません。どうぞ多くの人に楽しんでいただき、そして人と交通公共優先の歩く街、環境先進都市京都を、共々に作っていきたいと思います」とスピーチ。

 鉄道博物館ができるエリアについては「素晴らしい文化的な遺産がたくさんあるが、あまり観光客が来ていない。京都鉄道博物館ができることで地域一帯の発展に繋がることを期待したい」とした。また、京都を訪れる観光客は20年前にはマイカーが41.7%、2年前は15.1%、昨年9.9%と減少しており、逆に鉄道は20年前に50%あまりだったのが現在は80%超えているとし、「京都は鉄道で訪れる街」という認識をより加速したいと話した。

京都鉄道博物館屋上に設けられた展望デッキ「スカイテラス」
真鍋氏と門川氏がガッチリ握手する背後を新幹線が通り過ぎてゆく
ウッドデッキ部分。報道陣からは「ビアガーデンにしたら最高」なんて声も
透明な壁の高さは150cm、その奥の柵は110cm。ウッドデッキは60cmかさ上げされているため柵はほとんど気にならない。間のコンクリート部分は植栽が施される
28mmレンズでの眺め。左に京都タワー、右に東寺が見える
京都駅方面
京都駅到着直前の新幹線。これは300mm
東寺と新幹線
在来線と新幹線。運転本数が多い区間なだけに眺めていても飽きることがない
SLスチーム号はちょっと見えづらい
嵯峨野線と京都タワー

【お詫びと訂正】記事初出時、京都市 市長 門川大作氏のお名前に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

(安田 剛)