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全国89の空港を巡って「空の道」の安全を守る国交省の「ドクターホワイト」
セントレアを拠点に飛行検査機はセスナ 525C型機など6機体制
2017年8月22日 15:19
新幹線の軌道などの検査を行なう「ドクターイエロー」のように、航空機が空港から空港まで安全に運航できるよう、「空の道」を実際に飛行して検査するのが国土交通省 航空局の「飛行検査機」。
「ドクターホワイト」とも呼ばれるこの飛行検査機を、羽田空港で見学する機会を得られたのでレポートする。
日本における飛行検査は太平洋戦争後しばらくは米軍が行なっていたが、民間機が離着陸する空港施設の検査については業務移管を進め、1961年にはダグラス DC-3を使った飛行検査を日本側が実施。現在飛行検査機は、1998年に就航したサーブ 2000型機が2機、2006年に就航したボンバルディア DHC-8-300型機が1機、2015年に就航したセスナ 525C型機(サイテーション CJ4)が3機の6機体制で、業務を行なっている。
長年羽田空港を拠点に飛行検査を行なってきたが、施設の老朽化などにより2014年に拠点をセントレア(中部国際空港)へ移転、国土交通省 航空局 交通管制部 運用課の「飛行検査センター」として飛行検査を行なっている。3機のセスナ 525C型機が2015年10月にセントレアの飛行検査センターへ納入された様子は、本誌記事も参照していただきたい。
飛行検査機は、管制官との交信などで自機を示すコールサインを「チェックスター」と呼び、2機のサーブ 2000型機には「チェックスター3/4」、ボンバルディア DHC-8-300型機には「チェックスター7」、3機のセスナ 525C型機には「チェックスター8/9/10」が割り当てられている。
飛行検査機に搭載する飛行検査システムは大型で複数人での運用が必要だったが、2015年に就航したセスナ 525C型機ではこのシステムを小型化し、運用人員の削減、燃料費用・整備経費の低減を実現している。2機のサーブ 2000型機は2017年度中に退役し、セスナ 525C型機をさらに導入する予定だ。
セントレアにある飛行検査センターでは、操縦士23名、航空整備士20名、無線技術士20名、運航管理3名(いずれも取材時の人数)が所属し、飛行検査を行なっている。検査の対象は、自衛隊や米軍基地を除く民間機が離着陸する空港で、北は礼文や稚内、南は与那国や波照間まで89の空港、555の施設を、少なくとも1年に1回は検査している。月曜か火曜にチームで飛行検査機に乗り込んで出発し、3泊~4泊で数カ所の空港を検査してセントレアに戻ってくるというスケジュールが多いそうだ。
観光やビジネスで我々が搭乗する航空機は空を自由に飛んでいるわけではなく、空港と空港の間を定められた「航空路」を飛行している。空港を離着陸する際のルートは「方式」と呼ばれ、これも定められている。例えば自宅からクルマで出発して高速道路に着くまでのルートが「方式」、そして高速道路が「航空路」というイメージだ。
この方式と航空路を安全に飛行できるかを確認するのが飛行検査となる。
飛行検査の業務は大別すると3つ。無線、レーダー、通信施設、航空灯火が正しく機能しているかを確認する(狭義としての)「飛行検査」、空港を離着陸する際の方式に安全上の問題がないか、パイロットが誤解しやすい箇所がないかを確認する「飛行検証」、空港や施設を新設、新しい技術を使ったシステムを導入する際に確認する「飛行調査」がある。
狭義の飛行検査では、空の道を航空機とパイロットに示すために地上の無線施設が発射している電波が正しいものか、離着陸時に使用する空港内に設置された無線施設が正しく機能しているか、夜間や悪天候時に「ここに滑走路がある」ことを示す「航空灯火」が正しく作動しているかといったことを検査する。
「ILS(Instrument Landing System:計器着陸装置)」は、視界不良時でも滑走路に安全に着陸するための方向をパイロットに指示する無線施設。縦方向・進入角を示す施設を「ILSグライドスロープ」、横方向・コースを示す施設を「ILSローカライザー」と呼ぶ。一部の空港ではローカライザーのみでの運用もあるそうだが、多くの空港ではこの2つを組み合わせてパイロットに正しい進入角とコースを示している。
ILS施設の検査では、飛行検査機は滑走路への進入経路に対して横切る「アークフライト」、滑走路への進入経路に対して一定高度で飛行する「レベルラン」、グライドスロープの降下角度で進入する「ローアプローチ」を行ない、ILS施設からの指示と、搭載する検査システムの計測にズレがないかを確認する。
ILSは無線で航空機の計器に情報を示すものだが、「PAPI(Precision Approach Path Indicator:進入角指示灯)」は灯火を使い目視でパイロットに進入角を示す施設。着陸するパイロットから見て、滑走路の横に4つ並んだ灯火の色で、降下中の航空機の角度が適切なものであるかを表示している。適切であれば左から「白・白・赤・赤」となる。高度が高過ぎる場合は白が増え、低過ぎる場合は赤が増える。
このPAPIも「進入灯」などそのほかの航空灯火とともに確認する。滑走路への進入経路に対してPAPIから一定の距離を保ちながら横切る「アークフライト」、角度を上下させながら進入する「ローアプローチ」を行ない、4つの灯火が正しく表示されているかを検査する。
空港を離着陸する際の方式を検査する飛行検証は、設定した方式の方向と高度について、航空機の運動性能とパイロットの操作で実際に無理なく、誤解なく飛行できるかを確認する。
まず、事前にデスクトップシュミレータによって飛行前検証を行なう。デスクトップシュミレータでは、風向きや強さ、気温といったさまざまな天候条件を設定し、どのような場面でも安全に飛行できるかを検証する。そして、飛行検査機で実際に飛行して、その方式に無理がなく、安全に飛行できるかを確認する。下の画像では、阿蘇の外輪山の側を飛行して熊本空港に着陸する際の方式の検証を示している。
「飛行調査」は空港が新設されるときなどに行なわれるため、実施することは少なく、通常は狭義の飛行検査が主な仕事となっている。便数が少ない地方空港では、航空機の離着陸の合間を縫って検査できるが、羽田のような混雑する空港では早朝などに検査を行なっているそうだ。これらの検査を経て飛行検査報告書が作成され、保守業務に活用され、空の安全が守られている。