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東名多摩川橋を6車線のまま床板交換する方法とは? ハイウェイストライダー稼働現場を見てきた!
2022年5月23日 18:00
- 2022年5月20日 公開
NEXCO中日本(中日本高速道路)は5月20日、リニューアル工事を進めている「東名多摩川橋」(東京都世田谷区、神奈川県川崎市)の現場を報道公開した。
同社の管轄エリアでは供用から30年を越える道路が約6割、加えて東名高速道路や名神高速道路のように開通から50年以上が経過する道路も存在する。これまでは部分的な補修により健全性を確保してきたが、建設当初の性能まで回復するのは難しく、また、耐震規制の強化などに対応する必要があることから、大規模更新または大規模修繕を多くの道路で進めている。
東名多摩川橋が位置するのは、1968年に開通した最初期区間。建設(竣工は1966年12月)から50年以上が経過するとともに、施工時には想定されていなかった1日10万台を超える交通量があることから老朽化が進行。これまで部分的な補修や補強が行なわれてきたものの、橋梁の床部分となる床版においてはコンクリートの剥離や内部鉄筋の露出などが確認されるようになってきたことから、抜本的な対策を取る必要性が生じてきた。
従来、床板を交換する際には工事を行なう側の橋を通行止めにして作業エリアを捻出、残る片側を対面通行にする手法が用いられてきたが、前述のように1日10万台を超える交通量がある同区間では激しい渋滞を招いてしまう恐れがある。郊外であれば工事区間を一時的に拡幅する手法も使えるが、住宅密集地に隣接しているためコストや工事期間を考慮すると現実的に不可能。そこで考えられたのが、今回採用された「床版分割施工」だ。
東名多摩川橋工事で用いられた技術
工事期間中においても現状と同等の車線数を確保しつつ、床版取り替えを進めていくために採用されたのが以下の技術だ。
自走式門型架設機(ハイウェイストライダー)
14.4tの揚重作業が可能な電動巻き上げ機構を採用。狭いスペースを移動しつつ古い床版の撤去、新しい床版の設置を可能にする。3枚の床版を約1日で交換でき、そのあとは新たな交換場所に移動して作業を続ける。フレーム部分を伸縮可能な構造とすることで、撤収時も分解することなくトレーラーに積み込み移動することが可能。4台が製作され作業にあたっている。
スリムトップ床版を用いたスリムファスナー工法およびスリムNEOプレート工法
交換用に用いられたのがスリムトップ床版。今回、採用されたのは事前に工場で製作された、いわゆるプレキャスト床版で、サイズは7m×2.5m×220mm。コンクリート製の本体をUFC(スリムクリート:超高強度繊維補強コンクリート)で覆うことで、疲労耐久性と遮水性の保持を高めたもので、先に工事が行なわれた東北自動車道 宮城白石川橋にも採用されている。当初の床版より厚みが20mm増したこともあり、1枚あたりの重量は約7tから約9tへとアップしている。
床版の接合は側面にあらかじめ設けられた「せん断キー」をスリムクリートで埋めるスリムファスナー工法を採用。接合幅を約50cm縮小するとともに現場での配筋作業を不要化することで、工期短縮にも寄与する。ただし、硬化するまでに時間を要することから、夜間工事で床版を交換、翌朝開通する部分においては接合部上面に「スリムNEOプレート」をエポキシ接着剤で接着し、その上にアスファルト舗装を実施。その後プレート下部にスリムクリートを圧送打設する方法がとられる。
サブマリンスライサー
鋼鉄製の桁と古い床版を切り離すために用いられる。従来は橋面上から桁まわりを切断、そのあとに桁上の床版を取り除いていたが、サブマリンスライサーにより桁と床版を分離することで桁に損傷を与えず、橋面上の作業と並行して行なうことが可能になった。
施工スケジュール
作業は2024年度までが予定されており、6つのステップで進行していく。
まず、準備段階として工事エリアを捻出するために、2021年4月から上下線に分かれていた橋梁の中央部分を桁や炭素繊維で補強してつなぐとともに、中央分離帯を撤去して一体化。同時に車線シフトに要する前後区間の高架橋(合計約1.2km)でも同様の工事が行なわれた。その後、2021年11月の集中工事を利用して、上下線で独立していたカント(※)の一体化、および新たな床版では厚さが増すことから、床版交換前後の段差をなくすため、最大15cmほどアスファルト舗装のかさ増しが行なわれている。
※路面の勾配。東名多摩川橋の場合は東京側から見て右にカーブしているため内側となる山側が低く、外側となる海側に向かって2%の勾配がつけられている
こうした準備を経て、いよいよ床版の取り替え作業に移行。現在、行なわれているのがSTEP1となる作業で、上り線路肩部分がエリアとなる。ここでは、古い床版を新床版と同等のサイズに切断し撤去、桁部分の下地処理などを行なったあと、新床版を設置、舗装という流れで進行。この7月までに約200枚の床版が交換される。
STEP2では上り線の中央部にエリアを移行。交通量が多い時間帯には工事エリアを境に追い越し側1車線、走行側2車線に分割。夜間はそれぞれ1車線に規制し、2023年1月をメドに作業を進行。その後、STEP3で中央部(~2023年6月)、STEP4で下り線中央部(~2024年1月)、STEP5で下り線路肩部分(~2024年6月)、最後に中央分離帯の復旧作業(~2024年10月)、2024年11月の東名集中工事を持って作業完了となる予定だ。
なお、この工事期間中、現場の一般公開も行なう。専用サイトから申し込むことで無料で見学することが可能で、対象は小学生以上(中学生以下は保護者同伴が必要)。開催日時や会場へのアクセス方法など、詳細は専用サイトを参照してほしい。