ニュース

東名多摩川橋を6車線のまま床板交換する方法とは? ハイウェイストライダー稼働現場を見てきた!

2022年5月20日 公開

川崎側から見た現在の工事現場。手前に見えるのがハイウェイストライダーの1号機

 NEXCO中日本(中日本高速道路)は5月20日、リニューアル工事を進めている「東名多摩川橋」(東京都世田谷区、神奈川県川崎市)の現場を報道公開した。

 同社の管轄エリアでは供用から30年を越える道路が約6割、加えて東名高速道路や名神高速道路のように開通から50年以上が経過する道路も存在する。これまでは部分的な補修により健全性を確保してきたが、建設当初の性能まで回復するのは難しく、また、耐震規制の強化などに対応する必要があることから、大規模更新または大規模修繕を多くの道路で進めている。

 東名多摩川橋が位置するのは、1968年に開通した最初期区間。建設(竣工は1966年12月)から50年以上が経過するとともに、施工時には想定されていなかった1日10万台を超える交通量があることから老朽化が進行。これまで部分的な補修や補強が行なわれてきたものの、橋梁の床部分となる床版においてはコンクリートの剥離や内部鉄筋の露出などが確認されるようになってきたことから、抜本的な対策を取る必要性が生じてきた。

 従来、床板を交換する際には工事を行なう側の橋を通行止めにして作業エリアを捻出、残る片側を対面通行にする手法が用いられてきたが、前述のように1日10万台を超える交通量がある同区間では激しい渋滞を招いてしまう恐れがある。郊外であれば工事区間を一時的に拡幅する手法も使えるが、住宅密集地に隣接しているためコストや工事期間を考慮すると現実的に不可能。そこで考えられたのが、今回採用された「床版分割施工」だ。

工事概要
高速道路リニューアルプロジェクト
リニューアルにより建設当時を上回る性能の実現を目指す
東名多摩川橋における改良工事の歴史
リニューアル工事の必要性
工事前後の比較
今回の工事では価格優先ではなく要求性能を規定したうえで技術提案まで求めた総合評価方式で発注された
東京~東名川崎間では新路線やICの追加により減少傾向ではあるものの、1日10万台程度の交通量がある
同区間は高速道路渋滞ランキング3位
上下線で交通量はそれほど変わらないものの首都高速用賀料金所を先頭とする上り線の渋滞が激しい
首都高速用賀料金所を先頭とする渋滞発生の様子。わずか20分程度で激しい渋滞となる

東名多摩川橋工事で用いられた技術

 工事期間中においても現状と同等の車線数を確保しつつ、床版取り替えを進めていくために採用されたのが以下の技術だ。

工事区間の概要
桁上のコンクリート床版を交換する
工事区間の面積はテニスコート約60面分
工場製作によるプレキャスト床版を使用することで工期を短縮
交通量が多く住宅地に隣接するため専用の工事設計が要求された
従来の床版取替工事では片側を通行止めにし、大型(150~200tクラス)のクレーンを使用
今回の方法は車線幅は若干狭くなるものの車線数を維持することが可能
右側が工事前にかさ上げされた舗装面。ノの字状の切削面下部がもともとの舗装面。左側が新しい床版で舗装により右側と同じ高さになる

自走式門型架設機(ハイウェイストライダー)

 14.4tの揚重作業が可能な電動巻き上げ機構を採用。狭いスペースを移動しつつ古い床版の撤去、新しい床版の設置を可能にする。3枚の床版を約1日で交換でき、そのあとは新たな交換場所に移動して作業を続ける。フレーム部分を伸縮可能な構造とすることで、撤収時も分解することなくトレーラーに積み込み移動することが可能。4台が製作され作業にあたっている。

ハイウェイストライダー
下部の車輪で自走することが可能
古い床版を撤去。重量はおよそ7tほど。クレーンは14.4tの揚重能力を持つ
ハイウェイストライダーなどを活用した施工サイクル
従来工法との比較
ハイウェイストライダーの模型
これまでも同様の機械は使われていたが、クレーン部を電動化するなどバージョンアップしている
一度の設置で床版3枚の取替が可能
3枚交換後は自走で移動し次の作業箇所へ
495mの作業区間に4台のハイウェイストライダーを投入

スリムトップ床版を用いたスリムファスナー工法およびスリムNEOプレート工法

 交換用に用いられたのがスリムトップ床版。今回、採用されたのは事前に工場で製作された、いわゆるプレキャスト床版で、サイズは7m×2.5m×220mm。コンクリート製の本体をUFC(スリムクリート:超高強度繊維補強コンクリート)で覆うことで、疲労耐久性と遮水性の保持を高めたもので、先に工事が行なわれた東北自動車道 宮城白石川橋にも採用されている。当初の床版より厚みが20mm増したこともあり、1枚あたりの重量は約7tから約9tへとアップしている。

 床版の接合は側面にあらかじめ設けられた「せん断キー」をスリムクリートで埋めるスリムファスナー工法を採用。接合幅を約50cm縮小するとともに現場での配筋作業を不要化することで、工期短縮にも寄与する。ただし、硬化するまでに時間を要することから、夜間工事で床版を交換、翌朝開通する部分においては接合部上面に「スリムNEOプレート」をエポキシ接着剤で接着し、その上にアスファルト舗装を実施。その後プレート下部にスリムクリートを圧送打設する方法がとられる。

この部分はそれほど劣化していないように見える。奥に見えているのは新しい床版
床版が取り除かれると桁が見える。このあと、残った床版を撤去するなどの工程を経て新床版が設置される
2枚の旧床版が取り除かれた状態
スリムクリートの車上プラント
スリムクリートに混ぜられる超高強度鋼繊維
スリムクリートを使用した接合部
従来の床版接続方法。隙間へのコンクリート打設前に現場での配筋作業が必要になる
スリムファスナー工法ではスリムクリートを接合部に充填するだけで済む
接合幅もおよそ半分で済む
スリムクリートは強度と耐久性に優れ扱いも容易
スリムクリートは硬化に時間を要するため短時間で開通させる部分にはスリムNEOプレートを併用

サブマリンスライサー

 鋼鉄製の桁と古い床版を切り離すために用いられる。従来は橋面上から桁まわりを切断、そのあとに桁上の床版を取り除いていたが、サブマリンスライサーにより桁と床版を分離することで桁に損傷を与えず、橋面上の作業と並行して行なうことが可能になった。

サブマリンスライサーにより旧床版の撤去作業を迅速化

EMC(Easy-Maintenance&Construction)壁高欄

 工場製作よるプレキャストタイプの壁高欄。部分的な配置や交換が可能となっている。

新床版への交換作業が完了した状態。左側に見えているのがEMC壁高欄
工場製作によるEMC壁高欄を採用し作業時間を短縮
十分な強度を持ちつつ床版への損傷拡大を防止する

施工スケジュール

 作業は2024年度までが予定されており、6つのステップで進行していく。

 まず、準備段階として工事エリアを捻出するために、2021年4月から上下線に分かれていた橋梁の中央部分を桁や炭素繊維で補強してつなぐとともに、中央分離帯を撤去して一体化。同時に車線シフトに要する前後区間の高架橋(合計約1.2km)でも同様の工事が行なわれた。その後、2021年11月の集中工事を利用して、上下線で独立していたカント(※)の一体化、および新たな床版では厚さが増すことから、床版交換前後の段差をなくすため、最大15cmほどアスファルト舗装のかさ増しが行なわれている。

※路面の勾配。東名多摩川橋の場合は東京側から見て右にカーブしているため内側となる山側が低く、外側となる海側に向かって2%の勾配がつけられている

 こうした準備を経て、いよいよ床版の取り替え作業に移行。現在、行なわれているのがSTEP1となる作業で、上り線路肩部分がエリアとなる。ここでは、古い床版を新床版と同等のサイズに切断し撤去、桁部分の下地処理などを行なったあと、新床版を設置、舗装という流れで進行。この7月までに約200枚の床版が交換される。

 STEP2では上り線の中央部にエリアを移行。交通量が多い時間帯には工事エリアを境に追い越し側1車線、走行側2車線に分割。夜間はそれぞれ1車線に規制し、2023年1月をメドに作業を進行。その後、STEP3で中央部(~2023年6月)、STEP4で下り線中央部(~2024年1月)、STEP5で下り線路肩部分(~2024年6月)、最後に中央分離帯の復旧作業(~2024年10月)、2024年11月の東名集中工事を持って作業完了となる予定だ。

 なお、この工事期間中、現場の一般公開も行なう。専用サイトから申し込むことで無料で見学することが可能で、対象は小学生以上(中学生以下は保護者同伴が必要)。開催日時や会場へのアクセス方法など、詳細は専用サイトを参照してほしい。

工事区間の概要。規制区間と合わせて約1.2kmになる
工事は6ステップ手進行
まず上り線の路肩部分からスタート。現在はココ
2ステップ目は上り線の中央部分。昼間は3車線を確保しつつ夜間は2車線に規制して工事を進行
3ステップ目は中央部
4ステップ目からは下り線。2ステップ目と同様に車線規制を実施
5ステップ目では下り線の路肩部分へ
最後に中央分離帯を復旧して工事完了となる
2024年11月に工事完了となる予定
期間中、工事現場の一般公開も行なう