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コロナ禍を「観光が成長するための時間」に。日本旅行業協会、国内・海外・訪日旅行の現状と取り組み

2021年7月8日 実施

日本旅行業協会が記者懇談会を実施

 JATA(日本旅行業協会)は7月8日、東京・霞ヶ関の本部で記者懇談会を実施した。

 コロナ禍で旅行業界が受けている打撃は本誌でも繰り返し報じてきているが、副会長の菊間潤吾氏は、「海外旅行は2020年3月の出発を最後に催行できていない、活況を呈していた訪日旅行もほぼ消滅、国内はGo To トラベルが停止したまま」と厳しい現状を改めて説明した。

 国内のワクチン接種が急速に進んでいることは大きな希望であり、旅行会社各社も消費者の旅行意欲喚起の取り組みとしてオンラインツアーを催行するなど工夫を凝らしている。先日のツアーグランプリでもオンライン部門を新設しており、業界がワクチン接種とともに復活するために、コロナ後を見据えて活動しているという(関連記事「日本旅行業協会、ツアーグランプリ2021表彰。国交大臣賞はJTBのヨーロッパ現地発着周遊バス『ランドクルーズJTB』」)。

 また、2019年度までは訪日旅行が活況だったが、増えすぎた旅行客で受け入れ側がパンクするといったオーバーツーリズムへの対応も求められるようになっていたもの事実で、「コロナには苦しめ続けられているが、未来に向けて観光が成長するために時間をもらった」と前向きに考えている面もあると補足した。

 一方で、東京に再び緊急事態宣言が再び発出されることで、前回のGW・修学旅行シーズンに続き、今回は夏休みを直撃することになる。菊間氏は「補償がまったくない環境で発出は大変厳しい」と述べ、移動制限がかかるなら補償とセットにしてほしいと政府に要望していくことを明かした。

開会あいさつは広報委員長の米田昭正氏(KNT-CTホールディングス株式会社 代表取締役社長)
副会長の菊間潤吾氏(株式会社ワールド航空サービス 代表取締役会長)
理事長の志村格氏はJATAの取り組みについて説明した

国内旅行・海外旅行・訪日旅行について

 コロナ後の旅行市場復活に向けた取り組みは、国内・海外・訪日に分けて説明を行なった。

 国内旅行については副会長の高橋広行氏が担当。コロナ前の2019年度、コロナ禍の2020年度を振り返ると、旅行消費額は約28兆円(2019年度)が11兆円(2020年度)まで激減しており、特に地域経済が大きなダメージを受けていると指摘。

 そんななか、2020年7月22日のGo To トラベルキャンペーン開始で大きく国内旅行が伸長し、12月28日の全国一斉停止で再び低迷したものの、地域経済への波及効果を含めてGo To トラベル自体は「非常に効果的」であり、感染症対策を万全にしたうえで再開を待つしかないと認識を示した。

 国内旅行需要喚起の取り組みとしては、すでに観光庁が実施中の県内旅行の旅行代金補助(感染状況ステージ2相当以下の都道府県で実施)のほか、JATAでは7月1日から「笑う旅には福来たる」キャンペーンを展開している。JATA会員会社で旅行を申し込むと、次回の旅行に使える3万円/1万円のクーポンなどが抽選で当たるもので、Webのフォームから申し込めるなど応募方法の簡便化を図っているという。

副会長の高橋広行氏(株式会社JTB 取締役会長)

 海外旅行については再び菊間氏が説明を行なった。

 JATA会員各社の多くが海外旅行も手がけているが、海外旅行が停止して16か月経過し、あと半年は続くとみられる状況のなか、ワクチン接種の進む海外では外国人旅行者受け入れが始まっている国・地域もあり、日本でロードマップが示されていないことに不満を漏らした。

 海外旅行を阻む大きな壁は、1つは日本帰国後の隔離措置、もう1つは外務省による感染症危険度レベルで、この撤廃と引き下げがなければ現実的な旅行商品を作ることは困難になっている。JATAとしては、各国政府観光局・大使館と2国間で個別の討議・要望を進めつつ、政府に要望書を提出するといった取り組みを行なっている。

 とはいえ、隔離措置の撤廃と危険度レベルの引き下げ実現に向けた具体的な指標がないため、「対策しようがない」のが現状だという。

 経団連の提言書に基づけば、ワクチンは7~8月に65歳以上の8割が接種完了、9月に全国民の50%、年内に80%が接種完了と見込んでおり、集団免疫を獲得するであろう2022年年明けから国際往来の再開とみられている。ただ、ツアーの作成には半年程度のリードタイムが必要で、摂取率・危険度レベル引き下げがいつになるか分からないと、「いつから作り始めればよいか決められない」と困難な状況を説明した。

副会長の小谷野悦光氏(株式会社日本旅行 代表取締役社長)

 訪日旅行は副会長の小谷野悦光氏が説明した。コロナ前は2020年に訪日旅行者数4000万人、消費額8兆円という目標を掲げていたが、2020年は411万人(前年比87.1%減)、2021年は8.7万人(前々年比99.4%、暫定値)と壊滅的な打撃を受けている。

 明るい材料としては、アジアと欧米豪で行なった意識調査で「新型コロナ収束後に旅行したい国・地域」において、アジア居住者は日本を1位(56%)、欧米豪居住者はアメリカに次ぐ2位(24%)に挙げており、国際往来再開後の急速な回復に期待が持たれている。

 また、6月に国土交通省が発表した令和3年版観光白書では「インバウンドの段階的復活」として、小規模パッケージを試行的に実施して、訪日客と受け入れ先双方の安心・安全な旅行環境の整備を目指すとしており、ガイドラインを設けた管理型の旅行の確立が急がれている。