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築100年の京町家を改装したホテル「nol kyoto sanjo」に行ってみた。中長期滞在にも適した3タイプ48室
2020年10月28日 09:00
- 2020年11月1日 開業
東急不動産と東急リゾーツ&ステイは、ホテル「nol kyoto sanjo」(京都市中京区堺町通姉小路下る大阪材木町700)を11月1日に開業する。
ホテル名称の「nol」は、naturally、ordinarily、locallyの頭文字から取っており、京都三条という旅先での日常に触れながら「自分らしく、普段通りに、その地域を楽しめる」ホテルを目指している。京都市営地下鉄烏丸線/東西線 烏丸御池駅から徒歩5分で、客室数は48室。
建物外観・ラウンジは、かつて日本酒造「キンシ正宗」の販売所だった築およそ100年の京町家を改修したもので、新築の宿泊棟もこれに合わせて京町家の趣にまとめあげている。nol kyoto sanjoが面している三条通は、以前から京都のメインストリートで、便利な街中にありながら古くからの日本建築、明治時代の近代建築も立ち並んでいるが、明治期に建てられた京町家は見事に街並みに溶け込んでいる。一見するだけではここがホテルであるとは気づかないほどのたたずまいだ。
ホテルの周辺にはモーニングの有名店や地元食材の飲食店などが多く、この街を散策して地域の人々に触れると、京都での日々が身近に感じられるという。京都三条のにぎわいに触れ、和の空間でくつろぎ、「当地ならでは」が体感できるだろう。
キンシ正宗販売所だった町家は、その趣を最大限に残して、宿泊者専用のラウンジに改修。町家改修の第一人者である魚谷繁礼氏によるデザイン・設計で、格子越しに差し込むほの暗い拡散光とあわせて、古の町家の風情に思いをはせながらゆったりと過ごすことができる。
ウェルカムドリンクとして用意するのは、キンシ正宗の清酒。17時から22時まで無料で楽しめるそうだ。日本酒のフルーティな香りを味わうにはワイングラスがお勧めとのことで、実際におちょこや升・グラスとともにワイングラスも用意されていた。
また、コーヒー党には、京都・長岡京に本店を置き、高品質のスペシャリティコーヒーを追求するロースター「Unir(ユニール)」のコーヒーも見逃せない。お茶請けには、元治元年(1864年)創業の「伊藤軒」の菓子類も用意している。お菓子はウイルス対策としてビニール袋に小分けして詰めてあり、そのまま部屋に持ち帰って食べる、なんてのもよさそうだ。
檜葉風呂や壺湯を備える3タイプの客室
ロビー・ラウンジから客室への通路は、町家の通り庭のようなほの暗い通路を進み、水盤に浮かぶ植生がひときわ輝く坪庭の先にある。客室は奥まった場所にある座敷のように感じたが、この通り庭の距離感がそう感じさせるのに一役買っているのは間違いない。また、この通路によって京町家を活かしたロビー・ラウンジと、鉄筋コンクリートの真新しい宿泊棟を違和感なく結び付いている。
48室の客室は全3タイプとシンプルな構成だ。メインは計34室の「Hibaburo Deluxe」で、広さ39m 2 、最大4名が宿泊可能。坪庭と和室がついて広さ50m 2 の「Tsuboniwa Suite」が最上グレードで、こちらも最大4名が宿泊可、計4室。そして最大2名が宿泊できる広さ26m 2 の「Tuboyu Superior」が計10室である。いずれの客室も、町家が年月を経て熟成したような上質なテイストに仕上げている。
全室ともにバスルームは御影石またはそれに類した黒いタイルと檜葉(ひば)の浴槽を使っている。ホテルの風呂といえば、ともすればシャワーで汗を流すだけにしてしまうこともあるが、この檜葉風呂は木の香りを感じながら肌がふやけるまでゆったりと浸かってみたいと思った。特に「Tsuboyu Superior」ではその名のとおりの「壺湯」が、なんと客室と同じ空間にある。ホテルスタッフによると、LGBTから夫婦まであらゆるカップルに体験してもらいたいそうだ。
また、nol kyoto sanjoでは、ホテルに利便性や経済性だけではなく、自分の好みやこだわりに合った質を求める人々が増えてきたことを受け、「自分らしく、暮らすように滞在できる」ことを目指している。そのため、電子レンジや洗濯乾燥機、冷凍機能付き冷蔵庫を全室に、標準客室にはミニキッチン、食器類を設けた。京都ならではの食材が集まる「錦市場」などで食材を買って、部屋で調理するということも可能だ。
朝食は「京菜味のむら」のおばんざいか「珈琲 ナカタニ」のサンドイッチ
nol kyoto sanjoは京都三条の食を自由に楽しんでほしいというスタンスで、レストランはない。しかし、朝食プランでは、和食・洋食の「仕出し」が客室に届けられ、部屋でゆっくりと楽しめむことができる。
和食は、インスタグラムなどでも人気を集める「京菜味のむら」の12種おばんざい。京都伏見の湧水を使用し、野菜をメインに京料理伝統の味づくりを受け継いでいる。京都の湯場を使い、壬生菜と柚子皮であんかけに仕上げた湯葉丼やみそ汁は、nol kyoto sanjoで仕上げて温かい状態で客室に運ばれる。
洋食は、京阪電車 祇園四条駅近くの老舗喫茶「珈琲 ナカタニ」から取り寄せる。歌舞伎役者や舞妓さん御用達の店で、看板メニューのたまごサンドをはじめとしたサンドイッチが、趣のある“おかもち”で届けられる。カリッと焼き上げた香ばしい薄切りのパンで作る「焼きサン」はシンプルな味付けが長く愛されている。花街の舞妓さんたちが口を大きく開けずに食べられるサイズに切り分けたおちょぼサイズが老舗と言われる由縁でもある。おかもちの下段にはコーヒーカップもセットになっており、さながら和風のピクニックの趣だ。
助田支配人「古きよきものに私たちの考えを加えて新しい姿を表現」
nol kyoto sanjo支配人の助田知子氏は、「京都三条には古いものと新しいものが混在していますが、その古きよきものに私たちの考えを加え、こういう新しい姿もあるんだということを表現していきたい」という。確かに、京町家を改修したラウンジや、ラウンジから客室への動線上にある坪庭、客室のしつらえなどは、京町家が熟成し進化したイメージだ。
コロナ禍での開業にあたっての取り組みについては、当初朝食は宿泊客がロビーまで取りに来ることを想定していたが、宿泊者同士の接触機会をなるべく減らすためスタッフが部屋まで運ぶように改めたという。また、ラウンジの菓子類を小袋に詰めたのも、なるべく他人の手が触れないように考えた結果で、スタッフから出たアイデアとのこと。助田氏は、今後も常にアイデアを出しながら、お客さまに喜んでいただけるように考えていきたいと話す。
予約状況をたずねると、3世代のファミリーから女性同士のグループなどさまざまな層からの予約があり、換気やウイルス対策などについての問い合わせも多いそうだ。助田氏は、こうした意見も聞きながら、より自分らしく(naturally)、普段通りに(ordinarily)、その地域を(locally)楽しめるホテルづくりを目指すという。