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イタリア政府観光局、観光セミナーで欧州文化首都のマテーラを紹介

2019年2月22日 実施

イタリア大使館において、観光セミナーをメディアや旅行代理店向けに実施

 イタリア政府観光局は2月22日、イタリア観光セミナーを開催した。同セミナーでは、南イタリアのバジリカータ州と欧州文化首都に指定されたマテーラで開催される「Matera 2019」のイベントについて紹介。日本と同じくインバウンド増で盛り上がっているイタリアのなかでも、さらに観光客が増えている同地域を日本でも積極的にPRしていきたい考えだ。

 セミナーの冒頭では駐日イタリア大使であるジョルジョ・スタラーチェ氏が日本語で「皆さま、こんにちは!」とあいさつし、今回のセミナーについて概要を説明した。

 紹介するのは南イタリアのバジリカータ州にある都市「マテーラ」で、ブーツのような形をしたイタリア半島の靴底あたりに位置する。この都市の特徴については、「ユネスコ世界文化遺産に指定され、20世紀のイタリアを代表する作家の一人であるカルロ・レーヴィの作品に登場するマテーラの洞窟住居群『サッシ・ディ・マテーラ』が挙げられます。イタリアのなかでも貴重な歴史都市であり、この珍しい住居に魅了されないはずはありません」と話した。

 マテーラ以外にも見どころはたくさんあるとし、南に隣接するカラブリア州にあるヨーロッパ最大の国立公園の一つであるポリーノ国立公園も大変美しい場所であると紹介した。

「私もマテーラに行ってみましたが、美しい景色など、観光地として成功の一例を示しています。バジリカータ州の各都市は荒廃していて評価されていない時代もありましたが、近年においては再評価され、文化遺産として認定されて有名な観光地になりつつあります。観光や文化について大変関心の高い日本の皆さんにプロモーションさせていただくのは、大切なことだと私たちは考えています」と大使は述べ、今回のセミナーで「バジリカータ州やマテーラの魅力を日本の皆さんにも伝えたい」と話した。

セミナーの冒頭であいさつをするジョルジョ・スタラーチェ駐日イタリア大使

日本におけるプロモーションの重要性

 続いて、マテーラ2019 財団会長であるサルヴァトーレ・アッドゥーチェ氏がマイクを持ち、「1000年以上の歴史がある街マテーラは、2019年の欧州文化首都に選ばれました。ヨーロッパだけでなく、日本や世界中にこの素晴らしい観光地を発信していきたいと思っております」とあいさつ。知名度が上がるにつれインバウンド増につながっている現状であるが、「観光地として認められたというのは日本人の観光客が訪れたときに初めて評価されたものだと考えています。日本人の観光客が増え、ようやくマテーラも世界的な観光地として認められたと胸を張って言えます」と述べ、日本でのプロモーションが重要であることを強調した。

 また観光スポットだけでなく、「日本ほどではありませんがマテーラもおもてなしの心を持った人が多い土地柄であります。都市の美しさだけでなく、住んでいる人の美しさも評価していただきたいというのが我々の願いであり、文化都市の2019年のスローガンである『Open Future』につながるようにしていきたい」と語り、人的交流に力を入れていることも紹介した。

マテーラ2019 財団会長のサルヴァトーレ・アッドゥーチェ氏

バジリカータ州の経済的背景の概略

 ここまではマテーラについての紹介がメインだったが、次に登壇したバジリカータ州商工会議所会頭であり弁護士であるミケーレ・ソンマ氏が州全体の産業や経済について説明した。

 特徴としては「教育水準の高さ」「価値のある技術能力センターの存在」「生活の質」の3つを挙げた。同州は中学・高校の就学率や大学の卒業率が南イタリア平均よりも高く、国立の技術研究所である「CNR(Consiglio Nazionale delle Ricerche)」、エネルギーの持続的な利用を研究する「ENEA(Erite per le Nuove tecnologie, l'Energia e l'Ambient)」、バジリカータ大学、宇宙測地学センターなどを抱えている。また、州面積の約20%が自然保護区のため自然が豊かであり、犯罪発生率も低いとしている。

バジリカータ州商工会議所会頭のミケーレ・ソンマ氏
バジリカータ州の位置を示すスライド
同州の強みを3つに分けて紹介
1982年に設立されたバジリカータ大学はイタリア国内の小規模部門で3番目に評価されている
CNRやENEAは高度な研究施設と人材が集まっており、リサーチやイノベーションの発展に貢献
宇宙測地学センターでは収集した情報をNASAなどの世界的な宇宙研究団体に提供している

 産業は伝統分野に基づいた生産を行なっており、家族経営的な中小企業も多くある一方、地区で組織を編成して産業クラスターを形成することで、農産物や鉱業の生産、工業による製造などの発展に寄与している。観光にも深く関わる農産物加工分野においては2つの大きなクラスターが存在する。ヴルトゥーレ農産物加工クラスターは、15のコムーネ(イタリアの最小自治体の単位)に6489の企業が集まったもので、ワイン、オイル、ミネラルウォーター、乳製品・酪農、豚肉加工、フレッシュパスタ、焼き菓子・パン、農作物、穀物の生産などを行なっている。

 クアリタ・デル・モンタポンティーノ農産物加工クラスターは、12のコムーネに7430の企業が集まったもので、農作物、乳製品・酪農・食品保存、蜂蜜、焼き菓子・パン、パスタなどを生産している。近年注目されているクラスターとしては布張り家具があり、デザインや品質のよさから輸出も増えている。

産業や地域別でクラスターが構成されており、それぞれの分野で成長に寄与している

 そのほか大きなものとしては工業クラスターがあり、メルフィの自動車工業地帯が中心となっている。この広大なエリアにはFCA-SATA(イタリア最大の輸送車両用組立工場)があり、1万人を超える従業員が働いている。魅力的なものが数多く存在するなかでもこの地域で特徴的なものとして、ヨーロッパ最大の沿岸油田があることも紹介した。SHELLやENI、TOTALといった大企業が精製工場や採掘場を持ち、生産を行なっている。

工業は輸送用自動車の生産が中心。ヨーロッパ最大の沿岸油田があり、エネルギー産業も盛んだ

 観光事業の発展は、経済や生産システムのなかでますます重要性を増しており、同州の成長におけるキーポイントになっていると同氏は説明。「小さな州なので数字的にはそれほど大きなものではありませんが、2017年は対前年比で9.7%の伸びを示しています。そのなかでもインバウンドの伸びは顕著であり、14.4%と高い数字を記録しています」と話し、イタリア国内平均のインバウンド伸び率が8~9%なのに対し、高い伸びであることを解説した。

工業は輸送用自動車の生産が中心。ヨーロッパ最大の沿岸油田があり、エネルギー産業も盛んだ

「Matera 2019」は1年間にわたり開催されるイベントの集合体

 最後にマテーラ2019 財団長であるパオロ・ヴェッリ氏がマテーラで開催されるイベントについての説明と楽しむためのツールを紹介した。

 欧州文化首都という概念が誕生したのは1985年のことであり、指定されたものではフィレンツェ、ジェノバ、ボローニャがある。同氏は今回の欧州文化首都に指定されたことについて「マテーラは激しい競争をくぐり抜けて勝ち取っています。競合相手としてはベネチアやシエナ、レッチェなとがあったことからも想像できるかと思います」と激戦のなかで勝ち取ったことをアピール。選定された大きな理由としては、さまざなイベントを企画していることが評価されたのではないかと話した。

マテーラ2019 財団長のパオロ・ヴェッリ氏

 そのマテーラで開催される「Matera 2019」は、1月19日から12月20日まで約1年間にわたるイベントであり、「Open Future」をメインテーマとし、文化を通じて未来を築くものだ。開催期間中はヨーロッパを中心に8000名のアーティストが集まり、40以上の国際ミーティングや作品の上映、演奏会などが行なわれる。欧州文化首都として初の試みである「パスポート」(19ユーロ、約2375円、1ユーロ=約125円換算)も発行され、これを購入した人は年間を通じてマテーラで開催されるすべてのイベントに参加できる。

 1月19日のオープニングイベントでは2019人のアーティストが参加し、さまざまな形で2憶7000万人の人が関わりを持ったことを紹介した。また、マテーラの街を気軽に楽しんでもらうために5つの推奨ルートを作成してあるので、それに沿って楽しむこともできるそうだ。

「Matera 2019」は2019年1月19日の19時19分からスタート
左手に持っているのがパスポートで、これがあればさまざまなイベントに参加できる。目標販売数は20万冊
テーマごとに分けられた5つの推奨ルートが配布されているマップに記載されている

 イベントは2か月ごとに大規模なものが予定されており、4つのテーマごとに開催される。「ARS EXCAVANDI」は、サッシがどのように地層を掘って作られたかというのが理解できるような展覧会になっているそうだ。こちらの展示はマテーラにあるオープンデザインスクールの手によって作成され、約100人の学生が従事している。内訳は33%がイタリア国内からで、33%がマテーラの住人、残りの33%がそのほかの地域から参加している。財団会長のサルヴァトーレ・アッドゥーチェ氏が述べていたように、今回のコンセプトは多くの人とつながることが重要視されており、「とくに若い人たちがこれからの未来を生きていくために歴史から学んでもらいたい。古い歴史を持った街が未来を語るということも選ばれた理由ではないでしょうか」と同氏は話した。

「RINASCIMENTO RILETTO」は、ルネサンス時代を紹介するイベントで200以上の作品が集まる。「LA POETICA DEI NUMERI PRIMI」は科学や文学に関するもので、同州で学問を研究したピタゴラスにちなんでいることも紹介した。「OSSERVATORIO DELL'ANTROPOCENE」は人文主義の観点から取り組むイベントが予定されているそうだ。

 そのほか、写真を通じて多くを語ってもらうということも考えているとし、毎月のイベントではオペラや音楽も上演する。マスカーニやダンテをテーマにし、2000人以上の人たちが一緒になって演じる大掛かりな舞台も計画されている。イベントのなかには日本人が関わっているものもあり、19の西洋庭園を紹介するプロジェクトやチームラボと一緒になって披露する作品も予定されているそうだ。ちなみにチームラボの作品が登場するのは、11月中旬~12月中旬に予定されているデジタル作品に特化した期間になるそうだ。

4大テーマの大規模イベントから、こぢんまりとした演奏会や展示会など、多種多様な企画が用意されている

 イベント予算は総額で4400万ユーロが計上されており、この予算は今年1年で使い切るものではなく、今後3年間において引き続き一部の作品などを紹介していくのにも使用される。それらについては、各国にあるイタリア文化会館において紹介する予定であるとのことだ。

 広報活動については、イタリアの大手テレビ局を通じて行ない、ヨーロッパでは12か国でさまざまなプロモーションを展開している。目標としているのは18か月で3億のつながりを構築することであるが、同氏によると「オープニングですでに目標に近い数字が出ているので、たぶん目標の2倍以上の人数になるのでは」と話していた。

50億円を超える予算が計上されており、製作・運営やプロモーションに使われる。公的資金が主体であるが、民間企業もスポンサーとして数多く参加している