旅レポ

2016年初夏の静岡市を訪ねて「生の桜えび」や「新茶」を味わってきた

日本平動物園ではレッサーパンダやホッキョクグマを間近で観察

 静岡市は、静岡の旬のものや観光名所を紹介するプレスツアーを5月20日に実施した。桜えびの春漁は4月1日から解禁となっているので、桜えび漁期中だけ見ることができる絶景スポット「桜えびの天日干し場」の見学や、新茶摘み体験に加え、レッサーパンダとホッキョクグマを至近距離で観察できる「日本平動物園」など、静岡市の魅力を堪能してきたので、その内容をレポートする。ちなみに筆者が取材した2015年12月に行なわれたプレスツアーも合わせてご参照いただくと、より静岡市の魅力を感じていただけるかと思う。

湯本氏は「パルコと109と東急ハンズがあるのは全国でも渋谷と静岡だけ。休日には静岡市の商店街に、山梨や長野からもいらっしゃるお客さまも多いんです」ともコメントしていた

 静岡市 総務局 戦略広報監の湯本昌人氏はツアースタート時に「まだまだ静岡の認知度は国内でも低いので、広く知ってほしい。東西に長く伸びる静岡県なので、静岡市と県内のほかのエリアを混同している方も多い。静岡市は桜えびやシラス、ヒラメやタチウオなどの駿河湾の海の幸、南アルプスまで含まれるので山の幸も豊富。プラモデルの生産は世界一、ガンプラやミニ四駆も静岡産。缶詰の生産も日本一。東京に比べたら夏は涼しく冬は暖かいから暮らしやすい。そんな静岡市をもっと知っていただいて、静岡市に遊びに来ていただくのはもちろん、静岡市に住んでいただける方が増えれば嬉しい」と挨拶した。

目の前に広がる「ピンクの絨毯」、晴天なら富士山も眺められる桜えび天日干し場

 東京から新幹線「こだま」に乗車すると、約1時間後には新富士駅に到着する。用意されていたツアーバスに乗り、桜えびの漁期中だけ見ることができる富士川河川敷の桜えび天日干し場に向かった。天気のよい日は東京ドーム約2個分の敷地に桜えびが敷きつめられ、ピンク色の絨毯のように見える。晴天に恵まれれば背景に富士山も含め撮影することができる場所であり、特に入場制限も設けられていないことから、近年は写真好きが多く来訪するスポットでもある。訪れた5月20日は春漁のピークを過ぎた頃で、あいにくの曇天ではあったものの、それでも一面に敷き詰められた桜えびと薄っすらと輪郭を見せる富士山を拝むことができた。

 桜えび天日干し場でツアー一行を迎えてくれた静岡県桜海老加工組合連合会の会長の高柳昌彦氏は、「昨年までは富士川の西側でしか獲れなかったが、今年は東側でも獲れるのは嬉しいこと。国内の桜えび漁は駿河湾だけであり、桜えびの水揚げが増えることは静岡の漁業には大切なことです」と話していた。また、前日に天日干しされた桜えびを試食させてもらったが、汐の香りと少しの塩気に桜えびの脂から得られる甘味も混ざり、その香りや味は絶妙。しかも本当に干しただけでなんの味も付けていないのだというから驚きである。高柳氏によると「天日干しには、朝から天気がよい日が適しています。桜えびを広げている網の下にある石が温まり、風が熱を冷ますことで旨味が凝縮されますので、一日干しが最高です。曇りの日に干した場合は、後日に再度天日で干しますが、味は一日干しにはかないません」とのことだった。さらに希少な生物である桜えび保護のために漁は春と秋の決められた時期しか行なわれていないことや、丸ごと味わうことができるために栄養素の摂取に理想的な食品であることなどの説明があった。

 天日干しは朝7時過ぎから作業を開始して、14時頃には回収されてしまうとのこと。静岡市のWebサイトに場所や天日干しが見られる条件などの掲載があるので、この桜えび天日干し場を訪れてみたい人には事前の確認をお勧めする。

桜海老加工組合連合会の高柳氏の話を伺いながら、快晴だったという訪問前日に一日干しされた桜えびを味わう。酒好きなら間違いなくビールがほしくなってしまう味である。「台湾産の桜えびも日本に入ってきているが、味は淡泊。ミネラルを多く含んだ水が流れ込む駿河湾産が一番旨い」とのことだった
河川敷に敷かれた石の上に広げられた網を使って天日干しを行なう。ところどころに見えるオレンジ色は、調理に用いられる「桜えびのヒゲ」を干しているもの

地元の桜えび料理店で「桜えびづくし御膳」を堪能

 桜えびは日本では駿河湾、世界でも静岡と台湾でしか水揚げされない。さらに生の桜えびをすぐに食すことができるのは世界で唯一、静岡だけなのである。次いでツアーバスが向かったのは、JR由比駅に近い「割烹旅館 西山」の桜えび料理店「開花亭」。ここで、生えび、茹でえび、つくだ煮の桜えび三点盛りや、定番のかき揚げ、沖あがりと名付けられている桜えび鍋などが含まれている「桜えびづくし御膳」(2700円)をいただいた。桜えびの三点盛りはさまざまな味わい方を楽しめ贅沢な気分にもなれるし、置かれていた笊の上の桜えびたちはまだ動いており、新鮮この上ない。溶き玉子を入れた沖あがりは、ご飯が進む。もちろん刺身も新鮮で美味なので、桜えびを食べるならお勧めの店である。

開花亭の「桜えびづくし御膳」は桜えびでひたすら胃が満たされるもの(写真の笊に盛られた桜えびは見本でメニューには含まれない)
食べるシーンは静岡市広報課の岸本さんにモデルになってもらった

 由比港漁業協同組合の専務理事である望月武氏や漁協の青年部の方々にも開花亭で同席いただき、桜えびや由比での漁などについて話してもらったが、感動したのは漁協の青年部が商品化した、パック詰めされた「生きたままの桜えび」だった。桜えびは水揚げされることでピンク色に変わるもので、深い海の中に生息しているときの身体は透明であることは知っていたが、その生きている状態を目の前で見ることができた。このパック詰めされた桜えびは、料亭などで「桜えびの踊り食い」を提供するために商品化したものであり、現地での一般消費者への小売りは基本的に行なっていないとのこと。料理店のメニューで見かけることがあったらぜひとも食してみていただきたい。ちなみに、通販サイト「47CLUB」では生きたままの桜えびの販売を行なっており、春漁と秋漁の時期だけの取り扱いであること、出漁日が不定期のため受取日を指定できないことなどの条件はあるが、一般の人も購入することができる。

桜えびについていろいろと教えてくれた望月氏と、パック詰めされた生きたままの桜えび。生食用に料亭や旅館などに卸売りされている。桜えびの頭の後ろにある色の濃い部分が卵で、漁師は水揚げされた直後に、この部分が目立ってくると春漁の終わりが近いと実感するとのこと
パック詰めされた生きたままの桜えび

 また、「桜えびは1年しか生きていないんです。夏に産卵するので、秋漁では若くて柔らかい桜えびが獲れますが、春漁では脂がのって身が大きい桜えびが獲れるので、その違いもご賞味していただけると嬉しいです」と、春と秋の桜えびの違いについても教えてくれた。

桜えびは開花亭でも購入可能。新鮮な魚を提供していることを物語るように、店内の水槽には鮮魚が泳いでいる。通りには看板はあるが、開花亭は通りから少し高い場所にあるので訪問時は見過ごさないように

晴れた日には富士山が望める絶景の新茶摘みスポット「日本平お茶会館」

 次に訪れた「日本平お茶会館」は、日本平ロープウェイの駅からも近い静岡茶専門店。販売をしているのはもちろんだが、晴れた日には富士山が望める絶景の茶摘みスポットでもある。ツアーのプログラムでは、新茶をいただき、新茶摘みを体験、さらに健康と美容によいとされるカテキンを摂取しやすい「お茶の葉の天ぷら」をいただくものとなっていた。同じ時間に訪問していたのは北海道から修学旅行で来た中学生たちで、日本平お茶会館の副理事長である高桑信行氏も「お茶の栽培の北限が埼玉県の少し北なので、皆さんお茶畑を見たのは初めてだと言ってました。学校体験では、お茶摘みのあとに、お茶揉みまでしていただくコースを用意しています」とのこと。また、「最近は台湾やタイから来られるお客さまが多いです。特にタイの方々はお茶に関する興味が強いようで、お茶畑を目的にお越しいただくことが多いようです」と話していた。

茶葉の摘み方についてレクチャーする高桑氏。上から3枚目の葉のあたりから摘み取るとのこと。「日本平はお茶農家は多いのですが、日本平お茶会館は茶摘みができて茶畑を歩けるところなどが好評です」と話していた

 高桑氏から「お茶の葉にはビタミンC、カテキン、カロテンなどが豊富に含まれていて、美容と健康にいいんです。だいたいお茶を3杯飲むとリンゴ1個分くらいのビタミンCが摂取できると言われていますので、美容にはうってつけ。カロテンは食べるとビタミンAに体内で変化するのですが、これはお茶として飲んだだけでは摂取できませんので、摘んだ茶葉を天ぷらなどで食べていただければ、そのまま摂り込めます。抹茶も石臼でひいたものなので栄養素を摂りこめるのでよいですが、最近は家庭用のミルサーも普及していますので煎茶をひいていただいているお客さまも多いです。お茶殻を捨てずに身体に摂取していただくにはよい方法です」とも教えてくれた。また、一般の来店者でも可能な「新茶の詰め放題」(1300円)も体験させてもらった。国内で一般的な「やぶきた茶」の新茶が、おおよそ200gほど入ってお得感もあるのでお勧めだ。

これが「お茶の葉のてんぷら」。食感よりもほんのりとした香りにお茶を感じる、美味しいものであった
「新茶の詰め放題」は1300円。新茶が約200gで1300円なのだからなかなかお得なのでは
日本平お茶会館は、お茶の販売はもちろん、お茶を使ったさまざまな土産物も販売しており、「やぶきた羊かん」が人気のようだった

レッサーパンダやホッキョクグマが目の前に。行動展示に注力している「日本平動物園」

挨拶をする日本平動物園の園長の海野雅弘氏

 新茶摘み体験のあとに向かったのは「日本平動物園」。昭和44年の開園から、現在では約170種800点の飼育動物、面積が約13ヘクタールと、国内で有数の規模の動物園。行動展示を行なう動物園としては、北海道旭川市の「旭山動物園」が有名であるが、間近で生き生きとした動物の姿をさまざまな角度から観察できる行動展示は迫力満点。静岡の市営なので、入園料も一般(高校生以上)が610円、小・中学生が150円(未就学児は無料)と低めに設定されている。しかも首都圏や中京圏からクルマで2時間程度で到着できるのだから、子供連れで来園する人は多いようだ。2016年4月には8頭に増えたという、優れた運動能力と愛らしい姿を観察できる「レッサーパンダ館」をはじめ、ダイナミックに躍動するホッキョクグマなどを間近で見られるのはもちろん、ライオンやアムールトラが餌を食べる姿や遊ぶ仕草なども目の前で見られる「猛獣館299」など、子供たちが大喜びする姿が目に浮かぶ。

 静岡市 観光交流文化局の理事であり、日本平動物園の園長の海野雅弘氏からは「2007年から2013年の3月末まで園全体のリニューアルを実施して、何度来ても飽きないように、間近で大迫力の動物たちを観察できる『猛獣館299』『ふれあい動物園』『フライングメガドーム』、いきものや飼育員になりきって楽しめる『ふしぎな森の城』などを新設しました」との説明があった。動物たちは体内時計が正確なので、象の水浴びやライオンが餌を食べるシーンなどは、毎日決まった時間に行なわれているとのことだ。

 また、日本平動物園はレッサーパンダやオオアリクイの日本国内の血統登録を担当しており、各動物園で飼育されている動物たちの交配可否を判断しているとのこと。特にオオアリクイについては国内随一の繁殖成績を収めていて、種の保存事業にも注力されていると海野氏から説明があった。

飼育担当の市川さんにしがみつくレッサーパンダ。とても愛らしい顔立ちや仕草で人気者であるが、「しがみつかれると鋭い爪が衣服を突き破ってしまうので、体中が傷だらけでお風呂に入るときは大変なんです」と笑いながら話してくれた
ペンギンへの餌やり体験も可能。プールの中がガラス越しに見えるのは多いが、見上げたガラス越しにペンギンを見られるのは珍しい
象の水浴び。体内時計が正確なため、水浴びをする時間は決まっているため見学のタイミングもつかみやすい
水浴びをする象
肉食獣の仲間では最大級であるホッキョクグマも居る。牡のロッシーは9歳で、2008年にロシアのレニングラード動物園から来園
カラーコーンで遊ぶホッキョクグマ
水に潜るホッキョクグマ

 まるで鳥かごの中に入ったような「フライングメガドーム」は、さまざまな鳥たちが自然に近い環境で自由に飛び回る日本最大の広さを誇るスペース。ここでは飛んでいるインカアジサシや池に浮かんでいるモモイロペリカンに餌を与えるアトラクションが用意されていた。特にインカアジサシは目の前で餌を求めてホバリングするので、子供も大人もかなり楽しめるものだろうと感じた。

目の前で羽ばたくインカアジサシに、静岡市広報課の岸本さんも最初は怯んでいた様子だったが、慣れてしまえばかわいいもの。約10分程度の間、給餌を行なっていた

絶景「日本平ホテル」で富士山を眺めながら抹茶カクテルを堪能

 日差しが傾き始め、ツアーコースの最終目的地である「日本平ホテル」へ移動した。木村拓哉さんが出演したテレビドラマ「華麗なる一族」のロケ地にもなったことでも知られる静岡市の絶景が望めるホテル。その最上階から景色を楽しめる「アッパーラウンジ」で、抹茶カクテルやスイーツを味わう趣向。提供されたのは、香ばしくカリカリにカラメリゼした抹茶風味のクレームブリュレに、バニラアイスと旬のイチゴをトッピングした「抹茶のクレームブリュレ」(コーヒー付きで1300円)。口の中でとろける食感と、トッピングされていた茶の葉をイメージした緑色の抹茶のチョコレートのバランスが程よく、スイーツ好きでない人にもお勧めしたい美味しさだった。

「抹茶のクレームブリュレ」は、ほんのりと香る抹茶と甘さのバランスが秀逸。バニラアイスと一緒に口に入れれば爽やかさも引き立てられる

 アッパーラウンジで提供するオリジナルカクテルは、緑茶をまろやかなムースカクテルにした「ダモンデ」、抹茶の香りが口の中に広がる「グリーンティーミスト」、抹茶の香りが長く続く「リッチワールド」と、日本平ホテルから見える真冬の富士山をイメージしたブルーの「スノーキャップ」の4種。どれも特徴的で味わい深いものだったので、宿泊時にはぜひともいただいてみてほしい。

稜線を露わにし始めた夕暮れの富士山を見ながらカクテルをいただき、贅沢な気分を味わえた。4種とも試飲したが、どれもオリジナリティがあふれて美味しい
アッパーラウンジで提供するオリジナルカクテル
こちらは日本平ホテルの客室。テラスはもちろん浴室からも、天候に恵まれれば目前に富士山が見えるだけでなく、右手には伊豆半島、左手には南アルプスまでの眺望が広がる

静岡の土産物スポット「駿府楽市」

 当初のツアー予定にはなかったが、夕方の道路の混雑もなく新幹線の発車時刻までに余裕があったことから、静岡市の湯本氏の案内でJR静岡駅にある、静岡の伝統工芸・民芸・特産品の数々を販売する「駿府楽市」に立ち寄った。鎌倉時代から戦国時代の城下町で開かれていた楽座をモチーフに、人々の暮らしとともに受継がれ、守り、育てられてきた伝統の品を集めた歴史市場と位置付けているが、運営会社は静岡市が株式の51%を有する企業であり、静岡の美味しい特産品から工芸品までお勧めの商品を取り揃えて販売しているとのこと。店内をのぞくと、いかにも静岡らしい土産物が多くあり、旅行や出張で訪問した際にはぜひ立ち寄ってみてほしい品揃えである。筆者もついつい数千円分の商品を購入してしまった。

静岡らしく桜えびやしらす、お茶などを幅広く取り揃えた駿府楽市の店内。あれもこれもと、ついつい買ってしまう方はご注意を

東京から新幹線で1時間。日帰りドライブでも十分に楽しめる静岡市

 静岡市は、海と山の幸に恵まれて美味しいものが多いだけでなく、さまざまな楽しいこと、贅沢な気分になれることが多いと認識できるツアーだった。東京駅から静岡駅までは東海道新幹線「ひかり」で約1時間、現地での移動を考えて東名高速道路を東京からクルマで向かっても約2時間の距離なので、休日に静岡市まで足を延ばしてみてはいかがだろうか?

酒井 利