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インバウンド増加を目指す文化情報プラットフォーム、2020年までに20万件の登録を目指す
TRONシンポジウムで文化庁講演の特別講演
2016年12月17日 00:00
- 2016年12月16日 実施
IoT(Internet of Things、ネット接続機能を持った機器)に向けたTRONプロジェクト(組み込み機器向けのリアルタイムOS)の取り組みを説明するイベント「TRONシンポジウム -TRONSHOW-」が12月14日~16日の3日間に、東京ミッドタウンホール(東京都港区)において開催された。
12月16日15時からは、文化庁後援による特別セッションが行なわれ、TRONの開発者であり東京大学大学院情報学環教授でトロンフォーラム会長の坂村健氏、前文化庁長官で東京大学名誉教授の青柳正規氏、前パリ日本文化会館館長で文部科学省顧問の竹内佐和子氏の3名が登壇し、文化庁が推進する「文化情報プラットフォーム」に関する講演、討論が行なわれた。
文化情報プラットフォームは、日本各地にある文化情報を文化庁が用意するプラットフォームにデジタルデータとして格納し、それをオープンデータとして外部のサービスやポータルサイトなどから閲覧できるようにするもの。これを通じて外国人に日本文化に興味を持ってもらい、インバウンド(日本への旅行者)増加を目指す。文化庁は2020年までに20万件の登録を計画しており、今回の特別セッションではそれをどのように実現していくかが話し合われた。
2020年までに20万件の登録を目指す文化情報プラットフォーム
東京大学大学院情報学環教授でトロンフォーラム会長の坂村健氏は、冒頭のプレゼンテーションで、文化庁が推進する文化情報プラットフォームに関する説明を行なった。
坂村氏は「文化情報プラットフォームとは、2020年のオリンピック・パラリンピックを契機として、文化芸術立国実現のために実施する文化プログラム。IOC(国際オリンピック委員会)からは、前のオリンピック終了後から文化・芸術に関する情報発信をしてほしいとお願いされており、国としてそうしたことを行なう義務がある。ネット時代であるので、ネット環境も駆使してあらゆる手段で発信する。そこで、文化庁がプラットフォームを作り、それを活用してもらうことで、誰もが世界に対して発信できるようにする。それにより観光分野などへの波及効果も大きいと考えている」と説明。
文化庁が展示したパネルによれば、文化情報プラットフォームは、文化庁などが中心となってプラットフォームとなるシステムを構築し、そこにボランティア、博物館などの文化施設のWebサイトの情報、既存の文化情報のデータベースなどの情報をもとに投稿してもらう。その情報をオープンデータとして、外部のWebサイトから閲覧できるようにしたり、観光系のWebサイトや地域情報を発信するメディアなどが利用したりできるようにする仕組みだという。2017年2月にはポータルサイトが正式運用開始予定で、現在試行版の運用が開始されている。
坂村氏は「これまでの文化情報の課題は一元的に管理ができていない点にある。インターネットにはルールがないのがあたり前で、そのままでは情報発信時に問題が起こる可能性がある。そこで、文化庁がプラットフォームを作って発信したい人を助け、かつ世界に発信するために多言語への翻訳などを行なう。このため、オープンデータ方式で行なう。データも、紙やPDFではだめで、コンピュータが処理できる形のデータにしてもらう必要がある」と説明した。
坂村氏によれば現在の目標では4年間で20万件で、1年間で5万件、1日に直すと137件という計算になる。4年間で20万件というとピンとはこないが、1日に137件を毎日やっていく必要があると考えれば、これがとても野心的な目標であることが分かる。
そこで「例えばホームページがない博物館というのはない。そこのWebサイトのデータを出してもらってデータベースに加えていく。それをやることで、例えば縄文時代の土器に興味がある人が、縄文時代のデータを串刺し的に検索できたりする。そういうことをやっていきたい」と説明し、現在はインターネット上にバラバラに存在している日本の文化情報を、1つのプラットフォーム上に乗せていくことで、さまざまな新しい使い方が考えられるとした。
そのための課題として坂村氏は「情報の発信する側が無理なく発信できること、そして情報を登録していくためのインセンティブをどうするのか、さらには情報の正確さをどのように維持していくのかなどを課題として考えている」と述べ、それらをどのように克服していくのが成功への鍵になるとした。
文化情報の発信は難しい、外国人のニーズに合わせたコンテンツが大事
次いで、前文化庁長官で東京大学名誉教授の青柳正規氏が文化情報プラットフォームへの期待感を表明した。
青柳氏は「オープンプラットフォームは重要で、それに向けてボランティアで参加する仕組みが必要。例えば、各県ごとに基幹となる大学を作ってもらい、それをハブにして学生たちが持っているスマートフォンで動画や写真を投稿してもらうというやり方もありだろう、それを串刺しにして見ることができるようになれば面白いことが可能になる。能登半島の先にある珠洲市が面白い取り組みをしており、市内で51のお祭りがあるのを観光協会と組んで目玉にして情報発信したら成功した。そうした観光協会のデータもすぐにたくさんのデータが出てくるだろう」と提案した。
さらに、「日本は少子高齢化の結果、人口減が発生しており、1人あたりのGDPが増える見通しもない。そうした停滞のなかでゆとりある気持ちで生活して行くには文化にどう触れていくかが鍵になる。文化というのは妙に規定しない方がいいので、ゆるいプラットフォームのなかでそれぞれの団体が自由に応募して、コンテンツが充実していくという仕組みが大事だ。文化というのは、感動、同感、理解があって広がっていく。連携が大きくなればなるほど広がっていくので、オープンプラットフォームであることが大事だ」と述べ、文化庁の取り組みに期待感を表明した。
青柳氏のスピーチ後には、前パリ日本文化会館館長で文部科学省顧問の竹内佐和子氏が登壇し、海外から見た日本文化の発信に関しての見え方について説明した。竹内氏は「外から日本を見ていると、情報がこんなに少ない国はほかにはない。日本は文化にはうるさそうな国だけど、主張がない国だと思われている。外に出たら大事なのは言葉で、イメージだけでは伝わらない。世界の人は日本人が思っているほど日本に関心を持っているわけではないので、どうやって日本に関心がない人を引きつけるか、とてもパワーが必要だ」と述べ、戦略性ある情報発信の重要性を指摘した。
竹内氏は「文化情報発信は、なにを伝えたいかを発揮することが重要。伝えたいキーワードを必ず入れる/例えば、お祭りであれば山にいる神様に里に下りてきてほしいという意味があり、そういうことを海外のお客さまは知りたい。そういうことはインターネットの海からはでてこない、それを埋もれさせないことが大事。また、外国人の視点がとても大事で、外国で日本を知りたい人は情報に差がある。すでに関心がある人にはより深い情報を、そうではない人にはとんがった情報で引っ張っていく必要がある」と、発信する情報の内容についても言及した。
さらに、「情報は情報を作る。よい例はGoogleで、キーワードがキーワードを作っていく。また、Wikipediaのように長い情報を作ることも大事。利用する人に過度な親切を提供するのではなく、ちょっとの山は日本のことを学べるサイトを目指せばよいと思う。現在日本の博物館のサイトなどは日本語しかなくて、海外から見るとよく分からない。それがオープンアーキテクチャとなっていくことで、文化開国のようなものになればいいと思っている」と述べ、GoogleとWikipediaのサービスを足したようなプラットフォームの成立や、それにより日本文化の情報がもっと海外に発信されていくことに期待感を表明した。
博物館だけでなく、大学に蓄積されている情報も掘り起こしてみてはと提案
最後には、坂村氏、青柳氏、竹内氏の3名によるパネルディスカッションが行なわれ、それぞれの立場から文化情報プラットフォームに関する議論が行なわれた。
青柳氏は、「例えば奈良時代の情報であれば、奈良の大学にたくさん蓄積されている。しかし、これまでは関係者しか見られなかったのを、こうした文化情報プラットフォームが整えられて、情報の提供を受ければ誰もが見ることができるようになる。日本にはまだまだそうした情報がたくさんある」と述べ、大学に眠っている文化情報を掘り起こすだけでも十分なコンテンツになり得ると指摘すると、坂村氏も「大学という観点はこれまでの文化情報プラットフォームの考え方にはなかった。ぜひ大学もそのなかに入れていきたい」と応え、文化庁に対してそういう取り組みの働きかけをしていきたいとした。
竹内氏は「多言語は意外と面倒だ。そこで、留学生や研究生など日本以外から来ている学生に入ってもらって、最初から別の言語でコンテンツを作るという取り組みもありだろう。本人たちは価値がないと思っていることでも、海外から見たら価値があるということもある。そうした観点でも第三者の目は必要だと思う」と述べ、留学生や学生などの活用も重要になると指摘した。