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アビアレップス新CEOが初来日、日本のツーリズム市場に対する期待と課題

ラッカーCEOのモットーは「Travelling is broadening、旅は人生の幅を広げる」

2016年12月6日 取材

2016年5月31日にアビアレップスのCEOに就任したエドガー・ラッカー氏

 各国の観光局や航空会社など、ツーリズム業界に特化して広報、マーケティング活動を行なうアビアレップス(Aviareps)は12月6日、2016年5月31日に就任したばかりの新CEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)が初来日にしたのを機に、旅行関係メディアのインタビューに応じた。ドイツのミュンヘンに本社を置き、国内外合わせて約60の拠点において、100社以上の航空会社、150社以上の旅行関係企業/機間のGSA(General Sales Agent、販売総代理店)や広報業務受託を請け負う同社。その新CEOであるエドガー・ラッカー(Edgar Lacker)氏に、日本市場に対する印象や、今後の市場予測などを聞いた。

 新CEOに就任したラッカー氏は、1988年にアビアレップスに入社し、直近ではCCO(最高コミュニケーション担当責任者)兼ヨーロッパ担当取締役副社長を務めた人物。今回の来日は新CEOとして初来日であるだけでなく、同氏の人生においても初めて日本を訪れることになるという。ただし、今回は日本、韓国、中国の3カ国を歴訪するスケジュールとなっており、すぐに次の目的地へ向かうとのことだった。

 就任からすでに半年を経ているが、「CEOを拝命したことで(直前に担当していた)欧州以外にも広く目を向けることになり、発見も多く、特に中国や日本など成熟した大きなマーケットに対する課題や、今後広く解決するための気概を感じている」と意欲を見せる。

アビアレップス 取締役会長 マイケル・ゲーブラー氏

 このインタビューの場には、ラッカー氏にCEOを譲って現在は取締役会長を務めているアビアレップス創業者のマイケル・ゲーブラー(Michael Gaebler)氏も同席した。

 ゲーブラー氏は、世代交代は必要なことで前向きな気持ちでラッカー氏にCEOを託したとの気持ちを説明したうえで、「大所高所に立った見方と、細部にわたった繊細なところの双方に目を配れるところが私に比べて長けている。エドガー(ラッカー氏)が上級副社長のときにも彼はまわりから一目置かれていた。議論を仕掛けるとすぐ論破さてしまう、なにごとにも勉強熱心で、論理的。旅行業界で言えば世界観と個別市場の細かい情報や経験値を併せ持っており、アビアレップスのグループのなかでも希有な存在」として、CEO交代からの半年間を見ても、ラッカー氏はCEOに適した人物であると改めて感じているそうだ。

インバウンド市場は「日本がインフラを整えられるかが課題」

 日本の旅行業は、10月にインバウンド(訪日外国人)が年間2000万人を超え、日本政府が掲げる2020年に4000万人が次の目標になっている。ラッカー氏はこの目標を「大きなチャレンジになるだろう」とし、受け入れ体制の整備を重要な課題として挙げた。

 ラッカー氏は、「今回東京へ来て、ホテルが非常に高騰していることに驚いた。これも需要が超過しているを示している。2020年までという短期間に2000万人から4000万人に増やすということは、(受け入れるための)あらゆるインフラの整備を一気に整える必要があるということ。それは2020年に完成すればよいのではなく、2020年までに構築しなければならない」と述べる。

「日本、特に東京は希有な成長を遂げている。アビアレップスの国内外の事務所も日本のプロモーションを喜んで引き受けたい」とする一方で、「2020年に4000万人というロードマップを、政府としてしっかり見据えているか気がかり。マーケティングの前に確かなもの(インフラなど)が必要」との姿勢を示した。

 一方で、日本市場の魅力について、「中国やアジアといった近圏からの訪日客が急激に伸びたことが説明しているだろう。日本のインバウンドはまだまだ伸びしろがあると思うし、それだけのポテンシャルがある。まだまだ拡大できる」との前向きな見方もしている。

 アビアレップスとしては日本へのインバウンドのアプローチ先として、欧州や北米、中南米まで視野に入れたいとしており、その点においては航空ネットワークの利便性が高まることが魅力をさらに増す大きな足がかりになると指摘。アビアレップスは航空会社のGSA業務も多数扱っており、「当然のことだが、チケットが売れるところに航路を作るのがエアラインのビジネス。特に日本は価格も安定成長している市場。航空会社が数カ月後に急遽日本路線を開設すると聞いてもなんら不思議はないし、日本に就航することを魅力に思っているはずだ」とコメントした。

アウトバウンド市場は「日本が復活すれば、世界は歓迎する」

アビアレップス CEO エドガー・ラッカー氏

 日本のアウトバウンド市場については、急成長している中国や、アビアレップスのなかで成長を見せているという韓国に比べて、「アジア圏では一番早く上り詰め、成熟したために鈍化の道に入っている」との認識を示し、日本市場が今後アウトバウンド市場を成長させるためには「日本経済の底上げが不可欠だろう」とする。

 実際に、アウトバウンド市場にアプローチする外国の観光局の方向性が変化しており、日本よりも、中国や韓国に目が向けられているという。ラッカー氏は「正解か不正解かはともかく」と前置きをしたうえで、「観光ビジネスとして成立させようとしたときに手っ取り早いのは、中国や韓国に投資すること。短期的にリターンを見込めるからだ。日本は“刈り取り”に時間がかかるという認識をされてしまっている」と指摘。

 一方で、「正解か不正解かはともかく」という前置きについて、日本経済が成長し、「ロングホールという昔ながらの……アジアを引っ張っていた頃のような日本の海外渡航市場に戻れば、これほど安定的で力強く、約束されたアウトバウンドビジネスはない。長期的には日本へ投資することが正しい戦略だと言えると思う」ともコメントし、「日本人旅行者はどこへ行っても必ず歓迎されるからだ」と理由を述べた。

 日本人が歓迎される理由として、いくつかの日本人旅行者らしい特徴を挙げた。「マナーがよく、控えめで、渡航先でトラブルを起こすような日本人を私は聞いたことがない。地元の欧州や北米など現地の受け入れ側からも安心されているところ」というのが一つ。

 もう一つ、「ほかのアジア圏の旅行者に比べて、渡航中の消費が積極的。4泊6日ぐらいの(1週間に満たない)スケジュールでヨーロッパすべてを見る。短期間の休暇で、これほどレジャーを楽しむのはとても特徴的だと感じている」と、消費額の多さも歓迎される理由であるとしている。

 このほかに、「さまざまなリスクに対する過敏さは否めない。渡航先の治安情報や衛生面など、ちょっと心配事が増えるとすぐに行くのをやめたり、渡航先を急に変えたりといった行動が見られる」という点も日本人旅行者の特徴として感じているという。

 日本では、10代後半から20代前半の若い世代のパスポート取得率が低いこと、イコール海外へ行く若い世代が減っていることが課題になっている。「この世代の人たちに向けての取り組み、または送りたいメッセージは?」と尋ねてみた。回答は以下のようなものだった。

「これは若者に限らず、すべての人に伝えたいことだが、私のモットーは『Travelling is broadening.』、つまり『旅は人生の幅を広げる』。日本の若者は勤勉で博学で、現在の技術をもってすれば世界のいろいろな情報が手に入るかもしれない。しかし旅をすることで、体験をして、文化や自然に触れて、歴史を目の当たりにするといったこと、これをしないことは若者世代が年齢を重ねたときに『なぜあのとき行かなかったのだろう』と後悔することの方が多いと思う。パスポートを取って旅をすることの価値を率先して教えたいと思う。

 また、特に海外旅行ではなおのことだが、家へ帰ったときに感じる安心感や安堵感はなにものにも代えがたい。『ここが住むべき我が家だ』と感じられることも、気付きにくいが実は旅をすることの大きな価値だろう」。