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営業は年間2日のみ? 津島ノ宮駅と「つしま橋」、実は子供ファーストだった!

「日本一営業日が短い駅」JR予讃線 津島ノ宮駅

駅舎もある、事務所もある、でも営業は年2日?

「日本一営業日が長い駅」……どの駅も基本的に1年365日のあいだ稼働している。それでは「日本一営業日が短い駅」は?

津島ノ宮駅の駅名標。裏側は通常の仕様になっている

 正解は、香川県にある「JR予讃線 津島ノ宮駅」だ。この駅は、子供の守り神として知られる「津嶋神社」の例大祭に合わせて、営業は毎年8月4日~5日の2日間のみ。なお2024年は、4日が午前6時台から20時台まで、5日が早朝から15時過ぎまで、約60本の列車が停車する予定だ。

 この駅は非営業日が年間363日もあるにも関わらず、質素ながら駅舎もある。目の前には津嶋神社、さらに駅まわりの集落(三豊市三野町大見)では、人家もそこそこにありそうだ。なぜ津島ノ宮駅は常設駅に昇格することもなく、年2日間のお祭りのために、駅舎とホームを維持しているのだろうか。

 まずは、津島ノ宮駅の営業開始前、営業中の様子を追いつつ、駅と時を同じくして開設される「年2日間しか通れない橋」、そして津嶋神社の例大祭の歴史を探ってみよう。

実録・津島ノ宮駅レポート。年2日間の安全は「現役・OBのマンパワー」に守られていた!

津島ノ宮駅駅舎。この窓が精算窓口となる

 津島ノ宮駅の営業日には、一番列車が停車する1~2時間前から、駅員さんが続々とワゴン車で到着する。この駅は2駅東隣の多度津駅の管轄下(駅長も兼任)にあり、周囲の駅からの応援も含めると、当日の職員は約20人~30人ほど。ノートPC、ハンディターミナル(きっぷの小型発券機)や多量の扇風機、運賃表、案内板などを次々とセッティングし、駅と神社の間をロープで仕切り、あっという間に臨時駅の体裁が整った。

 一方で、ホームの後ろ側では冷たいドリンクやグッズを販売するエリアもあり、ここはJR四国のOBの方々が中心になって動いている様子。一番列車が停車する30分前くらいまでは、違う駅にいて会えない同期社員や、懐かしい顔ぶれのOBの方々が集う懇親会・同窓会のような雰囲気で、かなり和気あいあいとしている。しかし、列車の停車がはじまると、そんなことも言っていられない。

津島ノ宮駅での乗降の様子。子供も大人も「いっせーの!」で飛んで降りる方が多い

 津島ノ宮駅は予讃線の大きなカーブの途中にあり、ホームと車両のドアにはスキマが生じる。さらに、現在の車両(JR四国7200系など)に対応したホームのかさ上げを行なっていないため、ドアとホームの間に30cmほどの段差もある。

 津嶋神社は「子供の神様」として知られるため、乗降客はとりわけ小さな子供を連れた家族が多い。こういった方々の乗降のアシストするために、車両のドアごとに必ず係員がついて、ベビーカーを担いだり、子供を抱えてホームに降ろしたりと大忙し。

 もちろん、すぐに発車するために、秒単位でのスピーディな確認作業を要するようだ。ホームの係員の方も車掌さんも運転手さんも、いつもよりそうとうに気合いの入った「ヨーシ!」の掛け声、しっかり大きいハンドサインで安全確認を行ない、直立不動で列車を見送る。これが2日間で60回も繰り返される。

 屋台にいるOBの方々も、販売のかたわらで「精算と改札はあちらです!!」とスムーズに誘導し、特急列車が猛スピードで通過する際も、JRの社員の方とともに「後ろに下がってください!」(ホームに白線はない)と声掛けを行なっている。

 こうして眺めていると、津島ノ宮駅の年2日間の営業は、JR四国の現役社員・OBの方々の総力によるマンパワーで成り立っていることがうかがえる。2日間で約8000人という利用者のために、真夏の炎天下に人海戦術で駅の安全を守り、人出が引いた瞬間にサッと待機場に戻って大型扇風機に当たる方々に、この場を借りて心から敬意を表したい。

駅だけじゃない! 津嶋神社の本殿にお参りできるのも「年2日」

満潮を過ぎた「つしま橋」。このあと干潮の際に、わずかの間渡れるようになる
津嶋神社の遥拝殿から本殿にかかる「つしま橋」。床板は普段は設置されておらず、渡れない

 津嶋神社は、先に述べたとおり、子供の健康と成長にご利益があることで知られている。そして例大祭の期間中だけ、特別に「本殿に行ける」のだ。

 普通の神社なら当たり前の話だが、駅のすぐ近くにある津嶋神社の社殿は、あくまでもサテライト的な役割の「遥拝殿」。本殿は眼の前の瀬戸内海に浮かぶ小島にあり、遥拝殿と本殿を結ぶ全長254mの「つしま橋」が通行可能となるのは年2日間、8月4日~5日のみだ。

津嶋神社本殿。この小さなスペースで、お守りや御朱印の頒布などを行なう
津嶋神社の御朱印と、名物「ランドセル守」。

 この橋はコンクリートの躯体だけ、足元の床板だけがない状態で363日が過ぎる。そして、残り2日間の例大祭の期間中だけ、1500枚の木板が据え付けされるのだ。

 この2日間だけは、本殿でお守りや御朱印などを頒布しており、2日間で6~7万人という来訪者で「海上・橋上の大渋滞」が起きる。普通に歩くと3~4分で本殿にたどり着けるが、時間帯によっては20分、30分も人波が動かないことも。天候が急変したときのために、いちおう常備傘を持っていった方がよいだろう。

 この橋がかかる前には、近くの漁師の方が小舟で本殿に乗り付けることも多く、島のまわりを船が取り囲んで上陸を待っていたのだとか。その後、1915年には前身となる駅(津島ノ宮仮乗降所)が開業し、1933年には今の橋の前身が完成。それまでは「数十km離れた高松・坂出からマイ漁船で乗り付ける」ような参拝客もいたのが、徐々に鉄道移動にシフトするようになり、気軽に参拝できるようになった。

 なお香川県は、船の神様である「金刀比羅宮」への参宮鉄道が4社競合で敷設されたり(現在のJR土讃線・高松琴平電鉄・琴平参宮電鉄・琴平急行電鉄)、屋島・八栗寺・雲辺寺などの参拝のためにケーブルカー・ロープウェイが建設されるなど、なにかと「寺社仏閣への参拝=鉄道整備」という土地柄だ。

 その後は台風被害などを契機に、現在の両端だけコンクリート造の橋に架け替えられた。ただ床への木板の設置はあくまでも仮設で、期間中は大工さんが頻繁に巡回、点検を行ないつつ、釘を打ち直したりしている。

例大祭の門前屋台は、夜遅くまで営業を続ける
石灯籠や狛犬を取り込んだ屋台も。それだけ境内の土地が狭い

 そして子供にとっては、西讃(香川県西部)のお祭りで随一の屋台・露天の充実ぶりがうれしい。たこ焼き、お好み焼き、たこやき、型抜き、ヨーヨー、パチンコ、射的などなど……なかでも、西讃ではおなじみのソウルフード「たこ判」(たこが入った大判焼き状のおやつ)は、ぜひとも食べておきたい。

 また、津嶋神社の門前はスペースが狭く、鳥居や狛犬を取り込んでスペースを確保するような区画も。迷宮のように広がる屋台エリアをぶらぶらとさまようのもよい。

楽しみは「例大祭」だけじゃない?

初日(8月4日)には花火大会も開催される

 そんな津嶋神社もコロナ禍の影響は避けられず、2020年、2021年は例大祭も中止となり、駅も開設されなかった。2022年にようやく開催された例大祭は「待ってました!」とばかりに受け入れられ、多くの人々でにぎわったという。

 実は、毎年6~7万人が訪れている例大祭で、鉄道を利用して津島ノ宮駅で降りる来場は、全体の1割少々だ。しかしクルマでの来場となると、津嶋神社のWebサイトにも「徒歩2~3km歩く可能性があります」と書かれるほど駐車場が遠く、かつ近くを通るコミュニティバスも本数は少なく、週末は運休になってしまう。

 津島ノ宮駅は先に述べたとおり、カーブと段差があるため、常設駅になることはまずあり得ない。それでも、この駅は人海戦術によるマンパワーで「年間2日間、例大祭だけの営業」という役割を果たし続けるだろう。

 津嶋神社の例大祭は、子供のためのお祭りとあって、地域の心のよりどころともいえる存在だ。おそらく香川県・西讃地方の方なら、かなりの確率で子供のころに訪れたことがあるだろう。

 津島ノ宮駅には鉄道ファンの訪問も多く、それ以外の見どころも十分にある。臨時駅をウォッチングしたあとは、「つしま橋」を渡って本殿に参拝し、祭りのにぎやかさや「年間2日間しか渡れない橋」を、ぜひとも堪能してもらいたいものだ。