旅レポ

トルコ北西・国境の町へ旅をしました(その1)

ユネスコ無形文化遺産にも登録されている世界最古のレスリングとエディルネの街を堪能!

650年以上の歴史を持つ世界最古のレスリング「クルクプナル・オイルレスリング」

 うだるように暑い夏の東京を逃げ出すようにトルコへ行ってきました。トルコ共和国大使館・文化広報参事官室が主催する視察ツアーに参加し、1357年から開催されているという「クルクプナル・オイルレスリング」の第654回大会を観戦するのが目的です(2015年の開催期間は7月24日~26日)。開催地はギリシャ、ブルガリアとの国境を持ち、かつてオスマン帝国の首都が置かれていたというトルコ北西部の「エディルネ」という街。

 「クルクプナル・オイルレスリング」は、その名のとおり体中にオリーブオイルを塗って戦う独特のもの。専用スタジアムのグラウンドはサッカー場などの芝生ではなく、丈の長い草が生い茂っている、どちらかというと草原のような雰囲気の競技場です。この大会が始まった14世紀から脈々と続く風景なのかもしれません。

専用スタジアムの外観
広い草原のような会場では何組もの対戦が同時進行します
全国各地で行なわれた予選を突破した強者達が頂点を目指し戦いを続けます

 さて、そんなクルクプナル・オイルレスリングは、エディルネの街にとってはもちろんですが、トルコ共和国にとっても“超”が付くほどのビックイベントです。大会初日にはエディルネ市役所からの関係者が音楽隊とともに街を練り歩き、初代トルコ大統領であるムスタファ・ケマル・アタテュルクの碑や、歴代チャンピオンの墓などさまざまな場所でセレモニーを行ない、街全体をお祭りムードに染めます。そのあと、専用スタジアムでの3日間続く大会が戦いが始まります。

エディルネの市長ほか関係者が市役所の集結し3日間のお祭りが始まります
歴史のある美しい街並みを関係者が練り歩きます
市内を練り歩いた関係者は、さまざまな場所でセレモニーを行ないます
街のいたるところに貼られた大会のポスター

 試合は年齢と体重により14のクラスに分けられ、全国の予選を勝ち上がった1924人が3日間をかけ頂点を目指します。ルールは、相手を倒し腹を空に向けさせるか、相手を持ち上げ(宙に浮かせ)3歩進めば勝利、というシンプルなもの。スタジアムにリングなどは設置されず、草原のようなスペースで同時に何組もの試合が行なわれます。

 シンプルなルールとは裏腹に、いや、シンプルだからこそさまざまな場面で駆け引きが見られ、試合は見応えがあります。なにしろ体中オイルだらけでヌルヌルで皮膚と皮膚との摩擦が少ないため、相手を掴んでエイヤッと投げ技を繰り出すのも容易ではありません。強靭な肉体でがっちり相手を掴み倒したり、持ち上げたりするスタイルは、華やかな興行としてのプロレスより、オリンピックなどでも目にするレスリング競技に似た雰囲気です。そのパワフルな試合は男性にとってももちろん魅力的ですが、同じツアーに参加していた女性達の、試合が終わっても冷めない熱狂ぶりを見ていると、案外この競技は女性との相性もよいのかも知れません。特にプロレスやK-1といった格闘技ファンの女性ならばハマること間違いなし。非常に男臭い競技でした。

隆々とした筋肉を持つ選手同士のぶつかり合いは、もうそれだけで迫力満点。高度な駆け引きはもちろんその持久力にも驚かされます

かつてのオスマン帝国の首都「エディルネ」の街を楽しむ

かつてのオスマン帝国の首都「エディルネ」の街

 伝統のクルクプナル・オイルレスリングの観戦とともに楽しみにしていたのが、イスタンブールにその機能を移すまで、約90年もの間オスマン帝国の首都であったというエディルネの街で過ごす時間です。日本の青森県に近い緯度のこの街は、夏は30度前後の気温で、暑いといえば暑いのですが、筆者が住む東京と比べればはるかに過ごしやすく、かつ湿度の違いなのか日陰は涼しく実に気持ちのよいところでした。

 歴史のある街ならではの建造物がしっかり保存されているうえに、街自体は非常によく整備されていて清潔な感じがします。前述の気温も相まって実に快適な時間を過ごせましたし、ビーチも綺麗で夜に出歩いても怪しさゼロ。もちろん慣れない海外で、夜の一人歩きはお勧めしませんが、感覚的には日本より安全に感じます。ちなみに今回お世話になったイスタンブール在住のツアーガイドの方の「老後はここに住みたいなぁ」との呟きが、この街をもっとも端的に表しているような気がします。そんな街がエディルネです。

歴史的建造物とビーチ、美しい街並みが魅力のエディルネ。短時間の滞在でしたが治安もよいようです
ビーチ沿は夜でも人通りが多いがとても穏やかな雰囲気。多くの人がのんびり散歩している感じ
トルコ国内に多く見られるMADO
実はこのMADO、トルコアイス発祥の小さな街からスタートし全国に広めたお店なのです

 食事は個人的な好みもあるでしょうが、日本人の口に合うと思います。日本では出会えないような刺激的な酸味や辛味などを求める向きには少々もの足りないかもしれませんが、魚料理も肉料理も大変美味しく、少なくとも今回のツアー中に食べた料理にハズレはなし。クレソンやルッコラのような野菜も、日本で食べるものより野趣にあふれ、トマトも、シンプルな焼き魚も、肉も、何を食べてもホントに美味しい。特にチーズに関しては牛、羊、山羊、何でもありで種類も多く、どれも美味しいのには少々驚きでした。また、この街名物の「エディルネ・タヴァ・ジエール」はちょっとB級グルメ的な牛や羊のレバーの素揚げ。レバーが苦手な人も食べられそうなクセのない味です。デザートは総じて日本のものよりちょっと甘めの印象。甘党の方はぜひ!

チーズの数は多く、どれも個性的ではありながら強いクセはなく美味しい
B級グルメ的なレバーの素揚げ「エディルネ・タヴァ・ジエール」はエディルネの名物
デザートはバリエーション豊富。写真は「ティリレチェ」(TRILECE)という牛、水牛、ヤギのミルクを使ったバルカン半島のデザートで、トルコでは2013年から人気が高まった新しいデザートです

圧巻のイスラム寺院「セリミエ・ジャーミィ」

オスマン建築の最高傑作とも言われるイスラム寺院「セリミエ・ジャーミィ」

 圧倒的多数の国民がムスリム(イスラム教徒)のトルコですから、街のアチコチにモスク(モスク=ジャーミィ=寺院)があり、もちろんエディルネの街も例外ではありません。なかでも「セリミエ・ジャーミィ」はオスマン建築の最高傑作ともいわれ、その美しさはもちろん、大きさにも圧倒されます。とにかく凄いの一言。

 何度も修復され、今でも礼拝が行なわれている現役の寺院だからこそ、16世紀の巨大建築物がこのような完全な形で残されているのでしょう。礼拝の時間でなければ観光客も無料で出入りできます。

 またエディルネの街には巨大な「バヤズット2世キュリエ医学博物館」があります。15世紀に医学校として建てられた建築物はまるでモスクのような風情で、その内容も15世紀の医学技術がどれほど進んでいたかを思い知らされます。現代の我々が受けている医療の原型や、音楽によるヒーリング医療、カラーセラピーの原型がこの当時からあったことには驚くばかりです。ただし医学博物館といっても15世紀当時の模様を人形で再現して説明している部分も多く、それほど難しいものではありません。

主ドームの31m余りとイスラム寺院の中でも最大級の「セリミエ・ジャーミィ」
圧巻の外観、内観はどこをとっても最高傑作の名にふさわしい
2011年、ユネスコ世界文化遺産に登録されました
その建物自体も素晴らしいバヤズット2世キュリエ医学博物館
15世紀当時の医学源流技術を感じることができます
当時の風景を再現した人形の展示も多く視覚的に分かりやすいものです

 そんな見所満載のエディルネの街ですが、筆者は今回、国際空港のあるイスタンブールからチャーターされたバスで行きました。日本からの観光では、やはりイスタンブールから高速バスを利用するのがよいようです。その行程のほとんどが整備された1本道なので快適。車窓から見えるなだらかな丘陵地帯にはひまわり畑が多く、とても綺麗です。なにしろこちらでひまわりは、その油はもちろん種まで食べる農作物ですから、畑も広大で見応えがあります。

 伝統の「クルクプナル・オイルレスリング」は7月下旬開催、ひまわり畑の咲き誇るピークは8月とスケジュール的には少々悩ましいところでありますが、今回行った7月の下旬でも十分にひまわりを楽しめました。行くならアレもコレもと欲張りたい方は、オイルレスリング開催期間中がお得だと思います。

 またこの地方の名物には、フルーツの形をした石鹸があります。その昔、宮中に納めたのが起源と言われるこの石鹸は、通常の石鹸を原料としながらも、手間のかかる作業を丁寧に丁寧に繰り返して作られたもの。もちろん機械で大量生産されたお土産品も多く売られていますが、ちゃんと見ればその差はすぐに分かります。お土産選びの際には、本物探しをしてみるのも楽しいかもしれません。

空港のあるイスタンブールからエディルネの街までは整備された高速道路が繋がっていて車窓の丘陵地帯にはひまわり畑が続き、とても綺麗です
エディルネ名物フルーツの形をした石鹸。大量生産品も多いようですが、伝統に則った手作りのものはエディルネ市内の「IKIZ EVLER KONAGI」などで購入できます。ちなみにここは、修復された19世紀の建築物だそうです

 積み重ねてきた歴史を肌で感じることができるイベントや、建築物、鮮やかな色彩、そして美味しい料理、清潔な街並み。流行りの言葉ではありませんが、ぜひ死ぬまでにもう1度訪れたい街でした。

高橋 学

1966年 北海道生まれ。仕事柄、国内外へ出かける機会が多く、滞在先では空いた時間に街を散歩するのが楽しみ。国内の温泉地から東南アジアの山岳地帯やジャングルまで様々なフィールドで目にした感動をお届けしたいと思っています。