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空港での“小さなサプライズ”を生んだJALのおもてなし制度

 サービス業にとって利用客に満足してもらうことは永遠のテーマであるが、すべての利用客から満点の評価をもらうことはありえないだろう。それはサービスを受ける利用客と対応するスタッフどちらも人間であり、考え方が異なるからである。利用客が満足するいわゆる「顧客満足」の形成には、品質だけではなく支払った金額に対するお得感や、事前の予想と期待などのさまざま要素が関わり合う。

 数ある航空会社の中でも顧客満足度が高いと知られるJAL(日本航空)。2010年の経営破綻以降、さまざまな構造改革を行ない再上場を果たした。中期経営計画の中で、「顧客満足No.1」を達成することを経営目標の1つに掲げ、経営理念の刷新や「JALフィロソフィ」の展開など、新しいJALのブランドを展開し生まれ変わった姿を見せる。2014年度のJCSI(日本版顧客満足度指数)の国際航空部門ではシンガポール航空に続き第2位と、3年連続で好成績を収めている。

 そんなJALの高い顧客満足度の秘密とは何なのだろうか。今回はJALの取り組みについて、電話対応などを行なう関連会社「JALナビア」で海外ツアーを担当する山田さんと、空港での旅客サービス業務を行なう「JALスカイ」の渡邉さんにお話を伺った。

株式会社JALナビア 東京センター 海外ツアー室 eトラベルプラザグループ 山田知佳さん(左)と、株式会社JALスカイ 羽田事業所第2部国内パッセンジャーサービス 渡邉麻友美さん(右)

「お客様に喜んでいただきたい」現場の社員を後押しする制度

 現在航空券を購入する手段として、インターネットが一般化しつつあるが、代理店や航空会社へ問い合わせての予約や購入をする場合も少なくはないという。JALグループの中でチケットの発券や旅行ツアーの手続きなど、利用客からのさまざまな問い合わせに対応するのが、コンタクトセンターの山田さんの主な業務だ。特に国際線や海外ツアーなどでは複雑な手続きなどがある場合もあり、問い合わせを受けることも多い。

 そのような利用客との会話の中で、記念日などの特別な事情に気づき、「感謝の気持ちやお祝いの気持ちをお伝えしたい」と思った際に、手書きのメッセージカードを作成して、空港カウンターや機内で手渡すサービスを実施できる環境を整えている。これは「ハッピーコール」と呼ばれており、関連会社を含めたすべてのスタッフが連携して利用客への感謝の気持ちを伝えるサービスだ。

 実際山田さんも、会社を退職した記念に夫婦で海外に旅行するという利用客に対して、“お祝いと記念のメッセージを書いたカードをお渡ししたい”と思い、手書きのメッセージカードを作成したというエピソードを語ってくれた。

 コンタクトセンターは空港とは別の場所にオフィスがあり、直接利用客と接する部門ではないが、山田さんが作成したメッセージカードは空港スタッフや客室乗務員と連携して、機内でお客様に渡されたという。

「直接お客様と接する部門ではないので、現場(客室乗務員や空港スタッフ)からお客様の反応を聞くことが多い。時々、メッセージボード(海外ツアー利用客とスタッフがWeb上でコミュニケーションするシステム)などでお客様から直接お礼や感謝のメッセージなどを頂くことがあり、とても嬉しく現場スタッフのやる気も上がります」と山田さんは話した。

 一方、空港スタッフの渡邊さんは「往復でご利用されるお客様で、行きのフライトが999回目の搭乗で、帰りのフライトが1000回目になると話していた方に、復路便搭乗の際、名刺入れをサプライズプレゼントさせていただいたことがありました」というエピソードを話してくれた。

 JALでは、こうしたプレゼントについて、少額の購入費用は会社が負担する制度を設けている。利用客とのコミュニケーションを通じて、「お客様に贈り物をして差し上げたら喜んでいただけるかもしれない」という気持ちを具現化できる制度によって、現場社員の自発的なおもてなしの心を後押ししている。

 近年では自動チェックイン機の設置やタッチ&ゴーサービスなど、システムの自動化や簡略化が進められ、昔のように有人カウンターに出向きチェックインをする機会は少なくなった。

「お客様とのファーストコンタクトをカウンターの外に出てご案内するようにしています」と渡邊さん。特に上を見上げながらきょろきょろとしているお客様などには積極的に声をかけ、できるだけ多く利用客との接点をもつように心がけている。

 利用客とのコミュニケーションをとることにより、詐欺事件を未然に防いだという事例もある。不安そうな表情や貴重品を気にかける利用客の様子に気がついた空港スタッフが声をかけ、空港内を巡回している警察官と連携して事件を未然に防ぐことができたという。

 インタビューの最後に山田さんは「世界最高のコンタクトセンターを目指している。電話やメールでの応対を通じて、お客様がどのようなことを要求しているのか1つ1つ深く丁寧に応対していきたい。JALフィロソフィを共有し、職場のみんなが同じ目標に向かっていくために頻繁にミーティングを行なっている。日々の業務を能動的に積極的に取り組みたい」と語った。

 また、渡邊さんは「長年勤めていることで、お客様に対する『ありがとう』の気持ちがより強くなってきた。社内や客室などで、感謝の気持ちをもって自ら行動して、お客様の思い出となる飛行機の旅を作っていきたい」と今後の抱負を語ってくれた。

 ここ10年で航空会社のサービスの質は向上していると実感している。フルフラットシートやグルメな機内食などといったラグジュアリーなサービスはもちろんだが、心から利用客を出迎え、笑顔でもてなしてくれる空港スタッフや客室乗務員などの存在に好感を持ち、再び同じエアラインを選ぶというのも心理だと思う。これは一流ホテルのセオリーでもある。一方航空会社の場合はさまざまな利用客と接することとなる。修学旅行生や海外旅行が初めての人やハネムーン、年配客、ビジネス路線かレジャー路線かでも大きく違ってくるだろう。この利用客とスタッフの“一期一会”的な出会いが航空会社の特徴的な点であり、サービスの差別化を図る大きなキーポイントになるだろう。

 ヒューマンサービスにおいて顧客満足度を上げるためにコミュニケーションは非常に重要な要素だと感じる。筆者もよくJAL便を利用する。プライベートで利用する際は、私も飛行機が好きな1人の利用客だ。搭乗前に飛行機の写真を撮影したり、上空では眼下に見える風景を眺めたりメモを取ったりしている。数あるフライトの中には、客室乗務員から声をかけられたり、メッセージカードや絵葉書を頂くこともある。会話をすることで親近感が生まれ、そのスタッフを通じて航空会社の印象もよくなるはずだ。

(鈴木崇芳)