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ANAグループの国際物流を担うOCS、首都圏の新拠点「OCS東京スカイゲート」竣工

マテリアルハンドリング(自動貨物取り扱い)機導入で効率化

2017年8月3日 竣工

ANAグループの物流会社であるOCSが、首都圏の新拠点「OCS東京スカイゲート」をオープン

 ANA(全日本空輸)グループで国際物流を担っているOCSは8月3日、2016年から建設を進めてきた首都圏の新たな物流拠点「OCS東京スカイゲート」(東京都江東区辰巳)を竣工。同日、関係者に披露した。

 OCSは、海外の日系企業や在留邦人に新聞を届ける1957年創業の「海外新聞普及株式会社」を前身とし、当時からの英文社名である「Overseas Courier Service」が現在の社名の元になっている。そして、1990年代後半からはじまった新聞の海外現地印刷やデジタルデータ化などの流れを受けて、国際エクスプレス事業を強化。2009年3月にANAが出資を決め、4月より同グループの一員になり、2010年に和文社名を現在の「株式会社OCS」へ変更した。ANAの沖縄貨物ハブや航空ネットワークを活用した事業を担っている。

 首都圏ではこれまで、港区芝浦の本社と新木場オペレーションセンターの二元体制となっていたが、これを新たにオープンしたOCS東京スカイゲートに一元化。例えば芝浦営業所のエリアで集配を担う荷物も、輸出入ともに新木場を経由して運用してきたが、今後は東京11区、神奈川県、埼玉県、千葉県の一部のエリアをすべてOCS東京スカイゲートに一元化して運用する。

 この開所を機に、港区芝浦からOCS東京スカイゲートへ本社も移転。統合は段階的に行ない、新木場のオペレーションセンターを10月までに移転し、11月からのフル稼働を見込む。1年間のフル稼働で5億円の収支改善を目標にしているという。

 OCS東京スカイゲートは約100億円を投資し、2016年5月から建設を開始。地上8階建てで、1階と2階が保税/サービスセンターのエリア。3階は主に事務所、4~6階が倉庫、7階と8階に事務所を構える。

 同社では、2012年以降進めてきたオペレーション改革のなかでの羽田/成田を活用するために本社と新木場オペレーションセンターの統合、羽田/成田両空港と沖縄貨物ハブをフル活用した最速配達サービスとレイト(遅めの)集荷の適用に向けてサービス改善、多品種少ロット化や、ECのように流通体制がないと成り立たないビジネスの市場拡大に合わせ、一時ストックなどの一手間かかるサービスを提供できる施設、をコンセプトに本施設を計画。4~6階を貨物スペースとして一時ストックなどに対応できる。

 さらに、1階と2階にマテリアルハンドリングシステムを導入して荷物の取り扱いを大幅に自動化したことが最大の特徴となる。例えば、国内への配送の仕分けや輸出先の行き先(デスティネーション)コードを伝票を目視して分けていたり、バーコードの読み取りもハンディスキャンによって人の手で行なったりしていたのを、ベルトコンベアで自動的に行なえるようにしている。

記者会見場に展示されたOCS東京スカイゲートの完成図。写真上は北東側、写真下は南西側からのもの

 今回の施設公開では輸入した貨物の国内配送に至る流れを見学した。まず空港から届いたULDコンテナに乗った荷物が1階へ到着。トラックからの積み降ろしは3台まで同時に行なえるようになっており、キャスターステージと呼ばれるボールマットになったエリアへ下ろす。その後、ULDコンテナから荷物を取り出すスペースに移動するが、輸入時は同時に6台のコンテナに対応できるようになっており、従来の2倍の広さとなっている。

 取り出された荷物は自動的に2階へ運ばれる。2階は「OCSのノウハウを集約」のコンセプトで設計されており、バーコードリーダーで自動的に伝票を読み取り、OCS自社の通関システムやトラッキングシステム、税関システムのNACCSシステムなどと連携して処理できる仕組みになっている。そして、輸入許可/未許可の判別なども自動的に行ない、許可された荷物は1階へ、未許可のものはその内容に応じて区分けされたシューターへと仕分けされる。

 1階へ下ろされた荷物は、再びバーコードリーダーを通過し、ZIPコード(郵便番号)をトリガーにして自動的に仕分け。クルーによってそれぞれのエリアへの集配車に積み込まれる。この配送車両のスペースについても16台分を用意。OCSでは80台以上の車両を保有しており、従来は集配車が出たあとに施設に余裕が生まれる傾向があったそうだが、接車スペースを増やすことでより多くの荷物を集められるようにし、施設を効率よく稼働させられるようにしているという。

 このマテリアルハンドリングシステムの導入によって、「構内処理能力は2.5倍から3倍」「配達のスピードアップと、より遅い集荷への対応」「誤仕分けの低減=サービス品質の向上」「従来から全体工数を約35~45%削減」を見込んでいる。また、従来の仕組みでは貨物量が増えると作業人員を増やす必要があったが、マテリアルハンドリングシステムの導入によりそうした変動部分を減らして固定費で抑えられる利益構造を生み出せるとしている。

飛行機に乗って運ばれてきたULDコンテナを搭降載するスペース。トラックは最大3台が接車可能で、荷台との高さを調整するシザーズリフターを介して搭降載する
コンテナを移動させやすいよう床はキャスターが敷き詰められている
施設内で処理を終えた輸出する荷物をULDコンテナに積み込むスペース
ULDコンテナに積まれた輸入荷物を解き、ベルトコンベアへ下ろすスペース。最大6台のコンテナに対応
輸入した荷物を下ろすデモンストレーション
輸入した荷物を読み取る最初のバーコードリーダー。検量/検尺もこのエリアで行なえる
バーコードリーダーで自動的に伝票を読み取りベルトコンベアで運ばれていく
2台目のバーコードリーダーで輸入の許可/未許可判別を行ない、許可されたものはそのまま1階へ、未許可のものはその内容ごとに分類されてシュートされる
集配車とクルーが待機する1階の集配車スペース。最大16台の車両を接車できる
3台目のバーコードリーダーで郵便番号を識別し、行き先別に荷物をシュート。クルーが集配車へ積み込んでいく

“アジアを代表するインテグレータになる”というOCSの目標に向けて次の60年へ

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏

 OCS東京スカイゲートのオープンにあたっての記者会見では、ANAHD(ANAホールディングス)代表取締役社長の片野坂真哉氏とOCS 代表取締役社長の福田哲郎氏が挨拶。

 ANAHD(ANAホールディングス)代表取締役社長の片野坂真哉氏は、「ANAグループの貨物事業にとって重要な企業になっている。経営目標が“アジアを代表するインテグレータを目指す”と、ちょっと大きく出ているが非常に頼もしい。国際エクスプレス市場の大きなシェア獲得に向けて積極的にビジネスを展開している」とし、マテリアルハンドリングシステムの導入によって「効率化され時間もセーブされている。人にとっても働きやすい環境になる。コストも低減される。輸入は3倍、輸出は5倍に拡大していく」とコメント。

 さらに、訪日外国人の“爆買い”が収まる一方で、日本を訪れた外国人が自国に帰ってから日本の商品を通販で購入する「越境EC」に注目。片野坂氏は、「経済産業省の統計では2020年、3年後に1兆9000億円の市場に成長するとしている。この成長を見込んで、越境ECのノウハウを持つACDホールディングスに出資し、(越境ECプラットフォームの)『ANA Cargo Direct Mall』の運用を開始している」と紹介し、「このECモデルを支えているのが集荷から、通関、海を越えた輸送、通関、配送を担うOCS。OCSなくしては成立しないビジネスであり、本日オープンした東京スカイゲートが力を発揮してくれるものと期待している」とANAHDのビジネスを支える施設になることへの期待を示した。

株式会社OCS 代表取締役社長 福田哲郎氏

 OCS 代表取締役社長の福田哲郎氏は、OCSの事業について、「ANAの沖縄貨物ハブ、羽田の深夜発早朝着便は、日本とアジア各国の物流を最速で結べる強みを持っており、ANAグループ+OCSと、外資系インテグレータとの差別化を図る核と考えている。OCS東京スカイゲートによって『サービス品質』『翌日午前配達』『当日のレイト集荷』という3つの強みに磨きをかけ、ANA+OCSの連携一体サービスで、安全により早く、日本とアジアを最速で結ぶエクスプレス会社、そして私どもの経営目標である“アジアを代表するインテグレータになる”という目標に向けてやっていきたい」と新施設オープンにあたってコメント。

 ちなみに、同社の取り扱い貨物は、貨物専用機(フレイター)を使ったものが約8割、旅客機の貨物室を使ったいわゆるベリー輸送が約2割とのことで、福田氏は「沖縄ハブ(によるフレイター輸送)を活かし、それを補完するのがベリー輸送。しかし、目的はお客さまからお預かりした荷物を、どこよりも早く届けることなので、ベリーの方が早ければベリーを使う」との方針であると説明した。

 東京スカイゲートの名称は社員から募集し、「首都圏において辰巳から空へ、世界への窓口、ゲートウェイとしてフル活用しながら発展していきたいという思いを込めている」と紹介。前身の海外新聞普及が60年前(1957年9月1日)に社員5名のベンチャー企業のようなスタイルで創業してからの歴史にも触れ、「2009年にANAグループ入りして以来、さまざまな改革を行なってきたが、いま構造改革のステージを終え、今年度からは次のステージへ進もうとしている。OCS東京スカイゲートの稼働とともに、再度、創業時のベンチャー精神で次の60年へと踏み出していきたい」と意欲を示した。