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「Hawaii Summit 2016」でビッグデータを観光事業に活用する技術と事例を紹介
旅行者の動きを地図上に見える化して的確な施策を実現
(2016/4/15 05:30)
- 2016年4月12日 開催
ハワイ州観光局は4月11日から15日(現地時間)まで、米国ハワイ州オアフ島のハワイ・コンベンションセンターにおいて「Hawaii Summit 2016(ハワイサミット2016)」を開催している。同サミットには日本及びハワイの旅行業界関係者が出席。商談会や懇親会が開催されるほか、基調講演やハワイ各島での研修ツアーが行なわれている。
開会2日目となる4月12日には基調講演として、パネルディスカッションとプレゼンテーションが行なわれた。パネルディスカッションの様子は弊誌記事を参照していただくとして、ここではプレゼンテーションのレポートをお届けする。
プレゼンテーションでは、メディアラグ代表取締役でありPiece Connect Media Inc. CEOの藤井雅俊氏が、「RESASを活用した地域分析及び観光産業促進への道筋-アウトバウンド、インバウンドの感性データ分析とは-」と題する講演を行なった。
「RESAS(リーサス:Regional Economy Society Analyzing System)」とはメディアラグが中心となって開発した地域経済分析システムで、ビッグデータを使って地域経済を見える化することができるもので、その概要と活用事例を軸に話は展開していく。
内閣府、経済産業省で日本におけるビッグデータの構築をプロデュースしているという藤井氏は、講演の冒頭、内閣府大臣補佐官(地方創生担当)の伊藤達也氏からのビデオレターを紹介。伊藤氏はビデオレターで、「RESASはもともと地方自治体の意思決定システムを、これまでの勘と経験、思い込みからデータに基づく客観的な政策意思決定に変えていくという趣旨でスタートした。人、モノ、金の流れをつかみ自分たちの地域の現状や課題、強み、弱みを把握しながら、いかに地域を元気にしていくことができるのかという議論を展開し、新たな挑戦やイノベーションにつなげている。RESASは2016年、英語版も策定する。英語版のRESASを活用してもらって、プロの視点でアドアバイスをもらい、我が国とハワイの皆さまの交流振興につなげていくことができると大いに期待している」とコメントした。
伊藤氏のビデオレターを受け藤井氏は、RESASは誰でも利用できるシステムとしたうえで「リアルタイムにデータが取れること。誰がどこに滞在したのかを数値化して見られること」を特長として挙げた。
RESASが使用しているビッグデータは「経済産業省をはじめ国土交通省、農林水産省など国のデータ」と「通信キャリアのモバイル情報、カードの消費情報、アプリなどから得られる個人の移動情報」で、これらをマッシュアップして生成。チームラボのビジュアルゼーション化技術によって“見える化”を実現。「どんなお客さまがどこに、どんな消費を起こし、誰がどこを経由してどこに観光に行ったのか」といった「点」を、「from-to分析」「滞在人口」「メッシュ分析」「目的地分析」「外国人来訪分析」「外国人滞在分析」により地図上に分かりやすく表現できると説明した。
実例として北海道のニセコ町をピックアップ。RESASを使うことで「外国人がどこに行っているのか、誰がどこから札幌に立ち寄ってニセコに何人来たか、といったことが“見える”」こと、「単なるExcelのグラフではなく地図の上に数字を置くことによって“いつ/誰が/どこから/どのように来たのか”という観光の履歴が見られるようになる」と説明。さらに人口マップと重ね合わせることで「観光業によって地域を認知し、住民が増え、雇用が増え経済が発展」していき「観光が新しい地域産業の育成になる」と、これまでとは異なる切り口でのマーケティングが可能になるとした。
もう1カ所、観光ショーケースにもなっている長崎市にも触れた。長崎の場合、年間のインバウンドは約21万人。そのままでは単なる訪問者の「数」でしかないが、RESASのfrom-to分析により、長崎が彼らの目的地なのか経由地なのかということまで分かる。たとえば福岡を経由してくる観光客が多いなら、長崎単独よりも福岡プラス長崎で一緒にプロモーションを行なえばより効果的、といったことが見えてくるわけだ。このように「さまざまなマップを“見える化”することによって、いろいろな観光地、コンテンツをアピールしていくことが明確になってくる」と藤井氏は説明。
こうしたデータに、ナイトレイの訪日外国人の位置・移動情報に特化したSNS解析サービス「inbound insight」の情報を加えると、「彼らがどこをどのように回遊して、どういった感想を残していったのかがすべて見られる」ようになり、「なにをどこで何時何分にしたのかをデータ上で取れる」のがいまのマーケティングシステムだとした。
藤井氏は5年後には「カスタマージャーニーを取得することによって、ディープラーニングや人工知能が機械的にある処理をして、お客さまにレコメンドしていくという、ある意味でいえば人の手を介さないところでコスト削減をしながらビジネスを作っていく時代になる」と解説。これはたとえば、ある施設にいる観光客に対して国籍や年齢、前の訪問場所といったデータをもとに「近くにこんなスポットがあります」「人気の料理店(料理)があります」と、次の行動を高い確度でレコメンドできるわけだ。
ただし、SNSには功罪の両面がある。たとえばある事象に対して功の面となるコアなユーザーが中心にいるとすれば、その周囲にはいわゆるサイレントマジョリティの「ウォッチャー」、そして罪の面となる「マイノリティー」が存在する。藤井氏は「一番気にしなければならないのはウォッチャーと呼ばれる周囲で真ん中を見ながら、次になにをしたらいいのかと戦略的にSNSを使っている人達」だという。
こうしたウォッチャー達はレイトマジョリティーを誘引する力を持っており、旅行でいえば現地に行った経験をいかに次に伝えられるかということになる。「これがビッグデータのなかで、一番大事なポイント」で、「動画やコミュニティで経験したことを信頼する映像で次の人に伝えていく、これが確実に信用を得るマーケティングシステム」と語った。