ニュース

JAXA、低ソニックブーム設計概念を適用した試験機が世界初の超音速飛行に成功

2015年7月27日 発表

D-SEND#2超音速試験機「S3CM」

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は7月27日、超音速旅客機実現に向けた低ソニックブーム設計概念実証プロジェクトの第2フェース試験(D-SEND#2)の飛行試験を、スウェーデンのエスレンジ実験場において実施し、超音速飛行、および機体から発生したソニックブームの計測に成功したことを発表した。機体の先端、後端ともに低ソニックブーム設計概念を適用した航空機形状の試験機による超音速飛行およびソニックブーム計測の成功は世界初。

 D-SEND#2は、超音速飛行時に発生し、地上に爆音を発生させてしまう衝撃波「ソニックブーム」の低減技術を開発する「静粛超音速機技術の研究開発」の一環として、JAXA独自の「低ソニックブーム設計概念」の実現性を飛行実証により示すとともに、ソニックブームの国際基準検討に貢献可能な技術やデータ獲得、その提供を目的とする。

 試験は、低ソニックブーム設計概念を用いてスバル(富士重工業)と共同開発した「S3CM」と呼ばれる航空機形状の試験機を、気球に吊り下げて高度30kmまで上昇。そこから落下させることで超音速飛行(マッハ約1.3)、経路角50度で滑空させ、地上に設置したブーム計測システム(BMS)上を通過する際に発生するソニックブームの波形を計測する計画となっていた。D-SEND#2は2013年の実験では想定していた飛行状態でのソニックブームを観測できず、2014年は試験期間中に実施可能な気象条件を満たせず、2015年は3回目のチャレンジとなる。

 JAXAのチームは5月にはスウェーデンのエスレンジ実験場で準備を開始し、気球を運用するSSC(スウェーデン宇宙公社)との合同リハーサルなどを実施。試験期間に入ってからは、ソニックブーム計測手順を確認するなど訓練を繰り返しながら気象条件を整うまで待機した。

 そして、7月24日4時43分(現地時間、日本時間11時43分)に超音速試験機を吊り下げた気球を放球。10時00分(同、日本時間17時)に、高度30.5kmの気球から試験機を分離。正常に飛行したあと、予定どおり実験場内に着地した。

 JAXAの「D-SEND#2試験サイト」では、放球や分離の様子を動画で公開しているので、併せて参照されたい。

 同試験実施後、データの回収、解析が進められ、試験機がブーム計測システム(BMS)上空を通過し、マッハ1.39で飛行。マッハ数、揚力係数ともに計測要求の範囲内であったことを確認。併せて、BMS上空で発生したソニックブームを、高度が異なる4カ所すべてで計測に成功したほか、BMS上空以外の飛行経路上3カ所でも計測に成功し、設計どおりソニックブームが低減したことが確認されたという。

 今後、先端および後端の低ソニックブーム性に関する飛行実証結果について、計測データの詳細解析が完了次第、確認結果を発表するほか、2016年の(国際民間航空機関)のCAEP(航空環境保全委員会)総会までに飛行試験結果を提示し、ソニックブームの国際基準について技術的な議論を進めていくとしている。

試験の流れ
放球準備中の様子
放球の様子
(編集部:多和田新也)