旅レポ

全室スイートでバトラー付き、ジャパネットの最上級クルーズ体験記

シルバー・ムーン

 ジャパネットツーリズムは、シルバーシー・クルーズのラグジュアリー船「シルバー・ムーン」をフルチャーターしたクルーズツアーを3月30日~4月9日に実施した。1人あたりの料金が約100~350万円という高価格帯のラグジュアリーツアーとなるが、はたしてその内容はどんなものなのか。実際に乗船して体験してみた。

一段上のゆとりともてなし

 これまで同社では、MSCの「ベリッシマ」をチャーターし、日本一周や南国リゾートクルーズといったクルーズ旅行を約20万円台~という手頃な価格で提供してきたが、今回のシルバー・ムーンは全室スイートで、全室にバトラー(執事)がつき、船内でのあれこれをサポートしてくれるのが特徴だ。

客室(ベランダ・スイート)
ウェルカムドリンク
全室にベランダが用意されている
各種電源に対応
クローゼット
広々としたバスルーム

 ベリッシマの場合、全長315.83m、19階建、約17万トンという規模の船に2217室を備え、最大5655人の乗客が乗船できるが、シルバー・ムーンの場合、全長212.80m、11階建、約4万トンという一回り小さな規模の船にわずか298室があるのみで、乗客定員も596名となっており、一人ひとりの乗客に向けてゆったりとした空間が設けられている。そのぶん、船内のレストランやアクティビティ、乗下船時の混雑も少ない。

 今回のツアーは、東京国際クルーズターミナルを出発し、熊野・新宮(和歌山県)、徳島に寄港、瀬戸内海を通り釜山(韓国)、長崎、鹿児島、奄美大島、伊勢志摩(三重県)をめぐり、東京に戻るという行程だ。

クルーズツアーの行程

 出発の地となる東京国際クルーズターミナルの最寄り駅は、ゆりかもめの東京国際クルーズターミナル駅だが、歩くと10分弱はかかる。今回は、ジャパネット側で品川駅と東京テレポート駅から無料のシャトルバスを15~30分間隔で走らせており、乗船前の移動にも配慮されていることが分かる。

 クルーズターミナルでは、スーツケースを預け、乗下船や入室などで使用するカードキーの発行とあわせて、船内での支払いで使用するクレジットカードを登録するなどの乗船手続きを行なう。

 乗船すると、シアター(ベネチアンラウンジ)で船内設備の案内が行なわれており、参加できる人数は限られているが、レストランやスパなどを一通り見て回れる船内ツアーも実施されている。

充実した船内設備

乗ったら活用したいバトラーサービス

全室にバトラー(執事)がついてサポートしてくれる

 その後、客室に向かうと、室内にスーツケースが届けられていた。前述の通り、シルバー・ムーンの最大のウリはバトラーの存在。内線電話でバトラーを呼び、荷解きを頼んだり、ウェルカムドリンクとして用意されているシャンパンを開けてもらったり、さらには、自分に合う硬さの枕を選んだり、バスルームのアメニティ(デフォルトはブルガリ)を3種類の中から選んだりもできる。

荷解きや室内での食事のセッティングなど、頼めば何でもやってくれるバトラー

 バトラーとのコミュニケーションは、基本的に英語で行なう。本誌読者のようにインターネットやスマートフォンを活用されている方であれば、Google翻訳などの翻訳アプリを使えば大丈夫だ。

 言葉の壁もそうだが、バトラーサービス自体に馴染みがない日本人にとっては、何をどう頼んでいいものか戸惑ってしまいがち。バトラーマネージャーのIonut Munteanu氏によれば、バトラーの仕事に定義はなく、基本的にNoと言わず、何でも要望を実現できるようにサポートするという。

バトラーマネージャーのIonut Munteanu氏

 もちろん、例えばサプライズのプレゼントを用意してほしいなど、追加でお金がかかることについては別途その費用が請求されることになるが、例えば、船内のレストランの料理を部屋に持ってきてもらったり、何かのはずみで取れてしまった衣類のボタンをつけ直してもらったり、彼ら自身が体を動かすことで特別な費用がかかることはない。

 また、シルバー・ムーンではバトラーに対してのチップも不要。米国系の船ではチップをもらおうと過度に近寄ってくる人も多いという話もあるが、ヨーロッパ系の同船ではそれが無い。こちらから頼みたいことが無ければ放っておいてくれる絶妙な距離感は、旅行中の乗客がプライベートな時間を快適に過ごせるような配慮とのことで、そのぶん、何をしてほしいのか、乗客側がきちんと意向を伝える必要がある。

バスルームのアメニティは3種類から選べる
バスソルトも選べる
自分にあった枕も選べる

充実した食事、アルコールドリンクも無料

 船内には8つのレストランのほか、カフェやバー、ラウンジが用意されており、一部レストランは夜のみ予約制で、さらにその一部はテーブルチャージ代が1人40~60ドルかかるが、基本的には船内での食事には料金が発生しない仕組み。

 レストランの予約もバトラーに頼めばOKなのだが、客数に対して席数がかなり余裕をもって確保されているため、少なくとも今回のツアーでは予約なしでふらっと立ち寄っても、すぐに空いている席に案内された。

予約無しで利用できるレストラン「アトランティード」
シーフードやグリル料理が楽しめる
予約制のフレンチレストラン「ラ・ダム」
1人60ドルのチャージ料金がかかるが、本格的なフレンチが楽しめる
プールサイドでBBQが楽しめる「ザ・グリル」
夜のみ予約制だが、チャージ料金は不要
イタリアンレストラン「ラ・テラッツァ」(夜のみ予約制)での朝食
日本料理「カイセキ」(夜のみ予約制、チャージ料金1人40ドル)ではラーメンも食べられる
ピザ料理の「スパッカ・ナポリ」では注文を受けてから職人が生地を作って焼き上げる
生演奏を聴きながらカクテルや料理を楽しめる「シルバーノート」

 ちなみに、食事が無料のクルーズ船においてもアルコールは有料というケースが多いが、シルバーシーにおいては、特別高価なボトルを除き、全ドリンク無料となっているので、追加料金を気にせず安心して食事を楽しめる。

 今回のツアーにおいては、7年連続でミシュラン一つ星を獲得している日本料理店の「鈴なり」(東京・新宿区荒木町)がクルーズ船初出店。店主の村田明彦氏と数名のスタッフが乗り込み、船のコックたちと協力しながら、寄港地の食材を使った特別な料理を振る舞った。

7年連続でミシュラン一つ星を獲得している日本料理店の「鈴なり」が出店

 出港から数日後に村田氏に感想を求めたところ、「いつもは30人ぐらいの店でカウンターから料理を提供しているが、今回はお客さんの顔が見えない環境で、1日100~150人に料理を出す必要があり、スピード感とクオリティの両立が難しい」と語っていた。同店のシグニチャーメニューとも言える「玉地蒸し」についても、船内では炭火による炙りが行なえないため、レシピを変えるなど、日々試行錯誤を繰り返しているとのことだった。

「鈴なり」の村田明彦氏

ジャパネットならではの特別な企画も

 今回のツアーの行程では、終日クルーズの日が2日あったが、船内にはシアターやカジノ、スパ、サロン、ブティック、フィットネスセンター、プールなどの施設があるほか、航行中も寄港中もジャパネットやシルバーシーが企画したさまざまなイベントが船内各所で日々開催されており、他の乗客や船内のスタッフとの交流も楽しめる。

パノラマラウンジ
アートカフェ
プール
サウナ
フィットネスセンター
スパ
カジノ
後述のラジオ体操中に明石海峡大橋を通過
瀬戸大橋
来島海峡大橋(しまなみ海道)
シャッフルボードなど、さまざまな船内企画が用意されている

 シアターでは、シルバーシーが企画したさまざまなショーに加え、ジャパネットの企画によりジャズ・トランペッターの日野皓正氏のスペシャルコンサートやサプライズゲストによるショーなどが毎晩開催され、観客を魅了した。

 最上階のオブザベーションライブラリーには、本来は英語の洋書しか置かれていないが、今回のツアーのために青山ブックセンターに選書してもらった1000冊の日本語の本をジャパネットが用意。それらの本はライブラリー内での閲覧はもちろんのこと、自由に客室に持ち帰って読むこともできるようになっており、アクティブな人はとことんアクティブに、落ち着いた雰囲気が好きな人は静かに、と思い思いのスタイルで船内での時間を楽しめるような場が用意されている。

オブザベーションライブラリー
通常は洋書だけだが、1000冊の日本語の本も用意

 細かいところでは、歯ブラシやカミソリなどのアメニティは本来用意されていないが、ジャパネット側で用意し、必要な人に向けて配っていた。

 ジャパネットがベリッシマをチャーターする際にも人気になっている企画のラジオ体操はシルバー・ムーンでも健在。毎朝7時にプールサイド(雨天時はラウンジ)に集合し、参加するごとにカードにスタンプを押してもらえば、小学生だったあの頃の記憶が蘇る。

ジャパネットクルーズの人気企画のラジオ体操
毎朝参加してスタンプを集めると景品がもらえる

 このほか、寄港先でのオプショナルツアーにおいても、徳島では大塚国際美術館を完全貸切にするなど、船の外でも特別な企画が用意されており、何度参加しても飽きないように工夫しているとのことだ。

寄港地での過ごし方は気ままに

各寄港地では地元ならではの歓迎と見送りで楽しませてもらえる

 2日目以降は接岸する港ごとに地元の方々の歓迎のセレモニーがあり、ジャパネットが用意した有料のオプショナルツアーに参加してもよし、自分自身の足で好きなところに出かけてもよし、船内でゆっくりしてもよし、乗客は各寄港地で思い思いの時間を過ごすことになる。

 港によっては最寄りの駅やバス停まで距離がある場合もあり、例えば、熊野・新宮では港から新宮駅前まで送迎バスが用意されていた。また、各港にはタクシーも来ており、乗客が少なめということもあり、どの港でも待つことなく乗車できるようになっていた。

下船するとオプショナルツアーのバスが待機している
熊野・新宮では駅前までの送迎バスも用意されていた

 不慣れな旅先での移動もスマートフォンのGoogle マップアプリがあれば大丈夫。記者は釜山のみオプションのバスツアーに参加したが、それ以外の地域では電車やバス、レンタカー、レンタサイクルといった交通手段を組み合わせて旅を楽しんだ。

レンタサイクルで散策
新宮名物のさんま姿寿司(900円)と熊野牛巻寿司(1800円)
釜山・甘川(カムチョン)文化村
長崎・グラバー園からの眺め
鹿児島では親戚のカフェを訪問
奄美三味線 体験教室でお世話になった沖島基太さん

船内ライフの実際のところ

 夕方から朝まで1日の半分を過ごす船内だが、停泊中や陸地が見えているような場所では携帯電話の電波が届くが、分厚い鉄板で囲まれている船の構造もあってか、船の真ん中付近にいると圏外になってしまうこともしばしば。こうした状況もあり、船内では無料のWi-Fiサービスが提供されている。

 ただ、無料Wi-Fiの場合、SNSやLINEを使うぶんには支障は無いが、YouTubeのような動画サービスやZoomのようなオンラインミーティングはそもそもブロックされているようだ。どうしても船内で仕事をする必要があるという人に向けては、24時間29ドル~のプレミアムプランが提供されており、こちらを利用すれば制限が緩和される。

無料のWi-Fiサービスは下り1.8Mbps程度
24時間29ドル~のプレミアムプランも用意されている
プレミアムプランでは下り9Mbps程度となる

 実際に通信速度を計測してみると、無料プランの場合は下り1.8Mbps、上り0.8Mbps程度だったものが、プレミアムプランでは下り9Mbps、上り4.7Mbps程度になった。

 11日間という長旅となるため、衣類の洗濯をどうするかも現実的に直面する課題となる。もちろん、ホテルのように有料のクリーニングサービスも用意されているので、こちらを利用するのも一つの手だが、シルバー・ムーンには各フロアに1か所ずつドラム式の洗濯機と乾燥機を1台ずつ備えたランドリールームが用意されており、少し手間はかかるが、これを活用することで出費を抑えることも可能になる。

各フロアに1つずつランドリールームが用意されている
最初は気づかなかったが日本語表示にも対応していた

 また、日々利用するトイレについては海外仕様。当然のように、おしりの洗浄機能は付いていない。そこで記者は今回、ハンディタイプの洗浄機を持参して利用していた。備え付けのものに比べるとやや水圧が弱いものの、非常に快適に過ごせたのでオススメだ。

ハンディタイプの洗浄機があると快適に過ごせる

ツアー中にも進化するのがジャパネット流

 さて、実際にツアーに参加してみて、ここはもう少し何とかならないか、と感じたところもある。例えば、室内のテレビに日本語のチャンネルが1つも無いあたりは、テレビショッピングをよく利用するシニア世代がメインとなるジャパネットの客層を考えると、少々残念なところかもしれない。

 このあたりはジャパネット側でもニーズを把握しているようで、ジャパネットツーリズム 代表取締役社長の茨木智設氏は「BSを見られるようにしたかったが、初めてのシルバー・ムーンのチャーターで想定していたよりも時間を要することになり、準備が間に合わなかった。次回やるときには見られるようにしたい」としている。

ジャパネットツーリズム 代表取締役社長の茨木智設氏

 同社としてもシルバーシーの船をチャーターするのが初めてのことで、まだまだ手探りの部分が多いが、船内で毎日発行される「ジャパネットクルーズ通信」でバトラーサービスの使い方をアドバイスするなど、乗客が不安や不満に思っていることに耳を傾け、日々改善を図っていく姿勢は、顧客の声を反映したオリジナルスペックの家電製品をメーカーとともに作ってしまう、実にジャパネットらしいアプローチの仕方とも感じた。

 ちなみに、年配の参加者が多数を占める今回のツアーでは、「パンが硬い」との意見が相次いだことから、シルバーシー側と交渉し、3日目から船のレストラン全体で原料の配合を調整してパンを柔らかくするという改善が図られたのだとか。フルチャーターだからこそ実現できる変更とも言えるが、ツアー中ですら必要に応じてサービス内容を進化させてしまうジャパネットの柔軟性の高さに今後も期待したい。

毎日届けられる「ジャパネットクルーズ通信」でのアドバイス
各レストランのメニューは当初英語のみだったが、途中から日本語表記になった
編集部:湯野康隆