旅レポ

酒蔵巡りに瀬戸内海サイクリング、東広島の名所を巡るツアー(後編)

生口島で見つけた豪華すぎる寺、そしてしまなみ海道へ

瀬戸内、しまなみ海道のサイクリングへ

 前編のツアー1日目では東広島市西条の酒蔵を中心に紹介した。後編2日目の今回はそこから南側にぐっと下り、瀬戸内海の島々を縦断する“しまなみ海道サイクリング”の素晴らしさをお届けしたい……と思っていたのだが、その日の午前中に見学した寺があまりにもインパクト大だったため、今回はその絢爛豪華な「耕三寺」からレポートしたいと思う。

伝統建築とモダンが混在する衝撃の「耕三寺」

レモンのオブジェが置かれたベンチ

 広島県側から愛媛県の今治市方向へ、しまなみ海道を使って渡った3つ目の島が、ツアー2日目の主な舞台となる生口島(いくちじま)。ここは国産レモン発祥の地と言われ、レモンをかたどったオブジェをあちこちで見ることができ、レモンを使ったスイーツなどの土産物も豊富。海の特産物としてはタコも有名で、たこ刺し、タコの天ぷら料理が名物となっている。商店街では、たこの姿そのままを日干しした珍味も売られている。

 観光スポットとしては、平山郁夫美術館、柑橘類をテーマにした公園「シトラスパーク瀬戸田」などがあり、白い砂浜とエメラルドグリーンの海が美しい「せとだサンセットビーチ」も遊びに最適なスポットだ。そのスポットの1つに、今回よい意味で衝撃を受けた「耕三寺」もある。

 耕三寺は、寺ではあるが、単なる寺ではない。耕三寺博物館という呼び名でも知られ、入場するには一般1200円、高校生以上700円(中学生以下無料)の、わりとちゃんとした入場料金が必要となる。一般的な寺とは違って自由に入って参拝はできないものの、浄土真宗本願寺派のれっきとした寺だ。

耕三寺の入り口

 入り口からして、極彩色が施された巨大な門構えとなっており、ただの寺ではない雰囲気を醸し出している。門をくぐり抜け、中に足を一歩踏み入れると、そこはもう別世界だ。なんだか異国の秘境にひっそりと、長い年月をかけ、贅の限りを尽くして建立されたかのような建物や塔の数々が、幾重ものレイヤーとなって眼前に広がる。日本の一般的な「寺」の感覚からすれば、一言でいうと「派手」。しかし案内してくれたガイドの方は、すかさず「雅やか」と訂正してくれた。

足を踏み入れると、そこは別世界のよう

 この耕三寺は、そもそも実業家だった金本福松(後に耕三寺耕三に改名)という人物が、母への感謝の思いを込めて昭和10年からおよそ35年もの年月を費やして建立されたもの。製鋼事業が大成功を収め、その莫大な資産を元手に次々と新しい建造物を作り上げていったとされている。

地下にはトンネルも掘られている
職人の手により、修復も随時行なっている
親鸞の像がひっそりとたたずむ
金箔で彩られた風神・雷神
巨大な像も

 境内には本堂、門、塔、蔵、住居などの堂塔が少なくとも20以上あり、そのどれもが見事な造形で作り込まれた歴史と伝統を感じさせる建築物で、うち15の堂塔は国登録有形文化財にも指定されている。

 内部の見学も可能な、住居として使われていた「潮聾閣」は、特に耕三寺耕三のこだわりが感じられる建物の1つ。欄間には木彫りの装飾、天井には精緻に描かれた絵を見つけることができ、重厚さを感じさせるステンドグラス、こだわり抜かれた調度品の数々も目を引く。

潮聾閣
庭の様子
絢爛豪華な部屋の数々

 おそらく現代では入手がほとんど不可能な節のない柾目の柱や梁、廊下の床に敷き詰められた一辺1mの一枚板、屋久杉をふんだんに使った天井板など、一見して「ありえないほど大金持ちの家」ではあるが、それでいて、なかにいると気持ちが落ち着く。ただ豪華にしているのではなく、筋の通ったこだわりや、「母への感謝」という情念がそこかしこから伝わってくるからかもしれない。

見事な欄間の木彫り装飾
天井の凝った造作や絵
ステンドグラスの窓
大木から切り出されたと思われる一辺1mの床板
屋久杉が一面に使われた天井
金屏風
こだわり抜かれた調度品
一見すると普通の鶴の絵だが……
よく見ると木の節の部分に鶴の目を合わせて描いている

 ところで、耕三寺の敷地内にあるのはこうした伝統建築だけではない。耕三寺自体は丘の中腹の斜面に沿って建てられており、その丘の頂上には、2000年にオープンした「未来心の丘」という一面大理石の真っ白な庭園がある。

 広さ約5000m2の、視界に入るすべてが本物の大理石で、モニュメントでしか見たことのないような分厚く、巨大な一枚岩として敷き詰められている。イタリアからコンテナ船で何回にも分けて運搬し、詳細な設計図を用意することもなく、彫刻家が頭の中に描いたイメージをもとに作り上げていったのだとか。

丘の頂上に見える白いオブジェが「未来心の丘」
未来心の丘の頂上へと至る道
未来心の丘の頂上付近
頂上から見た景色

 その場にいるだけで、境内の時とはまた違った静謐な空気を感じられ、それと同時に現実離れした景色になんとなく高揚感みたいなものも芽生える。頂上から見える瀬戸内の景色も素晴らしい。時にはこの大理石の舞台でイベントも開かれるそうだ。脇にある大理石造りのカフェでは、軽食やドリンクをとりながら瀬戸内の景色を眺めつつ一休みできるので、耕三寺を訪れた際にはぜひとも足を運びたい場所だ。もはや「派手なテーマパーク」だが、ガイド曰くこれは禁句らしいので、あくまでも「雅やかな博物館」と表現したい。

頂上にはカフェが併設されている
店内の様子
おいしいドリンクを飲みながら一息つける

500円で1日乗り放題。レンタサイクルでしまなみ海道を快走

 耕三寺のすぐ近くにある「蛸処 憩」で生口島名物のたこ刺し、たこ天ぷらの昼食をいただいた後、いよいよ2日目最後のイベント、しまなみ海道サイクリングをスタートする。生口島のせとだサンセットビーチを出発点に、隣の愛媛県今治市大三島とを繋ぐ多々羅大橋を渡り、多々羅夢岬へと至るルートだ。時間の関係で、寄り道しなければ30分程度でゴールできる短い距離となってしまったが、このわずかな間でも十分にしまなみ海道の美しさ、サイクリングで風を切る気持ちよさを実感できる。

2日目の昼食は、耕三寺近くの「蛸処 憩」
たこめし定食(雪)1910円
たこめし定食(華)1910円
たこめし
たこの酢の物
たこの天ぷら
たこの刺身。細かい切れ込みを入れた店の主人独自の調理法で、しょう油がよく染み、かみ切りやすい
サイクリングのスタート地点、せとだサンセットビーチ

 しまなみ海道はサイクリストの聖地とも言われ、平日にもかかわらず多くの“本気”サイクリストたちが行き交う。自分の自転車で走るのが一番気持ちいいであろうことは間違いないが、今回筆者らはレンタサイクルターミナルで自転車をレンタルさせていただいた。せとだサンセットビーチ以外にも、こうしたレンタサイクルターミナルはしまなみ海道沿いにいくつも設置されており、小径車のミニサイクル、街乗り軽快車、クロスバイクの3種類から選んで乗ることができる。

ミニサイクル、軽快車、クロスバイクから選べる
レンタルしたのはこちらの小径車

 通常の大人料金は、1日レンタルでわずか500円(子供300円)。電動アシスト自転車を借りることもでき、その場合は4時間800円となる。目的地を往復して同じ場所に返却すると最初に支払う1000円の保証料が返却されるが、保証料を気にしないのであれば、各所にあるレンタサイクルターミナルに乗り捨てることも可能だ。

 なお、しまなみ海道を自転車で通行する場合、平常時は有料となる。ただし、2016年3月末までは期間限定で「しまなみサイクリングフリー」というキャンペーンを実施しており、通行が無料。何度往復しても料金がかからないので、しまなみ海道を満喫するなら今が絶好の機会と言える。

 というわけで、せとだサンセットビーチから多々羅夢岬まで、ゆったりとした時間が流れる海岸線、ちょっとばかりきつい上り坂、圧倒される巨大な多々羅大橋をのんびり1時間ほどかけて走り切り、帰りの飛行機の時間にギリギリ間に合うタイミングでサイクリング体験は終了した。

サイクリング途中の景色
全長1480mの多々羅大橋。完成当時は世界最大の斜張橋とされ、土木工学部出身の筆者は微妙に興奮する
専用サイクリングロードで快適に走ることができる
眺めは最高
拍子木を打ち鳴らすと反響音が繰り返される「多々良 鳴き龍」
大三島から見た多々羅大橋
今回のサイクリングの終点、多々羅夢岬

サイクリストならぜひ寄りたい「ONOMICHI U2」

 最後に紹介しておきたいのが、しまなみ海道サイクリングでほどよく疲れた体を癒やすのに最適な、JR尾道駅から徒歩数分のところにある「ONOMICHI U2」。ONOMICHI U2は、元は倉庫だったところを全面改装し、レストランやホテル、ショップなどを集めた複合施設として2013年にオープンしたものだ。

サイクリスト向けの設備も多い複合施設「ONOMICHI U2」
ONOMICHI U2の内部
目の前は港

 実は1日目の夜に、この中にある「HOTEL CYCLE」に宿泊させてもらったのだが、その名のとおりサイクリスト向けの設備が満載。部屋の中や出入り口付近に設置された専用ハンガーでマイ自転車を保管しておけるという、サイクリストにはうれしい心遣いがあり、本格的なロードバイクのレンタサイクルも用意している。

「HOTEL CYCLE」

 ONOMICHI U2内には自転車メーカーGIANTの取扱店「ジャイアントストア尾道」も入っており、その気になればその場でロードバイクを購入して、しまなみ海道を走れたりする、かもしれない。当然客室内の設備も抜群で、ここに宿泊して疲れが取れないわけがない。

ロードバイクを借りられる
「ジャイアントストア尾道」
部屋の中に自転車用ハンガー
もちろんその他の設備もクオリティが高い

 うまい日本酒も、見どころの多い寺も、美しいしまなみ海道も満喫でき、夜はぐっすり休める東広島。神社仏閣や坂道などが見どころの尾道もあり、味覚と視覚、触覚をフルに働かせ、全身で楽しめるスポットがこうまで近隣にぎゅっと詰まった場所は、なかなか珍しいのではないだろうか。

 10月10日と11日に開催される「酒まつり」に参加がてら、ぜひ、付近をぶらぶらと散策して東広島の魅力を堪能してみてほしい。

日沼諭史