ニュース
JAL、安全、丁寧、正確な作業を競う「第3回 JALグランドハンドリングコンテスト」を開催
実例に基づいた数々の“トラップ”を見抜いて荷物を積み込む
(2015/11/4 11:00)
- 2015年10月30日 開催
JAL(日本航空)は10月30日、全国の空港からスタッフが集結し、貨物、手荷物の搬送やコンテナへの積み込みなどで安全性や業務の的確さを競う「第3回 JALグランドハンドリングコンテスト」を、羽田空港にある同社メンテナンスセンターで開催した。
第3回となる今年のコンテストには、全国30空港から57名のスタッフが参加。審査のポイントは、規定に基づいた確実な作業ができているかという「業務の忠実性」のほか、便ごとに異なる状況や段取り、危険予知、人はエラーを起こす(失敗する)ものであることを想定した作業など「有意注意で仕事にあたる」点、当たり前のことをちゃんとやれているか、挨拶、“頭に看板、背中に看板”、“お客様の想いを預かれ”といった「グラハン魂」を体現した業務を行なえているかを見る。
開会にあたって挨拶したJAL 執行役員 貨物郵便本部長の山村毅氏は、「日頃から貨物を取り扱うときも、その後ろにお客様がいるということをイメージしていただいて、ハンドリングしていただいているだろうと確信している。これからも品質と安全の維持向上に努めていただきたい」と呼びかけたうえで、コンテストについては2つの要望を出した。
1つ目は「コンテストなので優勝を目指して精一杯頑張っていただきたい。先ほど競技の内容を聞いたが、いろいろなトラップが仕掛けられている。おそらく、この競技を考えた人は、相当性格がわるい人だと思うので、そういう性格がわるい人が作ったものだということを念頭に置いて、競技に臨んでいただきたいと思う」と冗談を交えて激励。
もう1つは、「自分の技術だけではなく、それぞれ空港で違いがあり、工夫がある。違う空港のハンドリングを見て、何か得るところ、盗めるところがないかを見つけて、それを空港へ持ち帰って、自分の空港のレベルを上げてほしい」と要望した。
その後、第2回グランドハンドリングコンテスト優勝空港である羽田空港のスタッフからの優勝盾の返還、羽田空港のJALグランドサービス東京の佐藤氏による選手宣誓が行なわれ、競技開始の準備が行なわれた。
今回の取材時に行なわれたのは2種類の競技で、1つはカートを連結したトーイングトラクターによる「カートハンドリング部門」、もう1つはパレットドーリーを連結したトーイングトラクターによる「パレットドーリーハンドリング部門」である。
いずれも飛行機への貨物積載を想定したもので、福岡空港勤務のグランドハンドリング担当者が、出発便の貨物の搬送から搭載までを行なうというもの。便名や飛行機の登録記号なども細かく設定されるほか、搭載作業においては新入社員のOJTスタッフをサポートしながらのものとなる。
会場には、スラロームコース、積みつけエリアを想定した大型コンテナ、ボーイング 737-800型機の前方貨物室、後方貨物室を想定した2個のコンテナを設置。
カートハンドリング部門では、カートを連結したトーイングトラクターでスラロームコースを走行し、積みつけエリアで荷物を搭載。ここで搭載指示書を受け取って、ボーイング 737-800型機を想定したコンテナの前へ移動し、OJT中の新入社員とともに荷物を積み込む。
パレットドーリーハンドリング部門は、パレットドーリーを連結したトーイングトラクターをバックで操作し、スラロームコースを走行。その後、パレットドーリーを所定の位置で切り離し、トーイングトラクターとカートとを連結。搭載指示書を受け取って、ボーイング 737-800型機を想定したコンテナの前へ移動し、OJT中の新入社員とともに荷物を積み込む。
基本は2名が同時に競技を行なうが、競争ではない。また、定時運航を想定して8分間という制限時間も設けられているが、時間内に完了すること以上に、正確さや安全性への配慮などの審査ポイントを重視している。
参加者は両競技を行なうわけではなく、どちらの競技に参加する選択制となっている。これは空港規模によってコンテナを積み込めない小型機中心の空港ではカートの使用が中心で、大型空港ではコンテナを運搬するパレットドーリーを普段から扱うことが多いなど、各空港の事情に合った技術を発揮してもらうためだという。ただし、トーイングトラクターやトランシーバなど、実際に使用する機器の違いはあり、競技前に説明が行なわれた。
山村氏の挨拶にもあったとおり、各競技者の指示書や荷物にはさまざまなトラップが仕掛けられている。以下に、いくつか例を挙げる。
- 搭載指示書の日付が間違っている
- 対象航空機の登録記号(シップナンバー)が間違っている
- 便名が違う
- 羽田空港行き荷物なので空港コードである「HND」であるべきところ「HNA」(花巻空港)のシールが貼られている
- 指示書には危険物として「RFL」(引火性液体)とあるが、荷物には「RFS」(可燃性固体)のシールが貼られている
- 危険物の指示がないが宅配便の送り状にストーブと書かれた荷物がある
山村氏はこれを考えた人を「性格がわるい」と表現していたが、すべて過去の事例を参考にしたもののほか、2014年に変更された危険物の規定の変更部分に相当すう危険物などを貨物に仕込むなどしているという。競技としてはトラップを見つける、見つけないが結果に影響するが、競技終了後にすべてのトラップを競技者に明らかにすることで、過去の事例や危険物規定変更内容を周知する意味も持たせている。
旅客とバゲッジは「キングとクィーン」
全競技終了後、審査員による評価が集計され、結果発表が行なわれた。
カートハンドリング部門は、1位が中部国際空港・小菅氏、2位が羽田空港・権守氏、3位が女満別空港・守山氏の順位となり、空港別でも中部国際空港が1位となった。
パレットドーリーハンドリング部門は、1位が成田空港・野末氏、2位が熊本空港・西川氏、3位が中部国際空港・谷本氏。空港別順位では1位が熊本空港、2位が成田空港、3位が中部国際空港となった。
このほか、鹿児島空港・西氏、松山空港・廣澤氏、大分空港・藤元氏の3名に、審査員特別賞が贈られた。ただし、大分空港・藤元氏は地元へ戻る時間の都合で表彰式には参加できなかった。
鹿児島空港・西氏は「適切なコミュニケーションを搭載直前にしっかりとられて、安全に確実に業務を遂行するという(審査員からの)よいコメントがあった」のが理由。
松山空港・廣澤氏は、「昨年も参加し、今回もパレットドーリー部門で最後まで絶対に諦めないというJALグループのフィロソフィーの体現、グラハン魂そのものを見せて頑張って最後まで遂行することに感動させられた」ことが理由に挙げられた。
最後にJAL空港本部長の阿部孝博氏より、閉会の挨拶があった。同氏は「JALグループのグランドハンドリングの皆さんは約6000名が世界中にいる。その代表に、グランドハンドリングのプロの技術、魂を見せていただくことができて本当にうれしく思っているし、頼もしく思っている。緊張もあったり、思いどおりにいかなかったりすることもあると思うが、一方で、応援団も含めて、改めて学んだことは数知れず、たくさんあると思う。日本航空グループのグランドハンドリングがいかに大切かは、経営者も含めて注目している。今回、第3回目を実施できたのも、5年前の破綻から、現場で一歩一歩を大切にし、1便1便の品質を確実に守っていただいた、ここにいるすべての皆さんのおかげだと思っている。ありがとうございます」と、まずは、コンテストに参加したグランドハンドリングスタッフに感謝の言葉を述べた。
そのうえで、預け入れ荷物の紛失や破損に対応する部署を社長の植木氏や副社長の佐藤氏らが注目していることに触れ、「お客様とバゲッジはキングとクィーンの関係だと聞いて、なるほどと思った。(旅客と)バゲッジは乗るところは違うが、バゲッジを本当に丁寧に扱ってお返しする。その部署はそういう意気込みで仕事をしている。決して旅客部門がキングというわけではないが、キングとクィーンの2つがあってこそ素晴らしいサービスがあると思うので、何かの時に思い出していただければと思う」と、そのような例えで品質向上への期待を込め、コンテストの幕を閉じた。