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JAL、安全、丁寧、正確な作業を競う「第3回 JALグランドハンドリングコンテスト」を開催

実例に基づいた数々の“トラップ”を見抜いて荷物を積み込む

2015年10月30日 開催

 JAL(日本航空)は10月30日、全国の空港からスタッフが集結し、貨物、手荷物の搬送やコンテナへの積み込みなどで安全性や業務の的確さを競う「第3回 JALグランドハンドリングコンテスト」を、羽田空港にある同社メンテナンスセンターで開催した。

 第3回となる今年のコンテストには、全国30空港から57名のスタッフが参加。審査のポイントは、規定に基づいた確実な作業ができているかという「業務の忠実性」のほか、便ごとに異なる状況や段取り、危険予知、人はエラーを起こす(失敗する)ものであることを想定した作業など「有意注意で仕事にあたる」点、当たり前のことをちゃんとやれているか、挨拶、“頭に看板、背中に看板”、“お客様の想いを預かれ”といった「グラハン魂」を体現した業務を行なえているかを見る。

 開会にあたって挨拶したJAL 執行役員 貨物郵便本部長の山村毅氏は、「日頃から貨物を取り扱うときも、その後ろにお客様がいるということをイメージしていただいて、ハンドリングしていただいているだろうと確信している。これからも品質と安全の維持向上に努めていただきたい」と呼びかけたうえで、コンテストについては2つの要望を出した。

 1つ目は「コンテストなので優勝を目指して精一杯頑張っていただきたい。先ほど競技の内容を聞いたが、いろいろなトラップが仕掛けられている。おそらく、この競技を考えた人は、相当性格がわるい人だと思うので、そういう性格がわるい人が作ったものだということを念頭に置いて、競技に臨んでいただきたいと思う」と冗談を交えて激励。

 もう1つは、「自分の技術だけではなく、それぞれ空港で違いがあり、工夫がある。違う空港のハンドリングを見て、何か得るところ、盗めるところがないかを見つけて、それを空港へ持ち帰って、自分の空港のレベルを上げてほしい」と要望した。

 その後、第2回グランドハンドリングコンテスト優勝空港である羽田空港のスタッフからの優勝盾の返還、羽田空港のJALグランドサービス東京の佐藤氏による選手宣誓が行なわれ、競技開始の準備が行なわれた。

30空港から57名が集まってグランドハンドリングの腕を競う
日本航空株式会社 執行役員 貨物郵便本部長 山村毅氏
羽田空港の佐藤氏による選手宣誓

 今回の取材時に行なわれたのは2種類の競技で、1つはカートを連結したトーイングトラクターによる「カートハンドリング部門」、もう1つはパレットドーリーを連結したトーイングトラクターによる「パレットドーリーハンドリング部門」である。

 いずれも飛行機への貨物積載を想定したもので、福岡空港勤務のグランドハンドリング担当者が、出発便の貨物の搬送から搭載までを行なうというもの。便名や飛行機の登録記号なども細かく設定されるほか、搭載作業においては新入社員のOJTスタッフをサポートしながらのものとなる。

 会場には、スラロームコース、積みつけエリアを想定した大型コンテナ、ボーイング 737-800型機の前方貨物室、後方貨物室を想定した2個のコンテナを設置。

 カートハンドリング部門では、カートを連結したトーイングトラクターでスラロームコースを走行し、積みつけエリアで荷物を搭載。ここで搭載指示書を受け取って、ボーイング 737-800型機を想定したコンテナの前へ移動し、OJT中の新入社員とともに荷物を積み込む。

 パレットドーリーハンドリング部門は、パレットドーリーを連結したトーイングトラクターをバックで操作し、スラロームコースを走行。その後、パレットドーリーを所定の位置で切り離し、トーイングトラクターとカートとを連結。搭載指示書を受け取って、ボーイング 737-800型機を想定したコンテナの前へ移動し、OJT中の新入社員とともに荷物を積み込む。

 基本は2名が同時に競技を行なうが、競争ではない。また、定時運航を想定して8分間という制限時間も設けられているが、時間内に完了すること以上に、正確さや安全性への配慮などの審査ポイントを重視している。

 参加者は両競技を行なうわけではなく、どちらの競技に参加する選択制となっている。これは空港規模によってコンテナを積み込めない小型機中心の空港ではカートの使用が中心で、大型空港ではコンテナを運搬するパレットドーリーを普段から扱うことが多いなど、各空港の事情に合った技術を発揮してもらうためだという。ただし、トーイングトラクターやトランシーバなど、実際に使用する機器の違いはあり、競技前に説明が行なわれた。

競技開始前に競技で使用する機器の説明が行なわれた
スラロームコース
ボーイング 737-800型機の前方貨物室(F2)、後方貨物室(R3)を想定したコンテナ。想定機体は登録記号「JA301J」
競技に用いられたトーイングトラクター

 山村氏の挨拶にもあったとおり、各競技者の指示書や荷物にはさまざまなトラップが仕掛けられている。以下に、いくつか例を挙げる。

  • 搭載指示書の日付が間違っている
  • 対象航空機の登録記号(シップナンバー)が間違っている
  • 便名が違う
  • 羽田空港行き荷物なので空港コードである「HND」であるべきところ「HNA」(花巻空港)のシールが貼られている
  • 指示書には危険物として「RFL」(引火性液体)とあるが、荷物には「RFS」(可燃性固体)のシールが貼られている
  • 危険物の指示がないが宅配便の送り状にストーブと書かれた荷物がある

 山村氏はこれを考えた人を「性格がわるい」と表現していたが、すべて過去の事例を参考にしたもののほか、2014年に変更された危険物の規定の変更部分に相当すう危険物などを貨物に仕込むなどしているという。競技としてはトラップを見つける、見つけないが結果に影響するが、競技終了後にすべてのトラップを競技者に明らかにすることで、過去の事例や危険物規定変更内容を周知する意味も持たせている。

航空機への貨物積み込みはOJT中の新入社員をサポートしながらの作業。靴の紐やヘルメットのあご紐が外れているなど、OJT社員がトラップになっていることも
貨物や搭載指示書で気になった部分があったらトランシーバで連絡。そのまま積み込むか、オフロード(積まない)かの指示を仰ぐ
カートハンドリング部門
新潟空港・本間氏
旭川空港・佐藤氏
熊本空港・吉本氏
小松空港・毛利氏
釧路空港・中原氏
旭川空港・秋元氏
帯広空港・杉原氏
徳島空港・枝澤氏
高松空港・大塚氏
宮古空港・田村氏
高知空港・池田氏
石垣空港・黒島氏
帯広空港・関口氏
女満別空港・守山氏
北九州空港・橋本氏
宮崎空港・貞松氏
長崎空港・井川氏
出雲空港・藤井氏
中部国際空港・小菅氏
岡山空港・直原氏
岡山空港・太田氏
山口宇部空港・御手洗氏
福岡空港・西尾氏
札幌・古市氏
羽田空港・権守氏
奄美空港・里氏
パレットドーリーハンドリング部門
大分空港・藤元氏
北九州空港・中原氏
大分空港・井口氏
高松空港・小野氏
関西空港・多田氏
女満別空港・山口氏
徳島空港・井上氏
那覇空港・崎原氏
那覇空港・宮良氏
那覇空港・吉川氏
成田空港・野末氏
羽田空港・佐藤(剛)氏
伊丹空港・藤本氏
小松空港・宮浦氏
出雲空港・泉氏
鹿児島空港・西氏
熊本空港・西川氏
札幌・高橋氏
成田空港・相良氏
関西空港・田中氏
成田空港・小山氏
伊丹空港・山下氏
関西空港・清水氏
松山空港・廣澤氏
松山空港・越智氏
福岡空港・森田氏
中部国際空港・山本氏
羽田空港・佐藤(雄)氏
鹿児島空港・柳野氏
伊丹空港・大西氏
中部国際空港・谷本氏

旅客とバゲッジは「キングとクィーン」

 全競技終了後、審査員による評価が集計され、結果発表が行なわれた。

 カートハンドリング部門は、1位が中部国際空港・小菅氏、2位が羽田空港・権守氏、3位が女満別空港・守山氏の順位となり、空港別でも中部国際空港が1位となった。

1位の中部国際空港・小菅氏「グラハンコンテストに向けて2週間前から一緒に出場した仲間達とたくさん練習してきて、優勝してこいと言われてきたので実現できて最高の思い出ができたと思っています。悔いが残ることがなく存分に最後までできてよかったと思っています」
2位の羽田空港・権守氏「2位という結果で、昨年は優勝したんですが、よい経験ができました。現場に戻って後輩や部下に伝えて、来年はまた優勝できるように頑張ってきます」
3位の女満別空港・守山氏「これから北海道は厳しい冬の季節になりますが、確実に確認し、安全に飛行機を出したいと思っています。日々の成果が現われたのではないかと思っています」
カートハンドリング部門の個人1~3位
空港別でも中部国際空港が1位となり小菅氏がトロフィーを受け取った

 パレットドーリーハンドリング部門は、1位が成田空港・野末氏、2位が熊本空港・西川氏、3位が中部国際空港・谷本氏。空港別順位では1位が熊本空港、2位が成田空港、3位が中部国際空港となった。

1位の成田空港・野末氏「成田の実力をこの場で証明できたので、とてもうれしいです」
2位の熊本空港・西川氏「ローカルとして2位に食い込めたことはうれしく思っています。また来年、1位を狙って挑戦したいと思います」
3位の中部国際空港・谷本氏「正直、優勝したかったという、その一言です。カート部門で小菅が優勝してくれたので、自信を持って名古屋に帰りたいと思います」
パレットドーリーハンドリング部門の個人1~3位
空港別では熊本空港が1位。西川氏が優勝盾を受け取った

 このほか、鹿児島空港・西氏、松山空港・廣澤氏、大分空港・藤元氏の3名に、審査員特別賞が贈られた。ただし、大分空港・藤元氏は地元へ戻る時間の都合で表彰式には参加できなかった。

 鹿児島空港・西氏は「適切なコミュニケーションを搭載直前にしっかりとられて、安全に確実に業務を遂行するという(審査員からの)よいコメントがあった」のが理由。

 松山空港・廣澤氏は、「昨年も参加し、今回もパレットドーリー部門で最後まで絶対に諦めないというJALグループのフィロソフィーの体現、グラハン魂そのものを見せて頑張って最後まで遂行することに感動させられた」ことが理由に挙げられた。

審査員特別賞を受賞した鹿児島空港・西氏「緊張したなかでの競技だったので、事故のないようにコミュニケーションを大事にするように心がけて、この特別な賞をいただけました」
審査員特別賞を受賞した松山空港・廣澤氏「特別賞をいただけるとは思わなかったので、うれしい気持ちでいっぱいです。これで松山に胸を張って帰ることができます。2年目、リベンジできてよかったと思います」
日本航空株式会社 執行役員 空港本部長 阿部孝博氏

 最後にJAL空港本部長の阿部孝博氏より、閉会の挨拶があった。同氏は「JALグループのグランドハンドリングの皆さんは約6000名が世界中にいる。その代表に、グランドハンドリングのプロの技術、魂を見せていただくことができて本当にうれしく思っているし、頼もしく思っている。緊張もあったり、思いどおりにいかなかったりすることもあると思うが、一方で、応援団も含めて、改めて学んだことは数知れず、たくさんあると思う。日本航空グループのグランドハンドリングがいかに大切かは、経営者も含めて注目している。今回、第3回目を実施できたのも、5年前の破綻から、現場で一歩一歩を大切にし、1便1便の品質を確実に守っていただいた、ここにいるすべての皆さんのおかげだと思っている。ありがとうございます」と、まずは、コンテストに参加したグランドハンドリングスタッフに感謝の言葉を述べた。

 そのうえで、預け入れ荷物の紛失や破損に対応する部署を社長の植木氏や副社長の佐藤氏らが注目していることに触れ、「お客様とバゲッジはキングとクィーンの関係だと聞いて、なるほどと思った。(旅客と)バゲッジは乗るところは違うが、バゲッジを本当に丁寧に扱ってお返しする。その部署はそういう意気込みで仕事をしている。決して旅客部門がキングというわけではないが、キングとクィーンの2つがあってこそ素晴らしいサービスがあると思うので、何かの時に思い出していただければと思う」と、そのような例えで品質向上への期待を込め、コンテストの幕を閉じた。

(編集部:多和田新也)