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NEXCO中日本、ドローンを活用した構造物点検の実証実験を公開
すべて有線接続にした安定動作。2017年からの試行運用を目指す
2016年10月21日 17:50
- 2016年10月19日 実施
NEXCO中日本(中日本高速道路)は、ドローン(マルチコプター)を活用した構造物点検の実証実験の様子を報道陣向けに公開した。「SCIMUS(Structure Check & Investigation Multi Copter System/スキームス)」とネーミングされたシステムで、有線接続されたドローンに搭載されたデジタルカメラを使い高速道路の構造物を高解像度で連続撮影し、コンクリートのひび割れなどの異常を効率的に発見する。
一般的なドローンのコントロールには、主にWi-Fiなども使う2.4GHz帯(ISMバンド)の無線とGPSを利用するが、今回のシステムではどちらも不要で有線接続されているのが特徴。橋梁の下などGPS電波が届かない場所で動作するほか、無線電波を使うために起きやすいパケット遅延やバッテリ容量の低下による落下といったリスクを完全になくすことができる。
今回は、橋梁上から遮音壁を越えてケーブルを垂らし、橋梁下で床板下面を点検するという想定での実験が公開された。場所は新東名高速道路宮ヶ島(みやがしま)高架橋(下り)。ここは、将来の車線増を想定し路側帯側が1車線分広くなっていて、その部分を活用して実験をしているため、車線規制はしていない。また、あくまでも実証実験であり、この橋梁の検査を行なっているわけではない。
2400万画素の高解像度カメラで分割撮影された映像は、ソフトウェア処理でオルソ(正射投影)化して床板単位などで結合管理し、0.2mmまでの損傷確認や、橋スパン全体を3D化するといった利用が考えられている。オルソ化は航空写真でよく使われる手法で、通常カメラで撮影すると中心投影で中心以外の周辺画像が歪む。これをすべて正射投影に変換する技法。
ドローンを使っての構造物点検の開発を始めたのは2年前の2014年度からで、ドローンは国産のエンルート(enRoute)製の4プロペラ機「Zion PG Quad Copter」をベースに改造したもの。機体重量は5kg。約6kgを積載可能。補修の観点から、国産メーカーを選択しているとのこと。
見学時に搭載されていたカメラは、ソニー「α6000」。同社製の16mm(35mm判換算24mm)/F2.8の単焦点レンズ「SEL16F28」を取り付け、カメラを水平制御するジンバルを介して搭載されていた。撮影対象に対しては3~6mまで近づいて撮影。測距レーザーを搭載していて、近付き過ぎを防止する。現時点で測距レーザーは上方向のみだが、横方向にも搭載する予定とのことだった。
ドローンのコントロールと撮影の作業は、すべて橋梁上から行なわれる。つまりドローンは目視せずに遠隔操作されることとなる。
ドローンと俯瞰カメラの2カ所で防音壁を超えており、橋梁上の機材は1カ所にまとめられている。俯瞰カメラがつながっている側には、コントロール卓が集中している。俯瞰カメラ映像とドローンのカメラ映像が並んでいて、これらを見ながらプロポで操作する。
撮影開始点で撮影を始めると、あとは自動的に撮影されていた。操作はドローン提供メーカーのエンルートのスタッフが行なっていたが、実際の運用時にはNEXCO中日本側の訓練したスタッフで操作ができるようにしていくとのこと。
もう一方の箇所には、発電機などの電源装置が置かれていた。電源を確保することにより、システム全体で安定した動作が保たれる。
高速道路のトンネルや橋は、省令に基づいて5年に1度の近接目視点検を行なうことが義務付けられるようになっている。この省令とは、道路法施行規則の一部を改正する省令(平成26年国土交通省令第39号)およびトンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示(平成26年国土交通省令告示第426号)が2014年3月31日に公布され、同年7月1日より施行された。これにより、トンネル、橋等の点検は近接目視による5年に1回の頻度を基本とし、その健全性については4段階に区分することになっている。
ドローンが近接目視点検に代わるかどうかは、今後の法整備などに関わってくるが、いずれにしても定期的かつ網羅的に高精細な画像として記録しておくことは、現場の状況把握としてとても意義がある。今後の予定としては、2017年からの試行運用を目指したいとしていた。また、打音点検用のドローンも開発中で、将来的にはこれと併せより精度の高い問題箇所の抽出を行なっていきたいとしていた。