旅レポ

食は台南にあり! 美食最強レストラン(後編)

牡蠣好きの聖地、東石で過ごす夢の一日

 台北から3時間かけて高速鉄道に乗ってでも行く価値のあるグルメ都市、台南。GOURMET TAIWAN台湾美食、経済部商業司、財団法人中衛発展中心の協力によって実施された台南グルメツアー参加レポートの前編では市内のお勧めレストランを紹介しました。

 そして、後編では台湾グルメを語る上ではずせない牡蠣をご紹介。牡蠣好きなら一生に一度は行かねばならぬ台南のお隣、嘉義県の東石村で、牡蠣漁観光船に乗ったり、牡蠣小屋を訪れたりと牡蠣三昧の一日を過ごしました。

牡蠣尽くしの東石村へ

 冬になると牡蠣が恋しい。あと日本酒。

 あのゴツゴツした殻のなかに浮かぶ大ぶりの牡蠣を汁ごといただく。口のなかに豊かな海がジュワーッと広がり、ここで常温の日本酒をグイッ。「あ、これだけで、今日一日が幸せ」と思わせてしまう食べ物は地球上で牡蠣だけかもしれません。生魚を食べる習慣のない欧米でさえ、生牡蠣だけは特別扱いでもりもり食べています。

 生はもちろん、煮ても焼いてもおいしい食品の優等生、牡蠣。それがこの台南からちょっと北にある嘉義県の東石港でわんさか獲れるらしいのです。何しろ、オムレツに牡蠣を入れてしまうくらい、台湾人は牡蠣が大好き。オムレツ以外にも日本にはない驚きの牡蠣料理を食べられるかもしれません。

まさか船とは思わなかった

 東石港に到着すると、なにやら港にプレハブがプカプカと浮いています。海上レストランかと思ったら、これが牡蠣漁観光船! 言われてみれば日本の納涼船に似てなくもありません。

 中に入ってみましょう。お座敷はありませんが、カラオケは付いているようです。向かい合わせの席はないので、1人ずつ前に出てきて歌うのでしょうか?

牡蠣漁観光船。救命胴衣がちら見えしてます
天井にたくさんの扇風機。海風が気持ちいいから、いらないけど
寡黙な船長さん。なぜか操縦席は一番後ろにある

 出航して海風が入ってくると、もう宴会したい気分になり、カラオケがあるくらいならビールは注文できるだろうと、小さな厨房を覗いてみると、おじさんが1人、黄色いスイカをガシガシと切っていました。

 私と目が合うと、「なんだ、待ちきれないのか、ほれ」と一切れスイカをくれました。「違うのよ、海風にはビールなのよ」と台湾語で言えないので、とりあえず「シェイシェ」と手を出します。

スイカを切るおじさん。こちらのスイカは味が濃い
濃厚で甘い黄色いスイカ
潮を盛った青いグアバ

 ちなみに、ものすごくスイカ、おいしいです。濃厚で甘くて水分たっぷり。「ああ、本当は酒が飲みたいのに」と言いつつ、結局、一番、スイカに手を出したのは私です。

 続いて、塩を盛った青いグアバ。熟したグアバよりも、まだ青いうちに収穫して野菜のようにシャキシャキと食べるのが台湾流。種をプイプイ飛ばしながら、黙々と食べていると、窓の外に竹で組んだイカダのようなものが見えてきました。

おいしい牡蠣は養殖イカダの下に

イカダが増えていきます。沖から2、3km離れたところに密集

 あ、あれは? と急いで先頭の小さな甲板に出てみると、お客さん2人が「タイタニックごっこ」をしているではありませんか! 船に突端がないことと、ど派手なオレンジの救命胴衣が、どうにもロマンチックなムードをぶち壊しているのですが、これが分かる人は同じ世代ということでしょう。

牡蠣観光船でのタイタニックごっこ。なぜか男女逆に

 さて、話を戻して、プカプカ海面に浮かぶこのイカダこそ牡蠣の住みか。水面下にたくさんの牡蠣が吊るされているのです。それぞれのイカダには旗が付いており、海の男たちは旗の色を目印に自分のシマを見分けているようです。と、そこへ、ピンクのシャツを着たおじさんが操縦する青い船が、ザザザザと水しぶきを上げてかっこよく近づいてきました。屋根だけついた囲いもない実にシンプルな船です。波があるときはザバザバと海水がかかりそうですが、この方が作業しやすいのでしょう。

海の男、接近。なぜシャツがピンク色なのかは謎

 おじさんは、長靴のまま慣れた調子でイカダの上をピョンピョンと渡っていきます。どうやら観光船の船長と知り合いで、「ちょっくら、日本のねーちゃんたちに牡蠣を見せてやってくれよ」と話しているようです。

 おじさん、「よしきた!」とばかりに海中に手を突っ込むと、「どうだ! うりゃっ!」と、ザザザザッと牡蠣がついた紐を引っ張りました。まるでサツマイモ掘り!! 海中からざくざくと牡蠣が出てきます。1本のロープに何十個もの牡蠣がくっついて、おお、それ、今すぐここで焼きたい!

1本のロープに100個近くの牡蠣が。1年以上かけて大きく育つ

 すると、おじさんが手招き。

「ちょっと、そこの姉ちゃん、あんた来なさい」
「え? わたし?」
「んだ。海のなか落ちるなよ」

 そろりそろりと、グラグラ揺れる木の板の上へ。救命胴衣は付けているけれど、落ちたら、牡蠣の殻にもまれて、全身イガイガになりそうです。

見かけよりも重い牡蠣。まだまだ小粒です

「牡蠣はかみつくからな。気をつけて!」
「挟まれるのね?」
「よし、引っ張れ!」
「うおっ、おじさん、すっごく重いよ!!」
「ははは、重いだろう」

 台湾語が分からなくても海の男との会話がなんとなく成り立つのは、同じ島国だからでしょうか? よいしょ、よいしょと力の限り、引っ張りましたが、実に重たい。普段、何も運動していないのがバレてしまいますが、この仕事は大変な重労働です。

 そのまま、「おじさん、ありがとう!」と引き揚げた牡蠣たちを抱えて持って帰りたかったのですが、「さ、戻して」というおじさんの一言でドボン! とキャッチ&リリース。「どんどん大きくなってね」と海中に再び沈んでいく牡蠣を見送りました。

帰っていくおじさん。よく見るとおしゃれでかわいい船

 ちなみに、牡蠣漁観光船は海が荒れない夏がベストシーズン。個人で行くのは難しいのですが、土日は団体客に便乗して乗ることもできるそうなので、朝早く行って港で聞いてみるのもいいかもしれません。

船を下りたら、一目散に牡蠣小屋へ

「呉氏■捲」(■は虫偏に可)

 さあ、再び、東石港に戻ります。頭の中は、もはや牡蠣と酒でいっぱいです。港のまわりには何百という牡蠣小屋が営業していて、空き地には山のように牡蠣の殻が詰まれています。その牡蠣小屋のなかでも、うまいと評判なのが、ここ「呉氏■捲」(■は虫偏に可、以下同)。オリジナル料理も多く、その日獲れたものしか使わないので新鮮そのもの。店はオープンで雨よけにビニールが下がっていて「小屋感」たっぷり。店内は家族連れで大変、混み合っています。

 さあ、出て来い牡蠣! と期待していると、海老の赤、キウイの緑、マンゴーの黄色と目にも鮮やかな一品が出てきました。「あれ? 牡蠣がないじゃん?」といぶかしげに店員さんに目を向けると、「分かっている、慌てるな」という表情をします。

「牡蠣はこれからどんどん出しますから慌てないで。これは夏の人気メニューです。台南の愛文マンゴーとキウイ、白身魚のすり身揚げを挟んだもの。マンゴーソースにつけて食べてね」と店員さん。

 日本人なら、醤油とわさびで食べたいところですが、カリッと揚げた淡白なすり身と、甘酸っぱい南国のフルーツが実によく合います。見た目の美しさと組み合わせの意外さ。高級料理店と変わらぬセンスに、一瞬、「ここ、ただの牡蠣小屋だったよね?」とうろたえてしまいました。台湾の牡蠣小屋、レベルが高すぎます。

香芒海鮮。160元。マンゴーソースはマヨネーズをベースに作っている
愛文マンゴーのエキスがすり身に染み込んで不思議な味わい
捲衣はさくさく、中からジューシーな牡蠣がゴロゴロでてくる

 続いて出てきたのは、牡蠣巻き。なんだ、日本の牡蠣フライと一緒でしょ? と思うなかれ。これがただ者ではないのです。前編にも登場した豚の網状の脂に、いくつもの小さな牡蠣とニラや白身魚のすり身をぎっしり詰めてから揚げた一品。牡蠣に豚の脂が溶け込み、複雑な味のハーモニーが楽しめます。「ほんとに牡蠣小屋なのか? 手が込みすぎているぞ」とコスパを思わず気にしてしまいます。

 そしてお待ちかねの生牡蠣が登場。おっ、大きい! 10センチくらいありそうです。

意外と大ぶり。生牡蠣も本当においしい!

 小さいものは煮込み料理や炊き込みご飯に使われるのですが、大きいサイズは生で出すそうです。殻の端っこを持って、つるっと口のなかに滑らせると、もう……東石に一生、住んでもいいかと思うくらい……口のなかで牡蠣エキスがジュワー! 台湾の牡蠣は小粒なイメージがありましたが、その思い込みが吹き飛びました。

 生牡蠣はそのままでも、もちろんおいしいのですが、薬味をいろいろ乗せて食べるのが台湾式。たっぷりのネギとすりおろしたショウガ、にんにく、玉ねぎ、唐辛子を乗せた牡蠣を一口でいただきます! ぷりっぷりの牡蠣とシャキシャキした薬味の食感に誰もが悶絶するに違いありません。ああ、日本酒はないのか。日本酒も置いてほしい。

生牡蠣の薬味添え。ネギとショウガがよく合います
焼き牡蠣。塩味はついているが醤油ベースのソースにつけても
ど定番の牡蠣オムレツ。台北と違って牡蠣が惜しみなく使われている!

 続いて台湾名物、牡蠣オムレツが登場。台北の屋台で一度、食べたことがありましたが、その時入っていた牡蠣はちょっとだけ。それでもオムレツに牡蠣を入れてしまう台湾人のセンスに感動したのですが、ここ、「呉氏■捲」の牡蠣オムレツは、箸でどこを突いても牡蠣に当たります。もう出血赤字大サービス! これなら牡蠣が多い少ないでケンカになることはありません。ケチャップベースのソースが香ばしいオムレツによく合います。

牡蠣バーガー。マヨネーズと自家製ピーナツソースがよく合う

 そのオムレツよりも驚いたのが、日本にありそうで見たことがない、まさかの牡蠣バーガー! 牡蠣フライや野菜をパンに挟んでマヨネーズをかけたもの。牡蠣の渋いエキスにパンって合うのだろうか? いや、一口食べたら、なぜ誰も日本で作らないのか思わず憤慨してしまうおいしさ。ああ、誰か作ってください。いや、自分で作ればいいのか。持ち寄りピクニックで、皆がサンドイッチをカバンから出すのに、さりげなく牡蠣バーガーを作っていったら、女子力、高いと言われそうです。

牡蠣がぎっしり! 驚きの牡蠣炊き込みご飯

牡蠣スープ。どうですか? この牡蠣の量!

 牡蠣オムレツや牡蠣巻き、牡蠣バーガーとややこってりした牡蠣料理のあとに、なんともあっさりした牡蠣スープが運ばれてきました。その昔、まだ台湾が貧しかったころ、カサを増すためにサツマイモのでんぷん「地瓜粉」をまぶしてスープに入れたそうです。栄養も旨みも増すので一石二鳥。胃腸にも優しい塩味で、まだまだ牡蠣が食べられそうな気がしてきました。

 そして、ついにシメのご飯がやってきました。ああ、このままおひつを抱えて日本に帰りたいくらい、ぎっしりと牡蠣が並べられています。ぷりぷりの牡蠣が行儀よく並んだ姿に崩すのがもったいなくなるほど。牡蠣を煮込んだスープで炊き、揚げたネギをちりばめ、新鮮なネギも乗せています。

牡蠣の炊き込みご飯。牡蠣の出汁で炊いている

 今日は1年分、牡蠣を食べた、食べたとお腹をさすっていると、なんと牡蠣の炊き込みご飯はラストではありませんでした。最後に運ばれてきたのは、揚げパンと牡蠣の煮込み料理。果敢に新しい牡蠣料理を生み出す小さな牡蠣小屋に拍手。ちょっとしたイタリアンでも出されそうなおしゃれメニューです。

なんとも不思議な揚げパンと牡蠣の煮込み

 作ってくださっているのは、ラフな赤シャツを着たオーナーの呉さん一家。ビニールで囲いをした小さな牡蠣小屋なのに……そして一品50元から100元程度とリーズナブルなのに……高級料理店に負けないオリジナルな絶品牡蠣料理を食べさせてくれる「呉氏■捲」。

 牡蠣好きの筆者が自信を持ってお勧めする名店です。ぜひ、ほかにはない牡蠣巻きや牡蠣の炊き込みご飯を堪能しに東石まで足を伸ばしてください。

●店舗情報
店名:
呉氏■捲(■は虫偏に可)
所在地:
嘉義県東石郷東石村4-5号
TEL:
(05)373-2852

白石あづさ

フリーライター。主に旅行やグルメ雑誌などで執筆。北朝鮮から南極まで世界約100カ国を旅し、著書に「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。好きなものは日本酒、山、市場。