旅レポ

日本一営業日が短い駅、JR四国「津島ノ宮駅」に行ってきた

JR四国 予讃線にある、日本一営業日が短い駅「津島ノ宮駅」

 JR四国(四国旅客鉄道)の予讃線にある「津島ノ宮駅」。毎年8月4日と5日のわずか2日間しか営業しない、日本一営業日が短い駅として知る人ぞ知る存在だ。今回、その営業日に合わせて津島ノ宮駅に行ってきたので、その様子を紹介する。

 JR四国 予讃線の海岸寺駅と詫間駅の間にある、津島ノ宮駅。普段は駅として営業しておらず、停車する列車もないが、毎年8月4日と5日の2日間だけ駅として営業し、普通列車や臨時列車が停車する。なぜ毎年その2日間だけ営業し、列車が停車するのか。それは、津島ノ宮駅のすぐそばにある神社「津嶋神社」が大きく関係している。

津嶋神社の夏季例大祭に合わせて2日間のみ営業

 香川県三豊市にある津嶋神社は、宝永3年(1706年)に社殿が造営されたと伝えられている、子供の守り神として地元で親しまれている神社だ。七五三の参拝や子供の厄除け、ご祈祷などで、常に多くの子供連れでにぎわっている。私も香川県出身で、自分の記憶には残っていなかったが、両親に聞くと小さいころにお詣りに行ったことがあるとのことで、個人的にも縁のある神社だったりする。

 この津嶋神社で開催される最も大きな祭事が、8月4日と5日の2日間催される夏季例大祭だ。ほかの神社と同じように、津嶋神社でもさまざまな年中行事が行なわれているが、そのなかでも夏季例大祭は特別な祭事となっている。

 津嶋神社の本殿は、海岸から250mほど沖にある津島という小さな島に位置している。海岸と津島の間には昭和8年(1933年)に「つしま橋」という橋が架けられたが、普段は橋の床板が外されるとともに入口が閉じられていて、津島に渡れないようになっている。

 しかし、夏季例大祭では、橋の床板をはめて橋が架けられ、歩いて津島まで渡って本殿を参拝できるようになる。しかも、本殿を参拝できるのは、この夏季例大祭の2日間だけだ。そのため、夏季例大祭は津嶋神社の年中行事のなかでも特別な存在で、夏季例大祭が開催される2日間だけで、地元香川県はもちろん日本全国からのべ約10万人にもおよぶ参拝客が訪れる。

 ただ、津嶋神社付近は交通の事情があまりよくない。普段はクルマで訪れる人が多いが、駐車場はあまり大きくないため、夏季例大祭のような大規模な祭事にはなかなか対応が難しい。公共交通機関としては地元三豊市のコミュニティバスがあるが、こちらも多数の参拝客に対応するのが難しい。そこで、夏季例大祭の開催に合わせて津島ノ宮駅を営業し、大勢の参拝客に対応しているというわけだ。ちなみに、津島ノ宮駅が開設されたのは大正4年(1915年)だが、その当時から夏季例大祭にだけ営業する臨時駅として開設された。今年2018年は、8月4日と5日の2日間で48本の普通列車が臨時停車した。

JR四国予讃線の海岸寺駅と詫間駅の間にある、津島ノ宮駅。毎年8月4日と5日の2日間だけ営業する臨時駅だ
普段は駅として営業しておらず、すべての列車が通過する(8月3日に撮影)
駅のすぐそばにある津嶋神社は、毎年8月4日と5日に夏季例大祭を開催しており、その期間に合わせて津島ノ宮駅が営業される
津嶋神社は、海岸から沖合い250mほどに位置する津島に本殿を構える神社で、子供の守り神として親しまれている
毎年8月4日と5日に開催される夏季例大祭の期間だけ、津島を結ぶ「つしま橋」が架けられ、本殿に参拝できる

8月4日と5日の2日間、津島ノ宮駅は参拝客でごった返す

 というわけで、8月4日の9時過ぎに高松駅を出発し、津島ノ宮駅へと向かった。当日は、西日本豪雨の影響で本山駅から観音寺駅の間が不通となっていたこともあり、列車の運行ダイヤが乱れていて、今回乗車した9時4分発のサンポート南風リレー号も津島ノ宮駅手前の多度津駅止まりとなっていた。ただ、ちょうど丸亀で別の用事があったので、丸亀駅で下車して用事をすませ、高松駅10時4分発のサンポート南風リレー号に乗車し、津島ノ宮駅へと向かった。

8月4日の朝に高松駅を出発
まず、午前9時4分発のサンポート南風リレー号に乗り丸亀駅へ
丸亀での用事をすませ、午前10時29分発のサンポート南風リレー号で
定刻よりやや遅れて津島ノ宮駅に到着

 2両編成の列車の車内は、津嶋神社の参拝客で通勤ラッシュのように混雑しており、その影響もあって津島ノ宮駅に到着したのは定刻から数分遅れの10時53分ごろ。普段は駅として営業していない津島ノ宮駅だが、比較的広いホームに、古めかしいながらしっかりとした木造の駅舎もある。ホームはほとんどの部分が舗装されておらず、昔ながらの姿がほぼそのまま残されているといった雰囲気だが、土の部分に雑草が生い茂っているといったこともなく、設置されている駅名標もとてもきれいで、普段からしっかり管理されていると感じる。1年で2日しか営業しないとは思えない、十分に立派な駅という印象を受けた。

 駅舎は、津島ノ宮駅からの切符を販売するとともに、駅員の待機所として使われていた。木造平屋建ての駅舎はかなり古びた印象だが、側面には「つしまのみや えきちゃん」と書かれたポップなイラストが掲げられていて、古めかしさのなかにかわいさも感じられた。また、駅舎横には記念スタンプを設置。スタンプには「日本一短い営業期間の駅 予讃線・津島ノ宮駅」といった文字や津嶋神社のイラストなどが描かれていて、記念に手帳などにスタンプを押す姿が多く見られた。

津島ノ宮駅のホームの様子。大部分が舗装されておらず、昔ながらの雰囲気が残されている(8月3日に撮影)
このような木造平屋建ての古めかしい駅舎もある(8月3日に撮影)
駅舎では津島ノ宮駅からのきっぷを販売。JR四国係員の待機所としても活用されている。側面には駅名とともにポップなイラストも掲げられている
記念に津島ノ宮駅の入場券を購入。近隣の駅までのきっぷも購入できる
駅舎横には記念スタンプも置かれている
「日本一短い営業期間の駅 予讃線・津島ノ宮駅」と書かれたスタンプを手帳などに押す姿も多く見られた

 さらに、ホームに設置されている駅名標にも大勢の客が群がっていた。それもそのはず、列車側から見える駅名標の裏側に、営業される2日間に限って記念駅名標が掲出されていたからだ。この記念駅名標は、2015年に津島ノ宮駅開業100周年を記念して作成されたものだそうで、それ以降津島ノ宮駅営業に合わせて毎年掲出しているという。これを目当てに駆けつける鉄道ファンも少なくないようだが、子供を横に立たせて記念撮影する親子連れの姿は、非常に微笑ましいものだった。

 このほか、ホーム上には鉄道グッズの売店や待合用のテントも設置。待合用のテントには扇風機も置かれ、真夏の強烈な日差しを避けつつ列車を待てるようになっていた。

ホームに用意されている駅名標。2日間しか営業しない駅だが、とてもきれいな状態だ。ちなみに津島ノ宮駅は臨時駅のため、駅番号は付けられていない
駅名標の裏側には、2015年に津島ノ宮駅開業100周年を記念して作られた記念駅名標を掲出
記念駅名標をバックに記念撮影する人も多く見られた
営業日には、鉄道グッズの売店や待合用のテントも設置される

 ところで、津島ノ宮駅に到着した列車は斜めに傾いていた。これは、津島ノ宮駅がカーブに位置しているためで、ホームと車両の間にはかなり大きな隙間が空いているだけでなく、大きな段差もある。そこで、ホーム上では全車両の出入口にJR四国の係員が配置され、乗り降りを手助けするように配慮されている。子供には、この隙間や段差がかなり危険なため、列車の乗り降りを手助けしてくれるのは親子連れにとってうれしい配慮と感じた。

 加えて、列車が到着する時間に合わせて、ホームにはJR四国のイメージキャラクター「すまいるえきちゃん」が登場し乗客をお出迎え。同じくJR四国のイメージキャラクター「れっちゃくん」を頭に乗せたすまいるえきちゃんは子供たちに大人気で、抱きつく子供や横に並んで記念撮影する微笑ましい姿も多く見られた。現地は連日35℃以上の猛暑日が続き、当日も37℃近くまで気温が上昇するなど、非常に過酷な環境だったことを考えると、列車の乗降手助けやイメージキャラクターのお出迎えといった対応には頭の下がる思いだった。

列車の到着に合わせて大勢のJR四国係員が待機
津島ノ宮駅はカーブに位置しており、列車が傾いてホームとの間に大きな空間と段差ができるため、子供の乗降をJR四国の係員が手助けする
列車の到着に合わせて、JR四国のイメージキャラクター「すまいるえきちゃん」が乗客をお出迎え。頭に乗せているのは「れっちゃくん」。子供たちに大人気の様子だった

お詣りはもちろん、風光明媚な瀬戸内海の眺望や夕暮れの津嶋神社も必見

 津島ノ宮駅から津嶋神社までは徒歩1~2分ほどの距離。夏季例大祭に合わせて参道には多くの露店が建ち並び、お祭りらしい雰囲気となっていた。津嶋神社は、海岸側にも祈祷殿や社務所、参集殿といった建物があるが、目当てはもちろん250mほど沖に浮かぶ津島の本殿だ。津島ノ宮駅から露店の並ぶ参道を進み、鳥居をくぐった先に、津島へとつながる橋が見えた。

 この橋は「つしま橋」と名付けられているが、別名「しあわせ橋」とも呼ばれているという。つしま橋を渡った子供や若いカップル、夫婦に幸せが訪れるとのいわれがあるためで、だからこそ夏季例大祭に合わせて大勢の参拝客が訪れるわけだ。ちなみに、つしま橋を渡るには渡橋料として大人300円、子供100円(幼児以下は無料)が必要だ。橋のたもとに切符売場が設置されているので、そこで渡橋料を支払って橋を渡ることになる。

 つしま橋は、海岸から津島に向かってまっすぐに伸びている。左右の赤い欄干部分は土台がコンクリートでしっかりと作られており、その土台をつなぐように床板が敷き詰められている。この床板は、夏季例大祭の期間以外は外されて橋を渡れない。そう考えると、この機会はとても貴重なものだと再認識し、かみしめながら歩を進めた。また、つしま橋の先、瀬戸内海のなかにぽつんと浮かび上がって見える津島からは、その眺望とも相まって非常に厳かな雰囲気が伝わってくる。

 当日は、気温が37℃に迫ろうかという猛暑日で、日差しもかなり厳しかったが、つしま橋の上は涼しい海風のおかげで思った以上に心地よかった。当日は参拝客が大勢いたこともあって、津島まで渡るのに10分ほどかかった。それでも、瀬戸内海の風光明媚な景色を楽しみつつ、心地よい海風のおかげもあり、暑いながらもなかなか快適に過ごせた。

津嶋神社は、津島ノ宮駅から徒歩1~2分ほどの距離。駅横の路地を抜けた先が参道となる
参道にはたくさんの露店が並び、お祭り気分が盛り上がる
この鳥居をくぐった先に、本殿のある津島につながる「つしま橋」がある
この橋がつしま橋。別名「しあわせ橋」とも呼ばれている。今の橋は4代目だそうだ
つしま橋を渡るには、渡橋料を支払う必要がある
渡橋料は大人300円、子供100円(幼児以下は無料)だ
つしま橋は、このように津島まで一直線に伸びている
夏季例大祭の期間は、このように床板がはめられて橋を渡れるが、通常は床板が外され、入り口も閉じられて津島へは渡れない
つしま橋の上は爽やかな海風で涼しく、猛暑日ながら比較的快適だった
橋の先、海のなかにぽつんと浮かび上がる津島の様子は、非常に厳かな雰囲気だ
10分ほどかけて津島に到達
ちょうど引き潮だったため、周囲では水遊びをする親子連れも多く見られた

 津嶋神社の本殿は、つしま橋を渡った先にある石段を登った上にある。ゆっくり石段を登ると、まず拝殿が目に飛び込んでくる。拝殿には、祈祷を受ける親子連れが大勢見られ、非常に活気にあふれた雰囲気だった。その拝殿の奥には、素戔嗚尊(すさのおのみこと)を祀る本殿があり、周囲には幣殿や神饌殿、守札授与所、社務所などもある。拝殿と本殿の周囲はぐるっと歩いてまわれるようになっているが、本殿奥からの瀬戸内海の眺めも、津嶋神社の大きな見どころの一つ。当日は快晴だったこともあるが、青く穏やかな瀬戸内海と、その先の小さな島々を望む眺望は、まさしく最高の一言。この眺望を眺めるだけでも、わざわざ足を運んでよかったと感じるほどだった。

 そして、津嶋神社でもう一つ見逃せないのが、夕暮れどきの景色だ。津嶋神社から東側の海岸付近から眺めると、ちょうど津嶋神社の奥に夕日が沈む。夕日で赤く染まった空と海のなかに浮かび上がる津嶋神社は、ため息が出るほどに美しい。そして、夕日が落ちて周囲が徐々に暗くなってくると、今度はライトアップされたつしま橋と津嶋神社が浮かび上がってくる。その姿も、なんとも言えず幻想的な雰囲気だ。せっかく津嶋神社まで足を運ぶなら、この夕暮れの様子は絶対に見逃せないと言える。

 今回は時間の都合もあって、この夕暮れの姿を見たあとに現地をあとにしたが、8月4日の夜8時からは、ライトアップされた津嶋神社の奥で花火大会も行なわれる。花火をバックに浮かび上がる津嶋神社も幻想的で素晴らしいそうなので、次はぜひともその様子も目に収めたいと思う。

この鳥居をくぐり石段を登った先に本殿がある
石段を登ると、目の前に拝殿が現われる。拝殿では、祈祷する大勢の親子で活気にあふれていた
拝殿の奥にあるこちらが本殿。素戔嗚尊(すさのおのみこと)が祀られている
拝殿の周囲には、幣殿や神饌殿、守札授与所、社務所などがあり、神輿も飾られていた
本殿奥からの瀬戸内海の眺め。よく晴れていたこともあるが、瀬戸内海らしい素晴らしい眺望に心が洗われる
夕暮れ時、津嶋神社の奥に沈む夕日に赤く染められた空や海と、津嶋神社のシルエットも必見の美しさだ
日が沈んで周囲が暗くなると、ライトアップされたつしま橋と津嶋神社が明るく浮かび上がり、とても幻想的な雰囲気となる

 今年(2018年)の津島ノ宮駅営業期間中の乗降客数は、合計6341人だったそうだ。昨年(2017年)の1万659人に比べると大幅な減少となっている。これは、直前の西日本豪雨によって津島ノ宮駅の先の本山駅から観音寺駅の間が不通となり運行ダイヤが乱れていたことや、連日猛暑が続いていたことなどが影響していると考えられる。そういったなかでも、例年同様に津島ノ宮駅が営業されたのは、参拝を楽しみにしていた人たちにとっても、非常にありがたかったはずだ。JR四国関係者の皆さんの頑張りに感謝しつつ、また機会があればぜひとも津島ノ宮駅を訪れたいと思う。

平澤寿康

うどん県生まれ。僚誌PC Watchなど、IT系の執筆を中心に活動。旅&乗りもの&おいしいもの好きで、特に旅先でおいしいものを食べるのに目がない。ただし、うどんにはかなりうるさい。