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日本旅行、「向谷実さんと行く ニコニコ超会議2016」を583系寝台電車で運行

「SUPER BELL''Z」の野月貴弘さん、ホリプロの南田裕介さんも乗車

2016年4月28日 運行

ニコニコ超会議号2016に使用された583系寝台電車

 日本旅行は4月28日、臨時列車「ニコニコ超会議号2016」を使ったツアー「向谷実さんと行く ニコニコ超会議2016」を実施した。

 ニコニコ超会議号2016(以下、超会議号)は、幕張メッセで行なわれたイベント「ニコニコ超会議」の開催に合わせて企画されたもの。このような臨時列車はこれまでも運行されているが、今回は大阪駅を4月28日に出発して翌29日朝に海浜幕張駅に到着するスケジュールとなっていた。それだけだと単なる臨時列車に過ぎないが、このツアーを募集したのは、“あの”日本旅行。鉄道好きのスタッフを多く抱えるだけに、オンリーワンな数々の特典が用意されていたのだ。

 まず、使用する列車だ。在来線の臨時列車となると選択肢はいろいろあるが、用意されたのは、なんと寝台列車(電車)583系。同列車は国鉄時代の花形特急車両で、機関車が客車を引っ張るいわゆる「ブルートレイン」ではなく、電車タイプであることが最大の特徴。最高速度や加減速に優れ、終着駅などでの機関車の付け替え作業が不要と数々のメリットがあったものの、座席や寝台の狭さ、座席/寝台転換に人手がかかるなどデメリットも少なくなかった。そのため次第に定期列車から退くとともに廃車が進み、現在ではJR東日本(東日本旅客鉄道)が臨時列車用として1編成6両を保有するのみとなった。その最後の1編成をこの超会議号に起用したわけだ。

 そして列車にはミュージシャンであり鉄道ファンとしても知られる向谷実氏のほか、「SUPER BELL''Z」で車掌DJ&ボーカルを務める野月貴弘氏、ホリプロのマネージャーでありながら鉄道関連のテレビに数多くの出演している南田裕介氏など、錚々たるメンバーが乗車。車内アナウンスや検札などで乗客と交流するという。そのほかニコニコ超会議2016入場券や特別ゲートからの入場、記念グッズの配布など、盛りだくさんの内容なのだ。

 このツアーは店頭販売は行なわずWebサイトでの受け付けのみとなっており、3月9日の20時から発売を開始。だが、募集人員が90名と少なかったこともあって、スタッフによると「瞬殺」だったとのこと。チケット争奪戦に敗れて涙をのんだファンも多かったようだ。で、そんな超会議号に乗ってレポートせよ、との指令が編集部から届いた。もちろん、断る理由などあるわけもなく「喜んで」とOK。とはいえ、事前に配布されたコース表は大阪駅(20時00分~20時30分発)~京都駅~海浜幕張駅(10時10分~10時40分)着と非常にざっくりとしたもの。ちょっと不安を抱きつつも、出発日を待つことになった。

大阪駅出発は20時20分。種別は団体になっていた

 当日、京都鉄道博物館での開業記念式典取材を済ませ、原稿を書き上げてから大阪駅へ。大阪駅中央改札口前にある日本旅行の店舗「Tis 大阪」で受け付けを済ませたところで、メディア向けに詳細な時刻表が配られた。この時刻表は一般の参加者には配られていないようで、行き先のみ決まっているミステリートレイン的な扱いになっている様子。主だったところを抜粋すると下記のような流れだ。

駅名列車番号着/発
大阪9132M-/20時20分
名古屋0時55分/0時56分
浜松2時11分/2時52分
静岡4時27分/4時42分
小田原6時52分/6時54分
鶴見9735M7時40分/7時42分
東浦和8時47分/9時15分
西船橋9時55分/9時59分
海浜幕張10時12分/-

 取材特権とばかりに時刻表を見ると、どうやら東海道本線~東海道貨物線~武蔵野線~京葉線というルートを走るよう。すでに夜行列車が廃止となった東海道本線を走るだけでなく、定期列車では乗ることができない路線も含まれており、これを見ただけでもちょっとわくわくしてきた。

 出発ホームとなる大阪駅11番線へ行くと、20時を過ぎているというのにホームの上には人があふれ「なにごと?」って状態。583系の人気恐るべし。とはいえ、若い男性だけでなく親子連れや女性の姿もチラホラ。それゆえに「殺伐」というほどではなく、静かに盛り上がっている感じだ。20時11分に列車が入線してくると、両端の1号車と6号車にファンが殺到。「1カット撮りたいな」と思っていたものの、あきらめて列車に乗り込んだ。

20時11分、多くのファンが詰めかける大阪駅に583系が入線
前も後ろも撮影できませんでした
電車寝台を示す「☆☆」表示がいいムード
583系最後の1編成は秋田の所属
ホームで見送るファンに手を振る向谷氏
車掌DJ 野月氏とホリプロ南田氏
1号車の車内。片側が座席、片側が寝台の贅沢な仕様
座席はクロスシートながら特急型だけにゆったり

 14系や24系客車といったいわゆるブルートレインは、片側に通路があり、寝台が並ぶ櫛形配置。一方、583系は中央の通路を挟んで両側に座席/寝台が並ぶレイアウトとなっているのが特徴で、今回の超会議号ではホーム側は座席、反対側は寝台がセットされた状態。つまり乗客には座席と寝台の2席が割り当てられており、どちらも楽しめる「1粒で2度美味しい」ゼイタク気分が味わえるワケ。ウン十年前に583系に乗ったときはすでに両側が寝台にセットされた状態で、かなり狭苦しかった記憶が残っているけれど、こちらは開放感があってスペース的にもゆったり。寝台だけでなく荷物棚が使えるから荷物置き場にも困らない、と実用面でも良好。半世紀に迫る車齢を随所に感じるものの、カジュアルなリゾート列車として十分現役でイケそうな雰囲気だ。

シートピッチも十分
通路側には引き出し式のミニテーブルがある
寝台部分。上中下の3段式
上段。天井が迫るものの幅はタップリ
照明と窓がある
とはいえ面積が狭いのであまりよく見えない
カーテンを閉めたところ
閉め切ってしまうと暑いので換気用の穴が空いている
中段。見た目以上に快適だが出入りにはコツがいる
下段。当然ながらもっとも快適で現役時代は寝台料金が高く設定されていた。ただし、シートがベッドになるためデコボコがある
パンタグラフの下にある寝台のみ中下段の2段式。中段ながらスペースが広く「一番イイ席(ベッド)」といわれている
寝台列車だけど寝台扱いじゃない「ゴロンとシート」なのでリネンや枕はナシ。そのため乗客には空気で膨らませる枕が配られた
上段に収って遊ぶ向谷氏
超会議号の編成

 20時20分に大阪駅を出発。客車寝台とは異なる独特の加速感で速度を増していく。メンテナンスはされているだろうけれど、もとはといえば50年も前の車両。ガタピシするのかと思いきや乗り心地はかなりイイ感じ。最近の軽金属製軽量車とは一線を画す重厚な乗り味だ。省エネっていう意味では「軽さこそ正義」ではあるものの、「重さ」によるどっしりとした安定感はいまでも十分に魅力的。このあたりはクルマでも同じことがいえるけれど。

車端にはトイレと洗面所も
取材日の翌日オープンとなる京都鉄道博物館横を通過。扇形車庫の中にSLがあるのがわかる

 独特の乗り味を楽しんでいると、向谷氏による車内放送が始まった。向谷氏は「(今回のツアーでは)100人以下しか乗れなかったんですけれども、十分にこのニコニコ超会議号を楽しんでいただければと思います」と前置き。「超会議会場である海浜幕張にお乗り付けができる」「専用の優先入場口からスッと入ることができる」とツアーのメリットを紹介するとともに、会場の超鉄道ブースは「サイズが昨年の倍」とアピール、ブースへの来場を促した。また、列車の運行に関わるJR西日本(西日本旅客鉄道)、JR東海(東海旅客鉄道)、JR東日本の3社へも感謝を述べた。

アナウンスを行なう向谷氏

 続いて車掌DJ 野月氏にバトンタッチ。マイクを握った野月氏は「583系使用のニコニコ超会議号、海浜幕張行でございます。ただいま草津の駅に停車しています。草津の駅発車は21時42分を予定しております。草津駅を出ますと次の停車駅は……、お教えできません」と、イキナリ飛ばし気味のアナウンス。「なお、私の予想では草津を出ますと次は大垣に停車をいたします」と車掌らしいアナウンスに戻ったかと思えば、「大垣では5号車の切り離しを行ないます。5号車を切り離しまして美濃赤坂まで回送いたします。5号車は美濃赤坂止まりとなっております。ご了承ください」と小ネタを(※5号車は毎回カオスな空間になっているらしい)挿入。

 そこからは完全に暴走モードに突入。「さらにはDD51とカニ24を連結いたしまして高山本線へ。そのまま富山へ向かいまして、交直流切り替え機能を活かしまして『あいの風とやま鉄道』『えちごトキめき鉄道』を経由いたしまして直江津、さらには『ほくほく線』『上越線』そのまま『高崎線』で行くと思わせておいて『両毛線』、小山では『宇都宮線』に行くと思わせておいて『水戸線』、そして583系馴染みの『常磐線』からまっすぐ行くと思わせておいて『成田線』という手もあるがサスガにやめておきましょう。そのまま『武蔵野線』『京葉線』経由で海浜幕張に」と妄想ルートまで披露した。

 さらには「車内座席、寝台の両方使用となっております。実際の運転ではおそらくこのような座席配置となったことはございませんので、合造車となっておりますので味わってご乗車ください」「夜間は寝台側、昼間は座席側にお客様が集中することにより、車体が傾きまして若干の振り子車両効果が生まれるかもしれません。振り子となった場合、カーブ区間で多少スピードが速くなる可能性がございますのでご了承ください」と、ネタ満載のアナウンスを締めくくった。

本職っぽいけど実はDJの野月氏

 草津駅を発車すると向谷氏をはじめとしたゲスト陣が乗車記念券などを配りつつ車内検札を開始。「前回も乗ってたよね」など声をかけながら雑談したり、写真を撮ったりと、普通のイベントでは考えられないぐらい時間をかけてコミュニケーションを図っていた。2号車からはじまった車内改札は4号車まではスムーズに進行したものの、噂の5号車に足を踏み入れると、寝台でNゲージが走り回ってるし、妙に人口密度が高いしで事前情報どおりカオスな空間に変貌。「向谷氏は?」と見てみるとコップが手渡されてビールが注がれ、あげくに餃子まで出てくる居酒屋状態。改札そっちのけでボックスシートに座りこみ、ファンとのディープな交流を楽しんでいた様子だった。

協賛品の高級チョコレートも
ベッドの上で走る583系
こちらはプラレール
ここから先は禁断の5号車
複々線でヤードまであるレイアウトが! 翌朝、改めて見たところしっかり走ってました。どこで寝たんですかね……?
こちらは8の字タイプのエンドレス
乗客に配られた乗車記念証

 0時をまわったところで「翌朝、起きられたときまで放送をお休みする」と野月氏がアナウンス。5秒前からカウントダウンし、恒例となっている(らしい)「寝ろ!」の言葉とともに車内が暗くなった。ただ、実際は1両ごとに操作をする必要があるらしく、車掌氏(ホンモノ)が車内を巡回しつつ減光操作を行なっていたようだ。

 朝から取材をしていた筆者はここでベッドに移動。ゴトンゴトンと夜汽車らしい断続的な音が睡魔を誘い、気持ちのよい眠りについたのだった。途中、浜松駅で40分ほど停車していた(らしい)際に、「SRC(※)初めて見たよ!」などと興奮気味の会話が聞こえたのは、この列車ならではってところか。ああ、自分も見たかったです。

※スーパーレールカーゴ:機関車牽引ではなく電車型の貨物列車

 目が覚めて小窓から外を覗いてみると、どこかの駅に停車中で車内はシンと静まりかえっている。時計とダイヤを見比べてみると函南駅らしい。6時22分、静かに動き出した列車は熱海を過ぎ、根府川駅から米神あたりでは沿線のファンの歓迎を受けつつ6時52分に小田原着。普段ならホームは通勤客であふれていそうな時間だけれど、祝日なだけに閑散としている。ただ、ここでもカメラを手にしたファンらしき人影がチラホラ。

函南駅に停車中
シーンとした1号車
小田原駅で駅弁を積み込み中

 小田原駅を過ぎたあたりで向谷氏が車掌室に向かいマイクを握る。「到着までまだ3時間強あります」「私が厳選に厳選を重ねた『ニコニコ超会議号 特製 朝食弁当』をお配りします」「これからいったいどこを走るんでしょうか、なかなかシュールなところを走る予定です。海浜幕張までの間も見どころ満載でございますので、ニコニコ超会議号、最後まで思いっきり楽しんでください」と朝のアナウンスを行なった。列車は東海道本線と併走しながらも通常とは異なるルート、東海道貨物線を走行中。鉄分の濃い人なら、車窓の風景からこの先のルートが想像できたハズ。もっとも、車内を軽く見て回った雰囲気からすると、大半が寝ていたようではあったけれど。

残念ながら富士山は見えなかった
専用掛け紙が付いた朝食弁当
掛け紙をめくると明治40年に生まれた東華軒の「鯛めし」が搭乗
中身は鯛おぼろを乗せた茶飯にわさび漬けやちくわなど

 東戸塚駅を過ぎると併走していた東海道本線から離れ、東海道貨物線ならではの風景となる。といっても、ほぼトンネル。相模鉄道との相互乗り入れが行なわれる神奈川東部方面線(建設中)が合流する横浜羽沢駅(貨物駅)あたりで少し開ける程度。そこを抜けるともう一度トンネルに入り鶴見駅付近で東海道本線に合流する。

 鶴見駅からは列車番号が変わり武蔵野線へ。幕張本郷駅までならこのままずっと横須賀線~総武本線を走ればカンタンだけど、そこは向谷氏がプロデュースする超会議号。幕張メッセ最寄りの海浜幕張駅に向かうために、ぐるっと大回りするのだ。しばらく貨物専用線を走って府中本町からは通勤電車に混じって武蔵野線を走行。ホームで電車を待っている人が驚いて見ていたり、スマホを取り出して写真を撮る人がいたりと、反応がちょっと新鮮だ。

横浜羽沢貨物駅付近。2018年度の開業を目指して神奈川東部方面線の工事が進む
鶴見駅(といっても貨物線なのでホームなし)に停車中。カメラを持ったファンがチラホラ
多摩川を渡る
ここにもファンの姿が
東浦和駅停車中に185系の団体臨時列車に抜かされる

 東浦和駅で30分ほど停車している間に、向谷氏にお話を伺うことができた。今回の企画については「1年越しの企画。車両の手配は早めにできたものの、(運転区間が)JR3社にまたがることもあって、スジ(ダイヤ)の調整が物理的にも運行の問題的にも難しかった。日本旅行にも協力していただくことで、実現できて感無量」とのこと。ツアーについては「昔の夜行列車は乗り合わせた乗客がコミュニケーションを取り、出会いを楽しむという場でもあった。今回は半分以上が初めて寝台列車に乗るという人で、『一度乗ってみたかった』という声が多かった。商品力はあると思うので寝台列車を残して欲しい。5号車みたいなノリも最高。絆を感じた」という。次回については「583系が元気(※)なのでまたやりたい。大阪より遠くにも挑戦してみたい」とのこと。今回予約できなかったという人も、まだ次のチャンスがありそうだ。

※583系はこの2月に全般検査(クルマの車検のようなもの)を受けたばかりなので、致命的な故障がなければ数年は使用できる(ハズ)

「最高!」と向谷氏
同乗していた「Bittersweet苦甘鉄道部MM'」の2人。安井愛さん(左)は「3段式ははじめてなので感動」、山本紗由美さんは「中段は意外と揺れなくて一番最後まで寝てしまいました」とのこと
昨年この583系に秋田まで乗りに行ったという野月氏。今回は「寝台と座席の両方が楽しめて豪華!」とのこと

 10時12分、無事に海浜幕張駅に到着。幕張メッセに向かう人に加え、超会議号の写真を撮るファンが集まり、ホーム上は朝のラッシュもかくやという大混雑。14時間あまりをトラブルなく走りきり、ツアー客を降ろした583系は、自分の家である秋田へ向かって帰って行った。

アナログな雰囲気の運転席まわり
スタッフの皆さん。お疲れさまでした
多くのファンで埋め尽くされた海浜幕張駅

(安田 剛)