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西九州新幹線「かもめ」初公開。白地に紅のボディ、クラシックモダンな内装

2021年12月22日 公開

今回外部を公開した車両は、6両編成のうち1・2号車のみ。同じN700Sだが、外部塗装の違いで印象は大きく異なる

 JR九州(九州旅客鉄道)は12月22日、日立製作所の笠戸事業所において、西九州新幹線で使用する新幹線電車、N700S(8000番台)の報道公開を実施した。

 すでに東海道・山陽新幹線で使われている16両編成のN700Sがベースだが、編成両数をはじめとして、さまざまな相違点がある。

青柳社長「JR九州らしいオンリーワンの車両を作ろうと考えた」

 車両の報道公開に先立ち、まずセレモニーが行なわれた。登壇したのは、JR九州 代表取締役社長執行役員の青柳俊彦氏と、日立製作所 鉄道ビジネスユニット COO RollingStockJapan 笠戸事業所長の三浦淳氏。

 青柳氏は、「この車両は、東海道・山陽新幹線で使われている最新鋭のN700Sがベースですが、JR九州らしさのある、オンリーワンの車両を作ろうと考えました」という。N700Sというベースは変わらないので、主に内外装で独自色を打ち出している。とはいうものの、新幹線電車の設計・製作に際しては、コストだけでなく軽量化など、さまざまな面で厳しい要求がある。そのため、車両を実際に製作する立場の三浦氏によると、開発・製造の過程では、いろいろ苦労があったようだ。

セレモニーでスピーチする九州旅客鉄道株式会社 代表取締役社長執行役員 青柳俊彦氏。「特急『かもめ』の運転開始は、私が生まれたのと同じ年です」と語る
青柳氏が「私がいろいろ説明するよりも、まずは見ていただきたいと思います」と述べたところで、移動機に押されてN700Sの現車が姿を現わした。
右から、株式会社日立製作所 鉄道ビジネスユニット COO RollingStockJapan 笠戸事業所長の三浦淳氏、青柳社長、デザインを手がけたドーンデザイン研究所 水戸岡鋭治氏によるテープカット
囲み取材に応じる青柳氏(右)と水戸岡氏(左)。「外部塗装は『明るくて元気なものに』ということで、赤と白に決まりました」(水戸岡氏)

JR九州ならではの特色

 ほかのJR九州の車両と同様に、西九州新幹線向けのN700Sでも、水戸岡鋭治氏率いるドーンデザイン研究所が車内外のデザインを担当している。そのため、九州新幹線の800系などとも共通する「JR九州のテイスト」が、いたるところに現われている。例えば外装では、コーポレートカラーである「赤」の多用、毛筆書体で記した列車の愛称名「かもめ」などが、JR九州らしさを感じさせるところ。

 これまでのJR九州の車両では、鉄道の存在感を出すために目立たなければならないということで、過激なデザインになる場面もあった。しかし、西九州新幹線のN700Sでは、落ち着きや上品といった方向に軸足を移しているという。では、実際にどのような仕上がりになっているかを見てみよう。

ノーズの形状は「デュアル スプリーム ウィング形」。前部標識灯ケースの周囲に黒い縁取りが入っており、これだけでも印象がだいぶ変わっている
各所にロゴタイプを散りばめているところはJR九州の通例。「どこで写真を撮っていただいても『かもめ』だと分かるように、こうしています」(水戸岡氏)。これはノーズ先端部
「デュアル スプリーム ウィング形」の特徴として、気流をスムーズに流すための縦方向の流れがある。この角度では、それが明瞭に分かる
こちらは運転台まわり。キャノピー状に突出した運転台部分の全体を、黒で塗装している。窓に「Y1」とあるのは編成番号で、このあとに続く編成はそれぞれ「Y2~」となるはずだ
「かもめ」のロゴは青柳社長の直筆による毛筆書体。「最初は3文字を一気に書こうとしたらなかなかうまくいかず、一文字ずつ書きました」(青柳社長)
側面中央部。このにぎやかさがJR九州らしい
パンタグラフや、騒音拡散防止のためのカバー類は、東海道・山陽新幹線のN700Sと同じ形態。ここにも、「かもめ」独自のロゴマークが入る

指定席車と自由席車で異なる内装

 西九州新幹線のN700Sは輸送需要を考慮して、6両編成(編成定員396名)となっている。そのうち、長崎方の3両(1~3号車)が指定席車で、座席は2-2列配置。武雄温泉方の3両(4~6号車)は自由席車で、座席は2-3列配置。グリーン車の設定はない。

 定員は、1号車(40名)、2号車(76名)、3号車(47名)、4号車(86名)、5号車(86名)、6号車(61名)。車椅子スペースなどの関係から、4または5の倍数になっていない車両がある。

 内装は、「優しい、明るい、楽しい、心地良い、美しい」というテーマのもと、和と洋、クラシックとモダンの組み合わせにより、「懐かしく、そして新しい空間」を表現したという。窓まわりや天井の造作は東海道・山陽新幹線のN700Sと同一で、カラースキームのみが変えられている。客室天井で、パネルの継目を利用して監視カメラを組み込んだ構造も同じだ。一方、指定席車の座席や、座席に張られているモケットの柄にはJR九州の独自色がある。

 指定席車の座席は、九州新幹線の800系で使われているものがベースだが、ACコンセントを追加するなど、若干の改良が入っている。特徴として、背ずり(背もたれ)のフレームや左右の肘掛けに曲げ加工を施した木材が用いられている点がある。なお、モケットの柄は1両ずつ異なる。号車ごとに内装に違いを持たせる手法は、九州新幹線の800系とも共通する。

指定席車(3号車)の車内全景。モケットの柄は「唐草」
座席の全展開状態。テーブルは肘掛けに内蔵するタイプ
指定席車の場合、ACコンセントは中間肘掛けの前面に取り付けられている
向かい合わせにすると、この状態になる。テーブルは肘掛け内蔵式なので、向かい合わせにしても使える
ロールカーテンはこんな柄。背後の壁面、荷棚の下にある隙間に空調の吹出口が組み込まれている
長崎方の端部には、大型荷物置場が設けられている
妻壁上部に組み込まれた情報表示用の液晶ディスプレイは、東海道・山陽新幹線のN700Sと同一仕様
天井には監視カメラが組み込まれている。この構造も東海道・山陽新幹線のN700Sと同様

 今回は公開対象になっていないが、自由席車もある。こちらの座席は、東海道・山陽新幹線で使われているN700Sと同じものになるようだ。指定席車と異なり、3両とも同じ柄のモケットを使用する。

 トイレ・洗面所は新幹線の通例どおり、奇数号車の武雄温泉方・車端に設けられている。バリアフリー対応設備は3号車に設けられており、この車両のトイレ・洗面所は車椅子対応仕様となっている。また、ここには授乳など、あるいは気分がわるくなった乗客が休むための場所として、多目的室が設けられている。

トイレはすべて洋式。和式と比べるとコンパクトにまとまる利点がある
3号車には、通常型の洋式トイレに加えて、バリアフリー対応の大形トイレが設けられている
車椅子対応トイレの前のデッキは広く、方向転換は容易。側扉の幅も、車椅子対応のために通常より広い。左手にある洗面所は、車椅子でも利用できる構造
多目的室も車椅子対応トイレと同様に、湾曲した壁面によって広い空間を確保している
多目的室はデッキと客室の間にある
車椅子対応の腰掛けは2脚。ここだけ1人掛けになっていて、隣接するスペースは車椅子を駐めるエリア。腰掛けには、車椅子固定用のバンドも設けてある
その反対側は腰掛けがなく、こちらも車椅子2台分のスペースが確保されている

N700Sの「標準車両」コンセプトが活きる

 東海道・山陽新幹線で使われているものと同系列の車両をJR九州の新幹線で導入した事例というと、すでにN700系(8000番台)がある。東海道・山陽新幹線では16両編成、山陽・九州新幹線用は8両と編成長が異なるほか、外部塗装も異なる。しかし、車体の形状や構造、主要機器は、おおむね同じである。

 ところが、同じ「N700系」を名乗っていても、16両編成と8両編成では床下の機器配置がまったく異なっており、設計変更には多大な手間がかかっている。それに対して、西九州新幹線向けのN700Sは、N700Sの「標準車両」コンセプトを活用することで、設計変更の手間を最小限に留めている。また、停電時の自走を可能とするバッテリ自走システムをはじめとするN700Sの特徴は、西九州新幹線のN700Sにも引き継がれている。

 なお、西九州新幹線の武雄温泉~長崎間は、2022年秋の開業を予定している。青柳社長は「西九州新幹線の開業をきっかけにして、これまでのモヤモヤを一気に吹き飛ばしたい」と意気込みを語っていた。

先頭部を真横から見ると、意外とすらりとしている様子が分かる
空力に起因する騒音を防ぐために、先頭部は全体的に複雑な曲面を描いている
前部標識灯はLED。この角度だと分かりにくいが、黒い縁取りのなかにも「KAMOME」のロゴがあしらわれている