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日本旅行業協会、坂巻新会長が「Go To トラベル事業」に言及。「安全・安心が次の旅行を生んでいくという形に」

JATA記者懇談会より

一般社団法人日本旅行業協会の新会長、坂巻伸昭氏が新型コロナウイルス感染症の影響下にある旅行業界について語った

 JATA(日本旅行業協会)は、東京・霞が関の本部において記者懇談会を開催した。

 新しく会長に就任したばかりの坂巻伸昭氏(東武トップツアーズ 代表取締役 社長執行役員)をはじめ、副会長の菊間潤吾氏(ワールド航空サービス 代表取締役会長)、堀坂明弘氏(日本旅行 代表取締役社長)、髙橋広行氏(JTB 取締役会長)らが出席し、新型コロナウイルス感染症の影響下にある旅行業界、JATAの取り組みを説明。観光庁の「Go To キャンペーン(Go To トラベル事業)」への思いも語った。

懇談会の進行を務めた広報委員長 米田昭正氏(KNT-CTホールディングス株式会社 社長)

 JATAは旅行会社約1200社からなる会員組織。海外・国内の募集型企画ツアーを企画実施できる第一種旅行会社が半数を占める。事業の柱は「1. 政策提言や制度作り」「2. 旅行需要の喚起」「3. 研修など会員企業の経営支援」「4. 苦情処理や弁済業務といった消費者保護の活動」の主に4つ。

「Go To トラベル事業」を「次につなげるように、生きた形で使えるように」

 6月22日の総会で第11代会長に就任したばかりの坂巻氏は、新型コロナの影響下での就任ということで、旅行業界の今後に向け「安全・安心をどのように担保できるかが私たちに与えられた大きな使命」だとあいさつし、業界の状況を説明した。

 主要旅行業者の総取扱額(推計含む)を2019年と2020年で比較すると、2月から新型コロナの影響による減少傾向が見え始め、3月は前年比28%に。これは28%減ではなく2019年3月の「4714億円」から2020年3月の「1330億円」と、72%減の28%にまで減少。4月~6月の前年比のパーセントは一桁台で推移し、「旅行業社の扱いとしては約2兆4000億円の売上が失われた」と想定されるという。

 これをさらに「旅行消費額」(推定含む)で2019年と2020年を比較すると、3月は「2.21兆円」から「0.83兆円」に減少、4月は「2.31兆円」から「0.11兆円」に減少となっており、このままで推移すると「8月までに約14兆円の損失」「年間で約20兆円の損失」が想定され、観光が経済に与える波及効果まで含めた観光庁の試算によれば「約50兆円規模」の損失まで推測されている。

 このような危機的な状況において旅行業者の業界団体として、官邸でのヒアリングにも出席し、坂巻会長(当時副会長)は大きく5つのことを政府に要望した。

新型コロナウイルス感染症対策として、JATAが政府へ働きかけた項目

1. 雇用調整助成金の助成率の引き上げ、支給限度日数の延長
2. 感染予防策を業界で共有することを条件とした自粛の緩和
3. 修学旅行の延期での実施や取消料の補填
4. 前例のない大規模な観光需要喚起キャンペーンの実施
5. 出国時の検温、健康チェック体制など国際交流復活への仕組み作り

「5」についてはまだまだ先ではあるが、旅行業界の“出血”を止め、事業者として感染防止のための安全・安心のガイドラインを策定しつつ旅行需要復活・業界復活への道筋が見えるものになった。

 国際交流復活に向けた感染防止対策としては、JATAでは各国大使館、航空会社、経団連(日本経済団体連合会)、さらにUNWTO(国連世界観光機関)、WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)、PATA(太平洋アジア観光協会)などの国際的な観光機関と連携し、また観光庁、厚労省、外務省、官邸に働きかけ、出入国の基準・ルールの策定へ一歩ずつ取り組んでいきたいとし、「日本人が諸外国で歓迎され、海外の人が安心して日本を訪れたい国になるよう」取り組みを進めていくとした。

 そして、コロナ禍において、ワーキングスタイル・ライフスタイルが変化するなか、「旅のスタイルもしっかりと変えて・安全・安心に加えて、これまでの旅とは違った旅、旅のチカラ、旅の価値観」を提供できるよう取り組んでいきたいと決意を述べた。

一般社団法人日本旅行業協会 会長 坂巻伸昭氏(東武トップツアーズ株式会社 代表取締役 社長執行役員)

 報道陣からの質問では、7月22日からスタート予定の「Go To トラベル事業」に関するものもあった。「Go To トラベル事業」の運営委託先「ツーリズム産業共同提案体」は、このJATAやANTA(全国旅行業協会)、日観振(日本観光振興協会)などで構成されており、坂巻会長はこの団体の代表者でもある。

ツーリズム産業共同提案体

共同提案体:
一般社団法人日本旅行業協会、一般社団法人全国旅行業協会、公益社団法人日本観光振興協会、株式会社JTB、KNT-CTホールディングス株式会社、株式会社日本旅行、東武トップツアーズ株式会社
協力団体:
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、一般社団法人日本旅館協会、一般社団法人日本ホテル協会、一般社団法人全日本シティホテル連盟 、株式会社リクルートライフスタイル、楽天株式会社、ヤフー株式会社

 坂巻会長は事業の詳細までは言及しなかったものの、コロナ禍において「もちろんいち早くカバーして、旅行業として進んでいきたいことはやぶさかではない」ものの、「急ぐよりも、しっかりと確実に安全・安心をきちんと担保したうえでご旅行に行っていただき、その安全・安心が次の旅行を生んでいくという形にもっていくべき」と考えており、「しっかりと安全対策をして、お客さまが安全に安心にご旅行にいける体制をしっかり積み上げ、国内、海外、訪日と、ステップを踏みながら協会、業界一丸となって取り組んでいきたい」と述べた。

「Go To トラベル事業」では、一般消費者の国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行の費用の「1/2相当」を、「1人1泊あたり2万円を上限」「日帰りは1万円を上限」に支援(連泊制限や利用回数に制限なし)するが、坂巻会長は「安く旅行できる」というよりも、「ワンランク上の価値がある旅」をしてもらい、「旅のよさ」を感じてもらい、「次につなげるように、生きた形で使えるように」なればと希望を述べた。

Go To トラベル事業の概要(観光庁資料)
キャンペーンの対象になるのは、旅行会社などが提供する往復の交通と宿泊(現地施設利用・観光・食事など)がセットになった旅行商品。例えば支援額が2万円の場合の内訳は、1万4000円が旅行代金の値引きに、6000円が「地域共通クーポン」として旅行者に配布される(観光庁資料)

「Go To トラベル事業」で旅行業だけでなく、地域産業にも寄与

一般社団法人日本旅行業協会 副会長 髙橋広行氏(株式会社JTB 取締役会長)

 国内旅行分野は、髙橋副会長が説明した。このコロナ禍が過去の感染症、震災などの危機と大きく異なるのは、国内旅行、海外旅行、訪日外国人旅行のすべての分野で、そしてほぼすべてのエリアで甚大な影響を受けていることにあり、「観光事業者にとって完全に道が閉ざされている状況」だという。

 2019年の旅行消費額は2018年と比べて8.2%増の31.6兆円であり、そのうち日本人による国内宿泊旅行は17.2兆円と全体の約54%を占めていた。これらが2020年に一気に落ち込んだわけだが、そのなかでもJATAは会員向けにWebセミナーを開催。東北観光推進機構やOCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)が最新情報や新型コロナ対策などのプレゼンテーションを行なった。

 また、安全・安心に旅行ができるよう、医療専門家のアドバイスを受け、観光庁の協力のもとにガイドラインを作成したほか、国内修学旅行の手引き、貸切バスにおける新型コロナウイルス対応ガイドラインなど次々と公開。地方自治体観光補助事業も手がけるなど地固めを推進している。これらの取り組みがあっての「Go To キャンペーン(Go To トラベル)事業」であり、これが旅行代金の値引きだけではなく、現地で使えるクーポンの付与など、旅行業だけでなく、地域産業にも寄与する内容であることを紹介した。

海外旅行のガイドラインを業界各社と策定中

一般社団法人日本旅行業協会 副会長 菊間潤吾氏(株式会社ワールド航空サービス 代表取締役会長)

 海外旅行分野は、菊間副会長が説明した。UNWTOが掲げた国際観光客13億6000万人という2020年達成目標を、2018年に14億人と早々に達するなど成長を続けていた世界の観光市場において、2020年第1四半期には22%減、年間では58%~78%減となる可能性があるなど、新型コロナが「過去に例がない危機」をもたらしていると説明。UNWTOでは国際観光需要の回復を2020年第4四半期~2021年と予測していること、IATA(国際航空運送協会)では国際線の需要回復を2023年~2024年と予測していることを紹介した。

 そんななかJATAでは、将来に向けて海外旅行のガイドラインを業界各社と策定中であり、TOA(日本海外ツアーオペレーター協会)協力のもとに、オンラインでの商談会・セミナーイベント「JATA Online Travel Mart」を、国内旅行会社の担当者・関係者、海外のDMO/オペレーターなどを対象に7月31日から開催することなども紹介した。

オンラインでの商談会・セミナーイベント「JATA Online Travel Mart」を2020年7月31日、8月6日~7日、31日、9月1日~2日に開催する

2019年に「3188万人」だった訪日外国人旅行者が「394万人」に

一般社団法人日本旅行業協会 副会長 堀坂明弘氏(株式会社日本旅行 代表取締役社長)

 訪日旅行分野は、堀坂副会長が説明した。訪日外国人旅行者数は2019年に「3188万人」、旅行消費額も2019年は「4兆8135億円」と成長を続けていたが、2020年は5月までの累計比較で対前年比28.7%の「394万人」に。各国も水際対策強化を進め、観光の人の動きはほぼないところまできているが、ビジネス目的という条件下で部分的・段階的に入国制限緩和に向けた動きも始まっている。世界各国の旅行メディア・Webサイトなどでの訪日意欲が高いことを示す調査結果なども引用しつつ、JATAとしては「1. 品質」「2. 安全衛生管理」「3. 地方誘客」の3つをキーワードに、各種制度や2国間の交流案件、あるいは東京オリンピック・パラリンピック、ワールドマスターズゲームズ2021関西、大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)なども契機にしつつ、インバウンド復活に向けて取り組んでいきたいとした。