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JR西日本、「WEST EXPRESS 銀河」公開。一人旅から家族旅まで多彩な座席を備えた特急列車

京都/大阪駅~出雲市駅、大阪駅~下関駅で運行

2020年1月25日 報道公開

2020年5月8日 運行開始

「WEST EXPRESS 銀河」

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は1月25日、新特急列車「WEST EXPRESS 銀河」の車両を吹田総合車両所で公開した。

 WEST EXPRESS 銀河は5月8日から京都/大阪駅~出雲市駅で夜行特急列車として運行が始まり、10月以降は大阪駅~下関駅で今度は特急列車(昼行)での運行を予定している。

 列車のコンセプトは「気軽に鉄道の旅が楽しめる列車」で、多様な旅のスタイルに対応できるように複数の種類の座席を設置(多様性)し、快適性が高く落ち着いた車内空間、車窓からの景色が見えやすい座席配置、自由に使えるフリースペースを設け(くつろぎ)、気軽に楽しんでもらえる価格設定(カジュアル)とした。

 また、列車名の「銀河」は、西日本エリアを宇宙に、点在する魅力的な地域を星になぞらえて、これらの星々を結ぶ列車という意味を込めたという。

5月から9月までは京都/大阪駅~出雲市駅で夜行特急列車として運行
エクステリアカラーは「瑠璃紺」色
「WEST EXPRESS 銀河」運行概要

夜行特急列車
運行時期: 2020年5月~9月
運行区間: 京都/大阪駅~出雲市駅
ダイヤ:
[下り]京都駅(21時15分)発~大阪(22時28分)発~出雲市駅(翌09時31分)
[上り]出雲市駅(16時00分)発~大阪駅(翌06時12分)着
料金(大阪駅~出雲駅):
[グリーン個室]1万6480円(運賃6600円+特急料金2640円+グリーン個室料金7240円)
[グリーン指定席]1万3430円(運賃6600円+特急料金2640円+グリーン料金4190円)
[普通車指定席]9770円(運賃6600円+特急料金3170円)
※グリーン個室料金は届出予定の金額

夜行特急列車
運行時期: 2020年10月~2021年3月
運行区間: 大阪駅~下関駅
※ダイヤ・料金など未定

「WEST EXPRESS 銀河」エクステリア

 ベースとなったのは117系。各地でさまざまなカラーになって運用されているが、そのなかでもこれほど濃く奥深い色はかついてないものだ。フロントマスクは灯火類がLEDに更新されてシャープな印象になったほかは大きな変化はないが、側面を見ると窓が大幅に変更されていることが分かる。

フロントマスクと車両側面(右から3・4・5・6号車)
1号車 グリーン車(クロ116-7016)
2号車 普通車女性席(モハ116-7036)
3号車 普通車(モハ117-7036)
4号車 フリースペース(モハ116-7032)
5号車 普通車(モハ117-7032)
6号車 グリーン個室(クロ117-7016)

「WEST EXPRESS 銀河」インテリア

 列車コンセプトのキーワードに「多様性」とあるように、WEST EXPRESS 銀河は一人旅から夫婦やカップル、ファミリー、グループなど多様なスタイルに対応するため複数のタイプの座席を設けている。その種類の多さ、車両ごとのすみ分けははっきりとしていて、全6両がすべて異なる座席構成となっている。

 自由に使えるフリースペースは3か所に設置されており、車内での自由度も高い。後述するデザインを担当した川西康之氏の言葉にもあるが、全車両を隅々まで見て回りたくなるはずだ。

1号車 グリーン車「ファーストシート」

1号車(グリーン・指定)の車内。通路を挟んで左は座席、右はベッドとした状態

 1号車と6号車がグリーン車で、そのうち1号車はシートタイプ、6号車が個室タイプ。1号車のシートは航空機のファーストクラスのイメージで「ファーストシート」という位置付けだ。幅広の1人掛けの座席が向かい合わせになっており、通路を挟んだ反対側も同様の組み合わせになっている。つまり、この車両幅で座席はわずか2列しかなく、1号車全体でも座席は計16席しかない。

 この向かい合わせのシートは1つのベッドになるため、夜行時には1号車の定員はわずか8名となる。なお、通路とは薄いカーテンで仕切ることができる。これは、ある程度人目を遮りながらも、着座した席の反対側の車窓が見えるようにと配慮した結果とのこと。

1号車は「ファーストシート」が全16席ある。通路とは薄いカーテンで仕切られる
ベッドとした状態。向かい合う2席を1つのベッドとするため、1号車の夜行時の定員は8名
テーブルを折りたたみ、シートを倒せばベッドになる構造だ
ベッド、座席ともに恰幅のよい人でもゆったりできる幅を確保している
運転台に隣接したスペースはグリーン車利用者専用のラウンジ

2号車 普通車「リクライニングシート」「クシェット」※女性専用座席

2号車は女性専用席。グループでの利用にピッタリのクシェット

 2号車は「女性専用座席」。男性でも通路は通りぬけることができるため、「女性専用車」ではない。座席は2名掛けの「リクライニングシート」が2列計7つで14席。定員4名の「クシェット」が3区画で計12席という構成だ。同様のクシェットは5号車に、リクライニングシートは3号車にもあるが、2号車は女性専用ということで暖色系のカラーでまとめられている。

 クシェットとは「簡易寝台」の意味で、見た目にはフルフラットのベッドだがクッションはやや硬めで寝具もないなど、あくまでも座席という位置付けになっている。サンライズ出雲・瀬戸の「のびのび座席」と同列の扱いだ。サンライズ出雲・瀬戸のように上下二段の大きな平面構造としたほうが座席数は増やせるが、ベース車両が117系のため高さなどで制約があり、かつてのブルートレインの解放2段式B寝台を思わせるような配置となったという。

 リクライニングシートはシートピット1200mmでフルリクライニングしても足元に余裕があり、幅も広いため、夜行バスと比べてもかなり快適なつくりになっている。通路を挟んで左右の座席を交互に配置しており、他人の視線も気になりにくい構造だ。これは車内に女性用更衣室を設けたことによるスペースのうまい処理方法といえる。また、女性専用シートのため、ほかの車両にはない女性用更衣室が2室あり、ニーズをきちんと把握して設計が行なわれたことが垣間見えた。

リクライニングシートは定員14名
シートピッチは1200mmで、シートをリクライニングしても足元が窮屈にならない
クシェットは3区画(計12名)ある。通路部分は木材を多用した仕切りで柔らかい雰囲気だ
装飾は最小限。シンプルで使い勝手がよさそうだ。サンライズ出雲・瀬戸の「のびのびシート」と同じ位置付けで、普通車指定料金で乗車可能
洗面台。通路を挟んだ向かいにトイレも設置
女性用更衣室は2号車のみで、2室設置
ベンチの奥がトイレ、向かいが更衣室で、いずれも女性専用
車両の貫通扉付近にある荷物置場。2号車には計2か所を確保

3号車 普通車「リクライニングシート」「ファミリーキャビン」

ファミリーキャビン(コンパートメント)は2室あり、定員は1室あたり昼行4名、夜行2名

 3号車は「リクライニングシート」20席、「ファミリーキャビン」と名付けられたコンパートメント(昼行時定員4名、夜行時定員2名)が2室ある。リクライニングシートは2号車のものと同じだが、シートのカラーが異なる。

 ファミリーキャビンは、仕切りにより目隠しされた広さ約2畳ほどの空間で、ソファ兼用のマットレスを置いた。その名のとおり小さな子供のいるファミリーに適した空間で、床に座って子どもと遊ぶこともでき、またキャビン入口にはベビーカーが置けるほどの空間もある。大きな窓が2つあり、眺望も採光も申し分ない。

 3号車の2号車寄りには「明星」と名付けられたフリースペースも設置。カウンターと7つのチェアから成り、小グループでの談笑、旅行計画の打合せや、ちょっとしたPCでの作業などにも使えそうだ。

リクライニングシートはシートピッチ1200mmで定員20名。回転対座も可能
手すり部分にはAC100Vのコンセントも完備
ファミリーキャビンと通路は仕切りで目隠しされている。これは2号車、5号車のクシェットと同様のもので統一感がある
昼行時(左)と夜行時(右)のファミリーキャビン。定員はそれぞれ4名、2名
3号車の約1/4の面積を占めるフリースペース「明星」。ゆったりと静かに過ごせる場だ

4号車 フリースペース「遊星」

4号車はまるごとフリースペース。乗客は自由に利用できる

 4号車には客席(指定席)はなく、1両全体がフリースペースとなっている。自由に使ってほしいという意味だろうか、「遊星」と名付けられている。カウンター、2つの大型ベンチ、4つのボックス席があり、内覧時はボックス席のテーブルにチェス、オセロ、囲碁、将棋の駒が置かれていて、この車両の可能性を見せられたようだった。

 この4号車は夜行時でも終夜照明がつき、自由に談笑できる。「私も関西人なのでよく分かるんですが、声大きくてうるさいですよね。そんなトーンでも深夜まで自由に楽しんでいただけます」と川西氏。また、詳細は未定だが、沿線地域の方がカウンターで物産を販売するような使い方も想定しているようだ。

ボックス席は4つ。テーブルの中央はチェスボード、碁盤になっており、チェスやオセロ、囲碁、将棋なども楽しめる
大型ベンチで談笑したり、ミニテーブルでドリンクを片手に車窓の景色を楽しんだり、思い思いに利用できる
大型のカウンターも設置

5号車 普通車「クシェット」「車いす対応席」

5号車のクシェットは5区画、計18席。うち2席は車いすに対応している

 5号車はクシェットのみ全18席で、このうち出入口ドアに近い2席は車いす対応となっている。トイレ、洗面台も車いす対応で、トイレはオストメイトもある多機能型。クシェットは2号車の女性専用クシェットと同等のものだが、グリーンが基調の落ち着いた色合いになっている。

クシェットの座面は寝台列車より硬めだがそのぶん寝台も薄く、室内はシンプルで広い。大型の窓から光も入り、明るく開放的だ
下段の座面は床に近く、座敷にいるかのような雰囲気。そのぶん上段も天井までの高さに余裕がある
車いす対応のクシェットで、足が不自由な人でも夜行列車を楽しむことができる。昼と夜のイメージで撮影
車いす対応クシェットは形状を工夫することで車内の移動も考慮
多機能トイレも完備。洗面台も車いす対応

6号車 グリーン車「個室:プレミアルーム」

グリーン車個室「プレミアルーム」は5室。うち1室は1人用で、定員は昼行13名、夜行9名

 6号車は1号車と同様にグリーン車。これはおそらく、モーターがない車両のため静粛性に優れていると判断されたのだろうと筆者は考える。ただし、同じグリーン車でも1号車と異なりこちらは全5室の個室となっている。内訳は、昼行時3名・夜行時2名の個室が4室、1人用個室が1室だ。カップルでの利用はもちろん、赤ちゃんの泣き声を心配しなくてもいいため、子連れのファミリーにもメリットは大きいだろう。なお、これらの個室は台形のユニークな形状をしており、ソファ席は窓方向を向いて座ることになる。

 また、6号車には運転台側にフリースペース「彗星」がある。

部屋は台形で、広いほうに2名掛けソファ、狭いほうに1名用のシートがある。大型の窓2つを独占でき、車窓の風景を堪能できる
ベッドメイクした状態。就寝定員は1室あたり2名
1人用個室も1室ある
トイレ、男性小用トイレ、洗面台。5号車の多機能トイレをのぞいて、基本的にはこの仕様だ
6号車の運転台に隣接したフリースペース「彗星」

「いかに長い乗車時間をデザインするか」

 取材の最後に、WEST EXPRESS 銀河を手掛けたデザイナーとJR西日本の担当者に話を聞いた。

 WEST EXPRESS 銀河のデザインを担当したのは、イチバンセン一級建築士事務所 代表取締役の川西康之氏。えちごトキめき鉄道「えちごトキめきリゾート 雪月花」をはじめ、みちのりHDの高速バスMEX、肥薩おれんじ鉄道のロゴタイプデザインや土佐くろしお鉄道中村駅のリノベーションなど、鉄道、バス関連のデザインも行なってきた。

 川西氏は、「デザイナーとしては、“いかに長い乗車時間をデザインするか”がテーマでした。TWILIGHT EXPRESS 瑞風のように乗務員が大勢乗ってサービスするような列車ではありませんので、お客さまが自ら長時間を楽しめるような列車づくりが必要でした。フリースペースなどを多く設けて自由にくつろいでもらえる空間をつくることと、鉄道旅いちばんの魅力である景色をいかに楽しんでいただくかを考え、窓を大きくし、寝転がりながら景色が楽しめるような設計としました」と説明。

 例えば、4号車フリースペース「遊星」は、夜行運転の場合でも夜通し照明を点ける予定だという。川西氏は、「夜遅くても、しゃべりたい人には好きなようにしゃべってもらおうというのが(客席のない)4号車です。また、沿線の皆さんが物産販売などをやっていただけるということで、それらにも対応できる設備も整えています。グリーン車など一部は立ち入り制限もありますが、乗客の皆さんにはなるべく車内を歩き回っていただいて、WEST EXPRESS 銀河を隅々まで楽しんでいただきたいですね。また、この列車が駅に停車したときにホームで見かけた人が、いつかこれに乗って山陰や瀬戸内を旅してみたいと思っていただけるような役割を担えたらうれしいですね」と話した。

株式会社イチバンセン 一級建築士事務所 代表取締役 川西康之氏

「さまざまな方にゆったりと鉄道旅を楽しんでいただきたい」

 次に、WEST EXPRESS 銀河の導入経緯や特徴について、JR西日本 営業本部 担当部長の財剛啓氏に話を聞いた。財氏によると、地方の定住人口が減っている現状に対し、JR西日本としても沿線の地域活性化が命題であると考え、交流人口を増やす取り組みが必要だとの結論に至ったという。その一つが、WEST EXPRESS 銀河に結実した。

「TWILIGHT EXPRESS 瑞風も出発点は同様ですが、あちらは車内での豪華な食事やパッケージ化した特別な観光にこだわっています。一方 WEST EXPRESS 銀河は、そもそもの計画名が『新たな長距離列車』であったことからもお察しのとおり、カジュアルに長距離の移動を楽しんでもらおうという列車です。瑞風は小さなお子さまはお乗りいただけませんが、銀河は赤ちゃん連れのファミリーやグループなど、どんなお客さまにも対応しています。さまざまな方にゆったりと鉄道旅を楽しんでいただきたいと考えております」と財氏。

 WEST EXPRESS 銀河の運行ルートは、5月~9月は関西~山陰エリア(夜行)、10月~2021年3月は関西~山陽エリア(昼行)に決定している。このルートについては、「まず第一に、直流電車で行けること、そして需要が見込める人気の観光地であることが大切です。過去のデスティネーションキャンペーンの結果や地元の皆さまのご協力、またサンライズ出雲が好調なことなどから、まずは出雲市までの運行としました。夜行列車としたのは、現地滞在時間を長くして、できるだけ楽しんでいただくためです。その次に山陽エリアでの運行を決めたのは、2020年度秋にはじまる「瀬戸内・広島デスティネーションキャンペーン」の一環です。こちらは風光明媚な瀬戸内エリアを走るため、昼行としました」という。

 また、117系をベースに改造したことについては、117系は新快速運用された列車であり、関東でも特急列車としてで活躍している実績があることから、特急運用可能と判断したのこと。「機構自体は古いので少しモーター音などもしますが、床の点検口を塞いだり、コンプレッサーも音が少ないものに交換したり、一部を除いて窓を固定したりと、ノイズを防ぐために手を入れました」。

 財氏は最後に、2021年4月以降の投入路線等については未定だが、運用のノウハウを得たうえで、定期列車や地域のイベント列車としての投入も考えていきたいと話した。

西日本旅客鉄道株式会社 営業本部 担当部長 財剛啓氏

 WEST EXPRESS 銀河は、昼でも夜でも移動を気軽に楽しむというコンセプトの長距離特急列車。最初から投入路線が決められて設計される地域色の高い観光列車とも、一般的な速達列車としての特急とも、純粋な夜行列車とも少しずつ異なるが、それらと同様の使い方もできる自由度の高さは運行者にも利用者にも大きな魅力だ。現時点では関西~山陰・山陽での運行が決まっているが、今後はさまざまなエリアやシチュエーションでその姿が見られるようになることを期待したい。