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NEXCO西日本、「異例の短期間」で完成した関空連絡橋の橋桁を公開。3月中の対面通行規制解除見込む

IHIインフラシステムと高田機工が製作

2019年2月5日 公開

NEXCO西日本が、IHIインフラシステム、高田機工が製作した関空連絡橋の橋桁を公開した

 NEXCO西日本(西日本高速道路)は2月5日、3月中の上下各2車線での通行再開予定を発表した関西国際空港連絡橋(E71)の復旧に使用する橋桁を公開した。

 関空連絡橋については、2018年9月4日に関空に接近した台風21号の影響でタンカー船が衝突したことで重大な損傷を受け、一時は完全に通行止めとなった。その後、上り線を使用した交互対面通行による緊急車両の通行開始、仮設中央分離帯の設置による同時対面通行への切り替え、鉄道の運行再開、タクシー、マイカーの通行規制解除と段階的に交通規制を緩和してきたものの、いまなお上り線を利用した対面通行規制は続いている。

 タンカー船の衝突により損傷したのは、関空島側のA1橋台とP1橋脚の間(長さ約90m)、P1橋脚とP2橋脚の間(長さ約98m)に架けられた2つの橋桁で、これら損傷を受けた橋桁は、2018年9月12日から14日にかけてクレーン船を使って撤去されている。

 関空連絡橋の構造と損傷部位について簡単に説明しておくと、海上では上下2層の構造で上層に車両用の道路、下層に鉄道が通っている。関空島に近づくと道路が上下線で左右に分離し、中央に鉄道が走るような形となる。今回損傷したのは、この道路が左右に分離した、下り線側(南側)の橋桁となる。

 橋脚への損傷は多少あったものの現場で補修。鉄道桁の損傷は比較的軽度だったことで現地で修復し、早期に復旧したのは既報のとおりである。また、さらに北側にある上り線側の橋桁も大きな損傷はなく、現在はこの上り線側のみを使って車両の通行を行なっている。

2018年9月11日付けのNEXCO西日本のニュースリリースより
台風21号通過直後の2018年9月6日に撮影した関空連絡橋
関空連絡橋の損傷部位(2月5日撮影)
写真手前側がA1橋台側、奥がP2橋脚側
A1橋台部
P2橋脚部
A1橋台(左側)とP1橋脚(右側)の間
P1橋脚(左側)とP2橋脚(右側)の間

 NEXCO西日本は2018年9月に「2019年のゴールデンウィークまでに完全復旧することを目指す」と発表。2019年1月18日には、3月中に対面通行規制を解除し、中央分離帯をはさむ上下各2車線を確保する見込みであることを発表した。関空連絡橋は元々上下各3車線の道路であり、その6車線運用への“完全復旧”はゴールデンウィークまでに完了することを目指す方針は変わっていない。

 まずは上下各2車線での再開となることについてNEXCO西日本は、下り車両を中央分離帯を越えて上り線側へ誘導している現状から元に戻す作業が必要となるためとしており、まずは対面通行規制の解除を最優先し、先行して上下各2車線で運用を行なうことにしたという。

3月中に上下各2車線による4車線化による対面通行規制解除を見込む(1月18日付けのNEXCO西日本のニュースリリースより)

 この上下各2車線への復旧は、損傷を受けて撤去されている橋台/橋脚間に新たに製作した橋桁を架設することで実現。2月12日と13日の夜間に架設作業が行なわれることも発表があったとおり。

 橋桁の製作は、IHIインフラシステム 堺工場(大阪府堺市)と、高田機工 和歌山工場(和歌山県海南市)で製作。P1~P2間の橋桁の製作をIHIインフラシステム、A1~P1間の橋桁の製作を高田機工が担った。

IHIインフラシステム(写真左)と高田機工(写真右)が新たな橋桁の製作を担った
IHIインフラシステムでの橋桁製作工程
高田機工での橋桁製作工程

 2018年9月12日から14日にかけての橋桁撤去ののち、各橋桁はIHIインフラシステム、高田機工それぞれの工場へ輸送され、陸揚げ後に損傷具合の調査が行なわれた。橋桁の製作について説明したNEXCO西日本 保全サービス事業部 改築課 課長の大原和章氏によると、IHIインフラシステムが担当するP1~P2間の桁については「全長にわたって大きな損傷を受けていたことから再利用は不可能と判断」された。

 一方、A1~P1間の橋桁については、「全長の約6割を再利用している。再利用したのは関空島の陸に掛かっている部分で、船が直接当たっていない」と説明。そのほか、A1~P1間には交通標識があるが、この標識自体も以前のものを再利用。標識を取り付けているコの字型の柱は新造したという。

 橋桁の製作は、橋桁の解体作業と並行して、鋼材/鉄工メーカーから納入した部材の加工からブロック単位での桁の製作、桁の塗装を順次12月中旬までに終え、その後、最終組み立てが行なわれて、両橋桁とも2月1日に完成を迎えた。

 通常、このような橋桁の製作には1年ほど要するというが、今回は5か月という短期間で橋桁が完成し、大原氏も「異例の期間で桁製作ができた」と話す。この理由について大原氏は、「鋼材の納期短縮」「IHIインフラシステムがラインを空けて3ライン同時に橋桁の製作作業を行なったなどの協力」「IHIインフラシステム、高田機工ともに、関空連絡橋の建設当時にJV(ジョイントベンチャー)に参加していた企業で、工場が近隣にあったこと」といった点を挙げた。

 復旧費用については、国が2018年度の補正予算として約50億円を予算計上していることから、「この範囲内で橋桁の撤去と復旧を成し遂げたい」(大原氏)としている。

西日本高速道路株式会社 保全サービス事業部 改築課 課長 大原和章氏

 こうして製作された橋桁は幅約14.5m、先述のとおり3車線分の道路に使われ、有効幅員は約13.5mとなる。橋桁の上には仮設後に約7cmの厚さでアスファルトが舗装される。ちなみに、床版は橋桁と一体化した鋼床版となっており、コンクリート床板などは敷設されない。上部にはフローティングクレーンで吊り上げる際のフックをかける部品が取り付けられている。

 いずれの橋桁も中央がやや盛り上がったような形状となっており、両端を架設して自重で中央部が沈みこんだときに水平となるよう設計されている。

 また、製作された下り線側の橋桁の内部には、NEXCO西日本の通信や電力ケーブル、大阪ガスのガス管、NTTの通信ケーブルも通っている。後述する橋桁の写真で、桁の外側に足場があるが、それがガス管が通っているところで、こちら側が鉄道桁側(橋の内側)となる。

 ガス管は上り線側の橋桁にも設置されていたことで関空島への供給が止まることがなかったが、NTTの通信ケーブルは9月4日の損傷直後、関空島内の電話やインターネット通信などが途絶える事態が発生した。損傷した橋桁の撤去が行なわれる前に仮設のケーブルをほかの橋桁へ迂回させているというが、こちらも下り線側の橋桁へ本復旧することになる。

 今後、2月7日に高田機工、2月8日にIHIインフラシステムでそれぞれ台船への積み込み(浜出し)作業が行なわれ、既報のとおり、2月12日夜にA1~P1間、13日夜にP1~P2間をフローティングクレーン船を用いて関空連絡橋へと架設する。

 架設にあたっては夜間の作業を最短とすべく、昼間のうちにフローティングクレーンでの吊り上げ作業を実施する。吊り上げた状態での待機が続くことになるが、架設作業が行なわれる時間帯を除いては、関空島からやや離れた位置で待機することで航空機の離着陸に影響が出ないようにするという。下り2車線、上り1車線で運用している上り線の3車線についても、夜間の架設作業中は、上り/下り各1車線の対面通行に規制する予定としている。

高田機工が製作したA1橋台~P1橋脚間の橋桁

 高田機工が製作したA1橋台~P1橋脚間の全長約90mの橋桁は、先述のとおり関空島(A1橋台)寄りの約6割を再利用。その違いは遠くからはよく分からないが、よく見ると表面の光沢や凹凸の具合がやや異なっている。再利用桁と新造桁では塗料に使う溶剤が異なるために違って見えるというが、揮発成分なので、時間が経てばさらに違いが分かにくくなるそうだ。

 このほか、A1橋台側のジョイント部品もそのまま残されている。ただし、現在関空島上に残されている橋桁からはジョイント部品が取り外されており、架設後に位置合わせをしたうえで接合することになる。

 橋桁そのものはほぼ直線で、関空島寄りのところに配水管があるのが外観上の特徴となっている。橋桁の内部を通っているNTTの通信ケーブルは、関空島の上部にさしかかったところで橋桁の底部から抜ける構造となっている。

高田機工株式会社 和歌山工場で製作されたA1橋台~P1橋脚間の橋桁。写真手前がA1(関空)側。見えているのは海側(橋の外側)となる
塗装の光沢が異なる部分があるが、これが再利用桁と新造桁の違い。奥側が新造の桁となる
この継ぎ目の右側が新造、左側が再利用の部分
右奥が新造した部分だが、角度によってはほぼ違いが分からない
新造した部分の表面
再利用した部分の表面
継ぎ目の奥が再利用した部分で、手前が新造の部分
ジョイント部品も従来の橋桁から再利用している
鉄道桁寄りの側面
海側の側面に配水管が設置されている
底部
底部の陸寄り部分に、NTTの通信ケーブルを取り出す配管口
両端。ハシゴのようなものが横たわっているところにはNEXCO西日本の電力ケーブルや通信ケーブルなどが通る
橋桁の上部
向かって右側が新造、左側が再利用した部分
向かって右側が再利用、左側が新造した部分
照明のためのポールも、NEXCO西日本がほかの場所から調達したという再利用品
標識も再利用しているが、コの字型の柱は新造したもの
両端にフェンスが1枚置かれていたが、これは架設後に現場で取り付け作業を行なうもの
こちらのA1~P1間が先に架設を行なう桁となるので、隣のP1~P2間の橋桁との間にクッションとなる木材を設置している
P1橋脚に乗せる支承
これは運搬用の台船に乗せる際の台

IHIインフラシステムが製作したP1橋脚~P2橋脚間の橋桁

 IHIインフラシステムが製作したP1橋脚~P2橋脚間の全長約98mの橋桁は、先述のとおりゼロから作り直したものとなる。この区間はりんくうタウン側から走行すると、やや右にカーブする線形となっており、橋桁もそうした形状となっている。

 こちらは橋桁の内部も見学することができ、中央に通路を挟んで、海側にNTTの通信ケーブル、鉄道桁側にNEXCO西日本が使用するケーブルが敷設されていた。

株式会社IHIインフラシステム 堺工場で製作されたP1橋脚~P2橋脚間の橋桁。写真右側がP1側(関空側)で、見えている側面は鉄道桁側(橋の内側)となる
橋桁の外観
底部
支承(P1側)
鉄道桁側のガス管と足場
海側の側面部
下り線の進行方向とは逆方向から見たものとなるが、りんくうタウン側(写真の奥側から手前に向かって)から走行すると緩やかに右カーブを描く線形となることから、橋桁もカーブした形状になっている
橋桁の上部。写真中央の奥の方がややカーブしている
排水溝。この厚みがアスファルト舗装の厚さとほぼ同じ約7cmとなる
P1側(関空寄り)。3つの穴は、中央が通路、左がNEXCO西日本のケーブル、右がNTTの通信ケーブル用
NEXCO西日本の電力や通信ケーブルなど
橋桁内部の様子
2月5日に撮影した関空連絡橋。間もなく新たな橋桁が架設される